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文献詳細

雑誌文献

生体の科学66巻3号

2015年06月発行

文献概要

特集 進化と発生からみた生命科学

脊椎動物頭部の起源

著者: 尾内隆行1

所属機関: 1理化学研究所倉谷形態進化研究室

ページ範囲:P.196 - P.201

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 脊椎動物は大きな脳とそれを包む頭蓋,二つの目,顎などによって構成される明瞭な頭部を持つ。この極めて複雑で神秘的な構造物は人々の興味を駆り立ててきた。古くは古代ギリシャ時代,哲学者のAristotelēsは脊椎動物の形態を『動物誌』1)に記載した。Aristotelēsは動物を大きく有血動物と無血動物に分けた。この分類は,19世紀にフランスの博物学者Lamarckによって脊椎動物と無脊椎動物に修正された2)。19世紀,欧州の動物学者たちは盛んに動物種間の形態的な関連性を追求した。なかでも詩人にして形態学の創始者でもあったドイツのGoetheは,1790年代に当時欧州で隆盛していた理想主義の思想的影響のもと,動物には根源的な原型(ultypus)が存在し,その原型が変化することによってありとあらゆる動物が導出されるという仮説を唱えた3)。この仮説は,1859年に進化論を発表した英国の自然科学者Darwinにも影響を与えたということからも,ゲーテ的な視座で動物の類縁関係を考察するという思考様式は非常に有用な手段であったのであろう。ゲーテ形態学の教義はtransformation(変容)であり,動物の形が生じる現象に非常に動的なイメージを持っていた。また,形に変化を引き起こす自然界の力には,外的なものと個体の内部に宿る内的なものがあると考えた。そして,胚発生過程においてはこのような力が働き形を作り,すべての脊椎動物の形には共通性があると考えた。この共通性は,いまの進化学で言うところの祖先形質として語られる概念であるが,理想主義に傾倒していたGoetheが進化を予見していたのかどうかに関しては,いまだに議論の余地がある4)
 脊椎動物頭部の起源に関するGoetheの仮説には椎骨仮説(1790年)がある5)。Goetheは羊の頭骸骨を観察し,骨の相対的位置関係はそれよりも後の椎骨の分節的構造と似ており,頭骸骨は椎骨が変化することによってできたと考えた。この椎骨仮説は,1857年英国の動物学者Huxleyによって否定される。一方で,Huxleyによる比較骨学を用いたアプローチ法の否定は,更なる方法論を人々に探求させる契機を与える。「そもそも脳神経や頭部筋から構成される頭部は筋節と脊髄神経から成る体幹部のように分節しているのか?」という疑問は,このときから比較発生学をその主要な学とし,様々な胚を観察することで動物学者はその答えを出そうとした。しかしながら,今日に至るまでわれわれが脊椎動物の頭部進化の歴史をはっきりと理解したとは言いがたい。このことは,現在主流である分子還元論的に動物の進化を理解することの意味を改めて考えさせる。本稿では,脊椎動物頭部の起源がGoetheの思想を下敷きにどのように再咀嚼できるのか説明する。

参考文献

1)Aristotle:History of Animals, in fourth century BC
2)Lamarck JB:Zoological Philosophy, An Exposition with regard to the Natural History of Animals. Dentu, Paris, 1809
3)von Goethe JW:Vorträge über die drei ersten Kapitel des Entwurfs einer allgemeinen Einleitung in die vergleichende Anatomie. Morphologische Hefte, 1796
4)Richards RJ:Did Goethe and Schelling Endorse Species Evolution? In Lambier J, Faflak J(eds):Marking Time:Romanticism and Evolution. University of Toronto Press, Toronto
5)von Goethe JW:Das Schädelgrüt aus sechs Wirbelknochen aufgebaut. In Zur Naturwissenschaft überhaupt, besonders zur Morphologie, Vol.2. Ger, J.G.Gotta, Stuttgart/Tübingen, 1790
. 470:255-258, 2011
. 439:965-968, 2006
. 10:736-746, 2009
. 83:122-150, 2005
. 4:27, 2013
. 514:490-493, 2014
. 210:518-521, 2000
13)Stéphanie Correia de Matos David Bosne:The Eph/ephrin Gene Family in the European Amphioxus- an Evo-Devo Approach. Universitydade de Lisboa, Lisboa, 2009
. 183-193, 1992
15)Kay BK, Peng HB:Xenopus laevis, Practical Uses in Cell and Molecular Biology, Vol 36. Academic Press, San Diego, 1991
. 127:4981-4992, 2000
. 14:338-350, 2012

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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