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文献詳細

雑誌文献

生体の科学66巻5号

2015年10月発行

文献概要

増大特集 細胞シグナル操作法 Ⅰ.分子からみたシグナル操作法 3.キナーゼ

Protein kinase C(PKC)

著者: 吉川潮1

所属機関: 1神戸大学自然科学系先端融合研究環バイオシグナル研究センター

ページ範囲:P.430 - P.431

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 プロテインキナーゼC(protein kinase C;PKC)はセカンドメッセンジャー依存性セリン/トレオニンプロテインキナーゼであり,哺乳類では10種類のサブタイプから成るファミリーとして存在する。当初はCa2+依存性プロテアーゼによる切断から生じる活性フラグメントの前駆体として見いだされ,次いでタンパク質分解反応ではなくリン脂質に依存して活性化を受けることからCa2+-activated, phospholipid-dependent protein kinaseと命名された。省略名としてCa2+の頭文字Cからprotein kinase Cが用いられ,簡略にPKCとも呼ばれている。更に,有効な脂質の解析からジアシルグリセロールがPKCの活性化に必要なCa2+とリン脂質への親和性を高めることが示され,受容体刺激により細胞膜ホスファチジルイノシトール-4,5二リン酸の加水分解により生成されるジアシルグリセロールがセカンドメッセンジャーとしてPKCを活性化し,他方の分解産物であるイノシトール-三リン酸が細胞内Ca2+濃度を上昇させることにより,細胞応答を誘導するシグナル機構の存在が明らかとなった(図)。また,PKCは発がんプロモーターであるホルボールエステルによりジアシルグリセロールと同様の機構で活性化を受けることから,ホルボールエステルの標的としても作用すると考えられる。
 PKCサブタイプはアミノ末端側に調節ドメイン,カルボキシル末端側に触媒ドメインを持ち,前者の構造モチーフから3群に分類されている(図)1)。cPKC(c;classicalあるいはconventional)群はPKCの発見以来,生化学的検討が進められてきた酵素に相当する。調節ドメインにはこの群の間で相同性を示す領域が2か所存在し,それぞれC1領域,C2領域(ConservedまたはCommon)と命名された。C1領域はZnフィンガー様モチーフの2回繰り返し構造を含むジアシルグリセロールおよびホルボールエステルの結合部位,C2領域はCa2+を介したリン脂質結合部位であり,両領域ともPKC以外のタンパク質にも構造モチーフとして存在する。nPKC(n;novelあるいはnew)群はその酵素活性にCa2+を必要とはしないものの,ジアシルグリセロールにより活性化されホルボールエステルの結合能を有する。調節ドメインにはC1領域が存在し,アミノ末端にC2領域に類似したリン脂質結合領域が存在する。aPKC(a;atypical)はZnフィンガー様モチーフを持つもののジアシルグリセロールにより活性化されないが,発見の経緯と構造の特徴からこの名称が用いられている。一方,触媒ドメイン内とカルボキシ末端領域には活性化ループ,ターンモチーフおよび疎水性モチーフと呼ばれるリン酸化部位が存在する。これらの部位は構成的にリン酸化を受けており,その変動が酵素活性の制御にかかわるというよりは触媒活性の発揮に必要な修飾反応である。なお,PKCファミリーは基質特異性が広く試験管内では多くのタンパク質をリン酸化する。また,PKCはサブタイプごとに組織発現,生化学的性質,結合タンパク質,細胞内局在・挙動に差異がみられることから,それぞれが特異的なシグナルの伝達に対応している可能性が高く,様々な観点から各PKCサブタイプがかかわる細胞内シグナル機構の解析が行われている。

参考文献

. 132:509-511, 2002
. 200:228-234, 1991
. 132:663-668, 2002
. 35:1018-1020, 2007
. 21:785-791, 2011

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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