特集 記憶ふたたび
15.社会的記憶が“異性の好み”を生み出す神経機構
著者:
奥山輝大1
竹内秀明2
所属機関:
1マサチューセッツ工科大学ピカワー学習記憶研究所利根川研究室
2岡山大学大学院自然科学研究科分子行動学研究室
ページ範囲:P.71 - P.75
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ヒトにおいて恋愛や結婚は人生を彩る重大なイベントであり,生物として子孫を残すうえでも重要な意味を持つ。これまでに,心理学分野で異性を配偶相手として選択するヒトの基準や,異性を魅力的に感じる基準について数多くの研究が行われてきた。例えば,ヒトの顔に着目した研究では,ヒト集団の特徴を平均化した“平均顔”が異性から魅力的に見えるという仮説がある1)。また,ヒト以外の動物でも“外見”が異性の好みの基準になることがある。例えば,熱帯魚の一種であるグッピーのメスは,尾のオレンジ色の斑点の大きさと数を基準にして配偶相手を選択する2)。また,コクホウジャクという鳥のオスは,繁殖期になると尾羽の一部が50センチ程度伸びるが,メスはこの尾羽の長さを基準に配偶相手を選択する3)。このように,魚類・鳥類からヒトまで,“外見”が異性の魅力に強い影響を与える。しかしながら,われわれヒトも“外見”だけで配偶相手を決めないように,幾つかの動物において,社会的経験や個体の記憶が“異性の好み”に影響を与えることがわかってきた。本稿の前半では,社会的な記憶・経験が“異性の好み”に影響を与える例を,魚類から霊長類まで幅広く紹介する。また,2014年に筆者らは分子遺伝学のモデル生物であるメダカを用いることで,社会的な記憶・経験が“異性の好み”を生み出す分子神経基盤を解明することに成功した4)。本稿の後半では,筆者らの最新の知見について紹介したい。