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特集 脂質ワールド Ⅲ.新規脂質メディエーターと受容体
古くて新しい脂質メディエーター・12-ヒドロキシヘプタデカトリエン酸の生理作用
著者: 横溝岳彦1
所属機関: 1順天堂大学大学院医学研究科生化学第一講座
ページ範囲:P.232 - P.236
文献購入ページに移動筆者が子どものころは,「怪我をしたら傷口をよく洗って毎日消毒しなさい。乾燥させて,カサブタができるようにね。」と教えられたが,最近の考え方は大きく変わってきている。怪我をしたら,最初こそ流水で洗うものの,その後の消毒は最低限にとどめたほうが良い。毎日消毒するのではなく,フィルムや保護剤で傷を覆って湿潤な環境を保つことで再上皮化が促進され,結果的に創傷治癒が早まるという。この考え方は怪我だけではなく,手術で切開された皮膚や,褥瘡(床ずれ)の治療にも応用されている。湿潤な環境では再上皮化,すなわち,ケラチノサイト(皮膚角化細胞)の増殖や移動が促進される。また,創傷部位の滲出液や,出血後の血餅からは,VEGF(vascular endothelial growth factor)やTGF-β(transforming growth factor-β)が放出され,それぞれ血管新生や線維芽細胞の増殖を促して,創傷治癒を早めることがわかっている。しかしながら,創傷治癒に最も重要なケラチノサイトに働き,再上皮化を促進する因子はこれまで知られていなかった。筆者らは生理活性脂質受容体であるBLT2という細胞膜受容体の研究を通じて,創傷部位で活性化された血小板から産生される12-ヒドロキシヘプタデカトリエン酸(12-HHT)という酸化脂肪酸が,ケラチノサイトに発現するBLT2を活性化することで,ケラチノサイトの移動を促進して再上皮化が促進されることを見いだした(図1)。この発見に至る経緯を以下にまとめてみたい。
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