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文献詳細

雑誌文献

生体の科学67巻3号

2016年06月発行

文献概要

特集 脂質ワールド Ⅳ.種を越えた脂質の働き

ショウジョウバエのリン脂質輸送タンパク質─ユニークな形質膜のリン脂質の組成と分布

著者: 長尾耕治郎1 塩見晃史1 梅田眞郷1

所属機関: 1京都大学大学院工学研究科合成・生物化学専攻生体認識化学分野

ページ範囲:P.247 - P.251

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 脂質二重膜構造から成る形質膜は,細胞の内部と外界を隔てる障壁としてだけではなく,物質の分泌や吸収,シグナル伝達など様々な細胞機能にも重要である。この形質膜を構成するリン脂質は形質膜の物性や構造に影響を与え,更にリン脂質との相互作用によりタンパク質の局在や機能が変化する。このため,形質膜を構成するリン脂質の“組成”と“分布”は細胞の恒常性を維持するために厳密に制御されている。
 哺乳動物や植物,酵母の形質膜には,極性部分にコリンを有するホスファチジルコリン(phosphatidylcholine;PC)が主要なリン脂質成分として存在している。このPCは極性部分と非極性部分が占める体積のバランスが良く,シリンダー型脂質と呼ばれ,水溶液中で安定な脂質二重膜構造を形成する1)。このため,これらの生物はPCを主要なリン脂質成分とすることで安定な形質膜を形成していると考えられる。ところが,モデル生物として有用なショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)は,極性部分にエタノールアミンを持つホスファチジルエタノールアミン(phosphatidylethanolamine;PE)を主要なリン脂質成分として利用している2)。PEはPCと比較して極性部分が小さいため,ヘキサゴナルⅡ構造などの特異な分子集合体を形成する性質を持つ。このようなPEをショウジョウバエがなぜ形質膜の主要成分としているのかは不明である。また,近年のリピドミクス解析では,300以上のリン脂質分子種のショウジョウバエの発達における変動が解析されており,発達の特定のステージにおいてリン脂質のダイナミックなリモデリングが起こることが報告されているが,それぞれの脂質分子の役割については不明である3)。ショウジョウバエが発生学や生理学,免疫学における重要なモデル生物として長年研究されてきたこと,更に昨今のショウジョウバエの遺伝学における技術進歩により,ショウジョウバエの遺伝子やタンパク質の機能に関する知見は蓄積しているが,ショウジョウバエのリン脂質については不明な点が多く残されている。

参考文献

1)梅田真郷:脂質のダイナミクス.梅田真郷,編:生体膜の分子機構,pp153-192.化学同人,京都,2014
. 79:23-33, 1994
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. 111:7831-7836, 2014
. 10:e1004209, 2014
. 190:1299-1308, 2012
13)Nagao K, Juni N, Umeda M:Membrane lipid transporters in Drosophila melanogaster. In Yokomizo T, Murakami M(eds):Bioactive Lipid Mediators, pp165-180. Springer Japan, Tokyo, 2015

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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