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特集 細胞の社会学─細胞間で繰り広げられる協調と競争 Ⅰ.細胞競合の分子細胞遺伝学
細胞競合と代償性増殖におけるJNKシグナルの役割
著者: 榎本将人1
所属機関: 1京都大学大学院生命科学研究科システム機能学分野
ページ範囲:P.101 - P.106
文献購入ページに移動 多細胞生物を構成する個々の細胞は,互いに影響し合いながら様々なシグナルを放出/受容することで,細胞増殖,分化,細胞運動,形態変化や細胞死を時空間的に制御しており,このような細胞同士の協調によって正常な組織発生や恒常性維持が実現されている。その一方で,細胞同士は協調のみならず競合によっても,細胞間コミュニケーションを介した生体制御システムを構築していることが近年明らかになってきた。細胞間の競合現象である“細胞競合”は,同種の細胞が生体内環境への適応度を競合し,相対的に適応度の低い細胞(敗者)が組織から排除され,適応度の高い細胞(勝者)がその場に置き換わる現象である。その生理的役割として発生過程のロバストな組織構築,ニッチにおける優良幹細胞の選別,組織中の異常細胞の除去やがん細胞による周辺細胞の駆逐など,多様な機能を持つことが示されつつある。
細胞競合が適応度の低い細胞を敗者として組織から排除する現象であるのに対して,失われた敗者細胞の数を補い,組織の細胞数を一定に保つ“代償性増殖”という現象が知られている。代償性増殖は,死にゆく細胞が自身の死の代償として周辺細胞の増殖を促す細胞非自律的な増殖機構であり,細胞競合の過程において敗者として死にゆく細胞は,周辺細胞の増殖を促すことで生体恒常性を維持していると考えられている。更に最近の研究から,細胞競合の敗者となる細胞が代償性増殖を介して,がん進展を促す局面が存在することが示唆されている。そこで本稿では,ショウジョウバエ遺伝学的解析から明らかになりつつある細胞競合と代償性増殖の分子機構とそれらの破綻によるがん進展制御に中心的役割を担うc-Jun N-terminal kinase(JNK)シグナル経路に焦点を当て,細胞間コミュニケーションによる多細胞社会の秩序形成システムについて考察したい。
細胞競合が適応度の低い細胞を敗者として組織から排除する現象であるのに対して,失われた敗者細胞の数を補い,組織の細胞数を一定に保つ“代償性増殖”という現象が知られている。代償性増殖は,死にゆく細胞が自身の死の代償として周辺細胞の増殖を促す細胞非自律的な増殖機構であり,細胞競合の過程において敗者として死にゆく細胞は,周辺細胞の増殖を促すことで生体恒常性を維持していると考えられている。更に最近の研究から,細胞競合の敗者となる細胞が代償性増殖を介して,がん進展を促す局面が存在することが示唆されている。そこで本稿では,ショウジョウバエ遺伝学的解析から明らかになりつつある細胞競合と代償性増殖の分子機構とそれらの破綻によるがん進展制御に中心的役割を担うc-Jun N-terminal kinase(JNK)シグナル経路に焦点を当て,細胞間コミュニケーションによる多細胞社会の秩序形成システムについて考察したい。
参考文献
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