増大特集 細胞シグナル操作法
Ⅰ.分子からみたシグナル操作法 3.キナーゼ
TGF-β/Smad経路
著者:
今村健志1
大嶋佑介1
所属機関:
1愛媛大学大学院医学系研究科分子病態医学講座
ページ範囲:P.424 - P.425
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Transforming growth factor(TGF)-βは,骨形成因子(bone morphogenetic protein;BMP)やアクチビンなどの因子とスーパーファミリーを形成し,細胞増殖・分化からアポトーシスまで多くの生命現象において重要な働きを担い,がんから免疫病まで多くの病態に関与している。TGF-βは,多くの場合,潜在型として産生され,活性化を受けた後,成熟型の二量体タンパク質として作用する。TGF-βは,細胞表面の2種類のセリン/スレオニンキナーゼ型レセプターと結合し,主に細胞内のSmadタンパク質を介して,そのシグナルを伝達する1)。Samdには,特異的なシグナルを伝えるR-Smad(receptor-regulated Smad),すべての経路で共通に用いられるCo-Smad(common-mediator Smad)とシグナルに抑制的に作用するinhibitory Smad(I-Smad)の3種類がある。具体的には,TGF-βがⅡ型TGF-βレセプター(TβR-Ⅱ)と結合するとⅠ型TGF-βレセプター(TβR-Ⅰ)がリクルートされ,2種類のセリン/スレオニンキナーゼ型レセプターの四量体形成が起こり,TβR-Ⅰのキナーゼが活性化される。すると,TGF-β特異的Smad2/3がTβR-Ⅰによってリン酸化を受け,Co-SmadであるSmad4と複合体を形成して核内に移行する。核内移行したSmad複合体は,様々な転写因子,転写のコアクチベーターやコレプレッサーなどの転写共役因子と結合して,標的遺伝子のプロモーターに結合してその活性を制御する。抑制型Smad7は,TGF-βによって発現が誘導され,Smad経路を抑制し,ネガティブフィードバックループを形成する1)(図)。また,TGF-β/Smad経路は,E3ユビキチンリガーゼSmurfなどによるユビキチン化を初め,様々な翻訳後修飾によって制御されている2)。一方,Smad非依存的(non-Smad)経路も存在し,ある状況下では,TGF-βによってMAPK経路などが活性化される。