特集 認知症・神経変性疾患の克服への挑戦
Ⅲ.新たな技術開発によるチャレンジ
パーキンソン病の遺伝子治療
著者:
村松慎一12
所属機関:
1自治医科大学内科学講座神経内科学部門
2東京大学医科学研究所遺伝子・細胞治療センター
ページ範囲:P.319 - P.322
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パーキンソン病は,無動・寡動,動作緩慢,静止時振戦,姿勢反射障害などの運動機能障害を主症状とし,神経変性疾患ではアルツハイマー病に次いで多い。人口の高齢化と共に増加しており,わが国では15万人以上が罹患していると推定されている。5-10%の症例ではα-シヌクレイン,LRRK2,Parkin,DJ-1などの遺伝子変異が同定されているが,大部分の症例は原因不明である。中核となる病理変化は黒質緻密部から線条体(被殻と尾状核)に投射するドパミン神経細胞の脱落で,線条体におけるドパミンの欠乏が運動症状の発現に関連している。病初期には血液脳関門を通過しにくいドパミンに代わりその前駆物質のL-dopaを服用すると著効するが,やがて神経変性が進行するとL-dopaの効果は減弱し,ウエアリングオフやオン・オフ現象と称される運動合併症が出現する。高用量のL-dopaの頻回投与が必要となり,血中濃度の変動に伴い不随意運動が認められるようになる。そのため,薬物に代わる治療法が求められている。
パーキンソン病は,神経疾患の中でも遺伝子治療の研究が最も進んでいる。その理由としては,①視床下核の深部脳刺激,視床の凝固術などの定位脳手術が確立している,②胎児細胞移植の臨床研究が行われている,③選択的ドパミン神経毒により運動症状を呈する動物モデルが作製可能で前臨床試験が行いやすい,などが挙げられる。