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文献詳細

雑誌文献

生体の科学67巻6号

2016年12月発行

文献概要

特集 時間生物学の新展開

中枢時計としての視交叉上核

著者: 黒岩沙也華1 岡村均12

所属機関: 1京都大学大学院薬学研究科システムバイオロジー分野 2

ページ範囲:P.517 - P.521

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Ⅰ.時計遺伝子と視交叉上核
 生体リズムの理解は,時計遺伝子(clock genes)が発見されたことで大本から変わってしまった1,2)。時をつかさどる時計遺伝子は,通常の細胞にある数個の転写因子の一群であり,数千もの遺伝子を周期的に発現させて,細胞周期,エネルギー代謝を時間的オーダーで管理している。すなわち,時を刻む時計遺伝子の時間装置は全身の細胞にあり(細胞時計),生体リズムは全身の細胞で出現することがわかったのである。では,これまで生体リズムの発振中枢とされてきた視交叉上核(suprachiasmatic nucleus;SCN)の役割は何なのであろうか?
 たとえ全身の細胞に時間装置があっても,これまでに得られた,「SCNを破壊すると生体リズムは完全に止まる」というSCNの重要性を示すデータは覆らない3,4)。完全に全身の時計が止まっているCry-nullマウス5,6)に野生型(WT)マウスのSCNを移植すると,24時間周期の行動リズムが回復する7)。すなわち,SCN以外の組織には時計がなくても,SCNの時計のみが24時間周期を回復すると,個体としての24時間周期の行動リズムは惹起されるのである(図1)。以上の事実は,SCNには,時計遺伝子以外の生命階層でのリズム発振の,未知の機構があることを示唆している。

参考文献

1)岡村 均,深田吉孝編:時計遺伝子の分子生物学.シュプリンガー・フェアラーク,東京,2004
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掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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