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増大特集 細胞シグナル操作法 Ⅰ.分子からみたシグナル操作法 3.キナーゼ
Jak-STAT経路
著者: 野阪哲哉1
所属機関: 1三重大学大学院医学系研究科感染症制御医学・分子遺伝学
ページ範囲:P.420 - P.421
文献購入ページに移動 Jak(Janus kinase)は,キナーゼ活性を持たないタイプのサイトカイン受容体におけるシグナル伝達に必須のチロシンリン酸化酵素であり,リガンド刺激後,Jakの活性化によって細胞内情報伝達が開始される。哺乳類ではJak1,Jak2,Jak3,Tyk2の4種のJakがある。Jakはサイトカイン受容体とSTAT(signal transuducer and activator of transcription)のチロシンをリン酸化する。STATは,哺乳類ではSTAT1からSTAT6まで(STAT5のみA,Bが存在)6種7個の分子が存在する。チロシンがリン酸化されたSTATはホモ二量体(場合によってはヘテロ二量体)を形成した後,核内に入り,DNAに結合することによって標的遺伝子の転写を活性化する1)。例えばJak2の活性化は,リガンド刺激によるJak2同士の会合によって,キナーゼドメイン内の活性化ループのY1007,Y1008が自己リン酸化(正確には会合した相手によってトランスリン酸化)されることによって起こる(図)。Jak-STATシグナルの負のフィードバック機構としては,フォスファターゼ以外にSOCS(suppressor of cytokine signaling,SOCS1-7,CIS1から成る)とPIAS(protein inhibitor of activated STAT,PIAS1-4から成る)が知られている。ヒトJak2のV617Fは偽キナーゼドメイン内にみられる体細胞変異であり,真性多血症などの骨髄増殖性疾患の原因となる。その分子機構は,キナーゼ活性の負の調節がかからず,恒常的に活性化されることによる。ほかに,STAT3のDNA結合領域とSH2領域における優勢抑制変異・欠失は1型高IgE症候群,Tyk2の欠損は2型高IgE症候群,Jak3の欠損は重症複合免疫不全症を起こす。Jak-STAT経路の活性化を簡便に検出する方法は幾つかあり,キットも市販されている。Jak,STATの阻害剤も開発されており,がんや関節リウマチなどの治療に用いられている。
参考文献
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