連載講座 生命科学を拓く新しい実験動物モデル-9
ショウジョウバエを用いた神経変性疾患研究
著者:
鈴木マリ1
永井義隆1
所属機関:
1大阪大学大学院医学系研究科神経難病認知症探索治療学寄附講座
ページ範囲:P.589 - P.595
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アルツハイマー病,パーキンソン病,筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患の多くは原因不明で,有効な治療法もいまだに確立されていない。疾患の多くは加齢に伴い発症するため,高齢化社会の進むわが国において患者数の増加が予想されている。また,患者のquality of life(QOL)の損失および介護にかかる労力も多大であることから,これらの疾患の予防・治療法の開発は喫緊の課題となっている。予防・治療法開発につながる病態研究の大きな契機は,分子遺伝学解析手法の進歩に伴って1990年代ごろから遺伝性神経変性疾患の原因遺伝子が次々と同定されたことである。同定された原因遺伝子の遺伝子改変動物モデルを作製して病態・治療解析を行うことが,今では疾患研究ストラテジーの主流となっている。ショウジョウバエは遺伝学的解析に優れた小型モデル動物の一つであり,哺乳動物モデルに比べてハイスループットな解析が可能であることから,神経変性疾患研究における有用なツールとして幅広く利用されている。本稿ではモデル動物としてのショウジョウバエの特徴,および神経変性疾患モデルショウジョウバエを用いた研究について概説し,最後に筆者らが行ったパーキンソン病モデルショウジョウバエを用いた研究を紹介する。