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増大特集 細胞シグナル操作法 Ⅰ.分子からみたシグナル操作法 4.その他
NAD+関連タンパク質
著者: 伊藤昭博1 八代田陽子1 吉田稔1
所属機関: 1理化学研究所吉田化学遺伝学研究室
ページ範囲:P.454 - P.455
文献購入ページに移動サーチュインはバクテリアからヒトまで種を超えて保存され,NAD依存的なリジン脱アセチル化酵素活性を有する。サーチュインは,NADのリボース部位にアセチル基を転移することにより基質タンパク質を脱アセチル化するが,その過程でニコチンアミドとO-アセチル-ADP-リボースが生産される(図)。ヒトにおいて7種類のアイソフォーム(SIRT1-7)が存在し,細胞内代謝状態のセンサーから老化,癌化,DNA損傷に至るまで多くの生命機能に関与すると考えられている。サーチュインは脱アセチル化酵素活性に加えて,脱アシル化酵素活性を有することが最近明らかになり,その生理的役割は更に広がることが予想される。また,サーチュインは癌だけでなく,神経変性疾患,代謝疾患など様々な疾患と密接に関与しており,疾患治療薬の標的分子としても着目されている。
PARPはNADを基質として,NAD分子中のADP-リボースをアクセプタータンパク質に連鎖付加させる酵素であり(図),ヒトでは17種類以上のPARPファミリー分子が存在する。PARPによるポリADPリボシル化は真核生物に特異的な翻訳後修飾であり,DNA修復,転写制御,細胞死など,多くの細胞機能において重要な役割を果たしている。代表的なメンバーであるPARP1はDNA損傷に伴い活性化され,DNA損傷修復に寄与することが知られている。近年,癌抑制遺伝子であるBRCA1/2変異癌において,PARP1の阻害は合成致死を引き起こすことが明らかになり,BRCA1/2変異を有する乳癌や卵巣癌などの分子標的治療薬として,PARP1/2阻害剤の開発が活発に行われている。また,PARPメンバーの一つであるタンキラーゼは,テロメア伸長の維持,β-カテニン経路に関与し,新しい癌治療の分子標的因子として注目されている。
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