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文献詳細

雑誌文献

生体の科学67巻2号

2016年04月発行

文献概要

特集 細胞の社会学─細胞間で繰り広げられる協調と競争 Ⅲ.がんにおける細胞の協調と競争

最小単位としてのがん細胞集団

著者: 井上正宏1

所属機関: 1大阪府立成人病センター研究所生化学部

ページ範囲:P.142 - P.145

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 最小単位という言葉を,ここでは「分割をしていくとどこかでその性質が失われる直前のもの」と定義する。では,がんの最小単位は何か? と問われれば,単細胞と答えるのが常識的である。確かに,培養細胞株を用いた実験をしていると,がんの最小単位は単細胞であるという強い印象を受ける。しかし,単細胞にどれくらいのがんとしての性質が保持されているのかについて,これまでに突き詰めた検証は案外されていない。がんの最小単位が単細胞であるという考えは,転移モデルにおいて前提として採用されている。すなわち,がん細胞は単細胞として原発巣の細胞集団から遊離し,遊走して脈管内に侵入,血流やリンパ流に乗って転移巣へ運ばれて脈管壁に接着し,脈管外に侵入し,そこで起源細胞になって増殖し,転移巣を形成する,というシナリオである1)。この考え方に従って細胞株を使った多くの研究が行われてきた。更に近年,上皮間葉転換(epithelial-mesenchymal transition;EMT)やがん幹細胞の概念が入って,単細胞最小単位説は確定したかのようにみえる。EMTは上皮由来のがん細胞が間葉系細胞の特性を持つようになる現象であるから,単細胞最小単位説に理論的根拠を与えている2)。がん幹細胞では,がん細胞の中で一部の特別な単細胞だけが自己再性能と分化能を持ち,がんの起源となるとするセオリーである3)。しかし,これらは実験に基づく仮説であり,同じことががん患者の体内で起こっていることが直接証明されているわけではない。

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掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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