icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

生体の科学68巻1号

2017年02月発行

雑誌目次

特集 大脳皮質—成り立ちから機能へ

特集「大脳皮質—成り立ちから機能へ」によせて

著者: 岡本仁

ページ範囲:P.2 - P.3

 大脳皮質は,脊椎動物の脳の進化の過程で哺乳類だけが獲得した構造である。人間だけが持つ豊かな心の機能も,この大脳皮質が進化的に発達を遂げてきた結果として生まれたと考えられる。したがって,大脳皮質の構造がどのように作られるのか(発生するのか)を知り,その構造がどのような機能につながっているのかを知ることは,心の誕生のメカニズムを解き明かすためにも極めて重要である。
 大脳皮質は,同じ層のなかで横方向の類似性を示す神経細胞からなる6層の層状構造に加えて,6層を縦に貫く柱(カラム)のなかで神経細胞が機能的な類似性を示す縦方向の単位の繰り返しを持っている。このような横と縦に一定の類似性を持つ構造のなかに,興奮性神経細胞と抑制性の介在神経細胞に加えて,それを取り巻くグリア細胞が分布している。

神経上皮─大脳皮質の原構造におけるクラウドダイナミクスと組織力学

著者: 宮田卓樹

ページ範囲:P.4 - P.8

 大脳皮質を含む脳の形成とは,細胞の“産生”と“組み立て”から成る。人間社会の様々な製造・建築の現場では,組み立て工程のみならず生産現場にも,常に材料および産物の適切な“動き・流れ”が求められる。本稿では,大脳皮質細胞のふるさとである神経上皮・脳室帯という構造における“流れ”の意義・しくみについて,物理的事情と力学を意識しつつ考える。

分化細胞からのシグナル伝達による神経系前駆細胞の分化運命制御

著者: 坂井星辰 ,   岸雄介

ページ範囲:P.9 - P.13

 脳の組織切片を観察したことがある人ならば誰でも,整然と配置された神経細胞の美しいパターンに心を奪われた経験があるに違いない。中枢神経系はニューロン,アストロサイト,オリゴデンドロサイトといった様々な細胞から構成されているが,これらは共通の神経系前駆細胞より産生される。大脳新皮質において神経系前駆細胞は,発生時期依存的にその性質を変化させることが知られている。例えば,マウス大脳新皮質においては胎生11日目ぐらいまでは盛んに対称分裂を行って神経系前駆細胞の数を増やし,その後は非対称分裂によりニューロン,アストロサイトを順次生み出すようになる。また,神経系前駆細胞はニューロン分化期の間でも時期によって形態や機能の異なるニューロンを生み出す。哺乳類の大脳新皮質では,生み出されたニューロンは先に生まれたニューロンの間隙を縫って脳表層に到達し配置されるため,早い時期に生まれたニューロンは下層に,遅い時期に生まれたニューロンは上層に定着し,いわゆる“inside-out”の6層構造が形成される。適切な数の分化細胞を生み出し,適切な位置に配置され,それらが複雑に相互作用しネットワークを形成することで,脳は運動や感覚,言語,認知,思考といった高次の機能をつかさどっているのである。
 さて,生物はどのようにして多すぎず,少なすぎない“適切な数”の分化細胞を生み出しているのであろうか? 近年の研究で,分化したニューロンが未分化状態を維持した神経系前駆細胞にフィードバック(あるいはフィードフォワード)シグナルを送ることで,神経系前駆細胞のその後の分化運命を制御しているという知見が得られ始めている。本稿では,下層ニューロンから上層ニューロンへの分化運命転換(第Ⅱ項),ニューロンからアストロサイトへの分化運命転換(第Ⅲ項)におけるニューロンからのシグナル機構について,近年の文献を中心に概説したい。

大脳皮質層形成における未成熟ニューロンのサブタイプ決定機構

著者: 大石康二 ,   仲嶋一範

ページ範囲:P.14 - P.18

 大脳皮質は,様々な種類(サブタイプ)のニューロンから構成され,複数のサブタイプが集まって組織学的に6層から成る多層構造を形作る(6層構造を呈するのは正確には大脳皮質のうちの新皮質と呼ばれる部分であるが,本稿では簡略化して大脳皮質と称する)。それぞれサブタイプは,細胞の形態,神経線維連絡様式,発現する遺伝子の種類などにおいて各々特有の特徴を有する1-3)
 大脳皮質ニューロンのサブタイプは,Cajal-Retziusニューロンや抑制性ニューロンなどの例外を除き,基本的には共通の神経前駆細胞から時期依存的に次々と生み出される。すなわち,6層のなかで最も深い位置にある層のサブタイプが最初に生まれ,次にそのすぐ上(表層側)にある層のサブタイプが生まれる。この過程を繰り返して,全体の6層構造が下から積み上がっていくようにして構築される。この特徴的な構築形式は,inside out様式と呼ばれている。

大脳皮質層ニューロンの分化と統合メカニズム

著者: 當麻憲一 ,   花嶋かりな

ページ範囲:P.19 - P.23

 われわれヒトを含む哺乳類の大脳皮質は,分子発現や細胞の形態,軸索投射,発火パターンにより特徴づけられる6層の神経細胞層から構成されている。大脳皮質神経回路の機能発現には,その構成単位である各層ニューロンの多様化,言い換えれば個性の獲得が鍵を担っていると言えるが,発生過程においてニューロンの個性はどのように生み出されるのであろうか? 本稿では,神経幹細胞から多様なニューロンが分化し,最終的に6層構造を構築していく過程を制御する内因性および外因性機構について最新の知見を踏まえながら考察していく。

グリア細胞の分化・発生の時期と関連因子

著者: 林義剛 ,   等誠司

ページ範囲:P.24 - P.28

 哺乳類の成体脳では,脳信号の伝達を担う神経細胞のほかにグリア細胞と呼ばれる細胞が存在する。グリア細胞には,アストロサイトとオリゴデンドロサイト,ミクログリアがあり,ヒトでは脳細胞全体の約90%を占めていると言われている。
 アストロサイトは,組織を支持する膠原線維が少ない脳組織において,組織や神経線維を物理的に支持する役割をするほか,血管基底膜に接し,血液脳関門の閉鎖機能の維持,神経活動によって放出されたグルタミン酸などの神経伝達物質やイオンの回収をし,細胞外環境を整える役割を持つ。最近では,神経細胞との間で積極的にシグナル伝達をしていることが報告された。

大脳抑制性神経細胞の運命決定と機能分化

著者: 谷口弘樹

ページ範囲:P.29 - P.33

 大脳皮質は,知覚,認知,記憶,行動など,脳の高次機能をつかさどる中枢器官である。大脳皮質を構成する細胞には,大きく二つに分けて,グルタミン酸を伝達物質とする興奮性錐体細胞とGABAを伝達物質とする抑制性神経細胞が存在する。興奮性錐体細胞は,皮質内外に長い軸索を投射し,層,領野といった皮質機能単位からの出力情報伝達を担う。これに対し,抑制性神経細胞は,他の神経細胞を局所的に神経支配し,神経活動のレベルを一定に保ち,その多様な時空間パターンを制御している。近年,抑制性神経細胞を特異的に操作するためのマウスリソースが整備されはじめ,光遺伝学をはじめとする様々な機能解析ツールと組み合わされることにより,大脳皮質抑制の,発生,知覚処理,行動発現,可塑性などにおける広範な役割が明らかにされつつある1)。また,大脳機能における重要性と一致して,抑制制御の異常は神経疾患と深くかかわりがあることが明らかになりつつある2,3)。抑制性神経回路機能の構造的基盤を考えるうえで特に重要なことは,細胞タイプの多様性である。抑制性神経細胞は,解剖学的,生理学的,神経化学的に分類される非常に多くのサブタイプを有し,多彩な抑制制御に対応していると考えられている1,4,5)。しかしながら,抑制性神経細胞の多様性が,いつ,どこで,どのように確立されるのかという基本原理は,解明の途についたばかりである。本稿では,どのような因子が抑制性神経細胞の運命決定に関与し,神経機能,回路編成に影響を及ぼすのかを解説する。

試験管内での終脳組織分化

著者: 永樂元次

ページ範囲:P.34 - P.37

 多能性幹細胞は,その分化能を維持した状態で無限に自己増殖可能な幹細胞である。現在よく使われる多能性幹細胞としては,胚性幹細胞(embryonic stem cell;ES細胞)と誘導多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell;iPS細胞)がある。ES細胞やiPS細胞は,すべての種類の体細胞と生殖細胞に分化する能力(多能性)を有しており,様々な細胞を産生する供給源として再生医療などの領域で期待されている。近年,多能性幹細胞から立体的な神経オルガノイド形成技術が開発され,再生医療だけでなく,疾患モデル研究や創薬プラットフォームの分野でも注目され,年々その技術を応用した報告が増えている。本稿では,これまでの筆者らの研究を中心に,終脳領域の神経オルガノイド形成技術について総説する。

大脳皮質の再生─分子技術と神経発生生物学の融合によるアプローチ

著者: 味岡逸樹

ページ範囲:P.38 - P.42

 大脳皮質は運動,知覚,記憶などの統括司令塔としての機能を持ち,“ヒトが人たるゆえん”が潜んでいる。したがって,「大脳皮質の再生」というタイトルは,人格や学習の人為的操作をも連想させるが,本稿では,脳損傷や変性疾患で失われた機能の回復に焦点を絞り,大脳皮質の人為的再生を議論する。
 脳損傷とは,外傷性脳損傷だけでなく,脳血管の梗塞や出血を原因とする脳卒中も含み,例えば,血管梗塞によって運動野が損傷されれば,対側の麻痺が起こる。一方,変性疾患は特定のニューロンが徐々に死滅する疾患で,例えば,アルツハイマー病では大脳皮質ニューロンが死滅し,認知障害などが起こる。高齢者に多い脳損傷や変性疾患は,患者や家族のQOL低下にとどまらず,急速な少子高齢化に直面している先進諸国において様々な社会問題を引き起こす要因となっている。したがって,その治療法開発は,従来の方法論を超えた様々な研究アプローチ,そして,多くの研究者の叡智を統合して進められるべき課題であることに疑いの余地はない。

大脳皮質局所回路─古典的競合選択モデルの実験的検証と混合選択性細胞

著者: 森田賢治 ,   川口泰雄

ページ範囲:P.43 - P.47

 大脳皮質の前頭前野や頭頂葉連合野などの局所回路の機能については,特定の行動や意思を表す神経細胞集団が存在し,興奮性・抑制性相互作用を介して行動選択・意思決定が行われるという説が,様々な実験による示唆および神経回路の数理モデルによる解析・シミュレーションによって,かねてから唱えられてきた。最近,実験と理論を組み合わせた新たな手法を用いてこの説の検証が行われつつあるため,それらについて紹介したい。あわせて,回路モデルの妥当性の検証の難しさおよびこの先の発展性についても短く議論する。また,一方では,そのように特定の行動・意思など単一の対象への選択性を持つのではなく,様々な対象に対する混合的な選択性を持つ神経細胞が多く存在することも知られていたが,その機能的意義についてはあまり顧みられてこなかった。最近,この点に関して理論的な面からの検討が行われつつあるため,それについても概観したい。更に,学習可能性に関する現時点での困難点と,それと関連する可能性のある視点についても議論する。

個々のニューロンの神経回路を支える遺伝子コード─クラスター型プロトカドヘリン

著者: 足澤悦子 ,   吉村由美子 ,   八木健

ページ範囲:P.48 - P.53

 大脳皮質の成り立ちから機能を捉えるとき,ニューロンの集団的活動をもたらすニューロンの個性とネットワーク形成のしくみを明らかにする必要がある。ここではクラスター型プロトカドヘリン分子群による大脳皮質のネットワーク形成のメカニズムについて紹介する。

臨界期の機構─子どもの脳の柔軟性を紐解く

著者: 酒井晶子 ,   杉山清佳

ページ範囲:P.54 - P.58

 幼年期の脳には,環境から受けた刺激や経験に応じて神経回路が活発に再構築される時期がある。これは“臨界期”と呼ばれ,生涯の中で生後の一時期にしか現れない。“三つ子の魂百まで”のゆえんである。視覚モデルにおいて臨界期の活性化は,生後の経験により抑制性ニューロンが発達し,成熟する過程で起こることがわかってきている。自閉症などの精神疾患では臨界期の異常がみられるように,経験を通じて興奮性/抑制性のバランスが整えられることが脳の機能発達に重要である。

生育環境と脳発達の関係

著者: 下郡智美

ページ範囲:P.59 - P.63

 子どものころの経験がその後の自分の性格や能力に大きな影響を与えていると感じる人は多いと思う。詳細にすべての経験を記憶しているわけではないのに,どのように経験を活かした脳機能変化を起こしているのであろうか? 生後の発達期に経験によって神経回路は編成され,脳機能を変化させるメカニズムについて解説する。

匂い情報の皮質処理─嗅皮質の構造と機能について

著者: 山口正洋

ページ範囲:P.64 - P.68

 地球上には様々な化学物質が存在し,その種類は数百万から数千万オーダーと言われている。嗅覚は,生物が自分をとりまく環境を化学物質を手がかりに理解して,適切に行動することによって生存の機会を拡大すべく進化してきた。嗅覚は,感覚系のなかでも特に個体の行動と密接に関連した感覚である。匂い分子受容体の発見を契機として,匂い分子がどのように受容されて匂い情報が処理されるか,感覚系の常として末梢から中枢に向かって理解が進んできた。嗅覚一次感覚野である嗅皮質は,当初匂いがどんな種類のものかを同定し,対象物の固有の匂い知覚を生み出す領域ではないかと想定された。しかし近年,嗅皮質の主要な働きは,匂いに意味や価値を付加し,匂い入力をとるべき行動に結びつけることではないかと考えられるようになってきた。
 本稿では,まず嗅皮質の解剖学的特性を紹介し,匂い情報がどのように受容されて嗅皮質に到達するかを説明する。そして,嗅皮質が扁桃体や前頭前皮質など情動や価値判断を担う脳領域と密接な神経連絡を作っていること,ニューロンの活動性が匂いの意味や価値とよく対応していることを,嗅皮質の幾つかの領域の事例をもとに紹介する。このような嗅皮質の機能は,生物にとっての嗅覚の役割をよく反映していると思われる。

睡眠時におけるトップダウン入力と感性の記憶

著者: 平井大地 ,   宮本大祐 ,   村山正宜

ページ範囲:P.69 - P.73

 われわれは五感を通して周りの世界を知覚する。物に触れたときに得られる皮膚感覚の情報は,脊髄や視床を経由し大脳新皮質の第一体性感覚野(S1)に到達することが,これまでの解剖学的・生理学的研究により知られている。S1に到達した情報は,より高次な脳領域に伝えられる。このように低次領域から高次領域への入力を“ボトムアップ入力”と呼び,特に皮膚など感覚器からの外界入力を外因性ボトムアップ入力と呼ぶ。また反対に,高次領域から低次領域への入力を“トップダウン入力”と呼ぶ。知覚学習によりトップダウン方向の情報の連絡が強化されることが霊長類1)や齧歯類2)において知られており,記憶を思い出す想起への関与が示唆されてきた。では,知覚体験を想起の可能な記憶として固定化する過程においてもトップダウン回路は関与するのであろうか?
 記憶の固定化には睡眠の関与が知られている。感覚情報などの外部からの入力が少ない睡眠時の脳内において,内因的な情報により知覚記憶が定着すると考えられている3)。しかし,具体的にどの脳回路が知覚記憶の定着に関与するかは不明であった。筆者らは2015年,大脳新皮質内の第二運動野(M2)という高次な領域からS1への“トップダウン入力”が,マウスの皮膚感覚の正常な知覚に関与することを明らかにした4)。マウスにおいてこのトップダウン入力を抑制すると,皮膚感覚の正常な知覚が阻害されることが見いだされた。そこで筆者らは,トップダウン回路が知覚記憶の定着に関与する可能性を探った5)

連載講座 生命科学を拓く新しい実験動物モデル−10

ゼブラフィッシュ─表現型基盤型薬剤スクリーニングへの利用

著者: 西谷直之 ,   奥裕介

ページ範囲:P.74 - P.79

 酵素活性のin vitro評価などを基盤とするハイスループットスクリーニングが,新薬開発を加速させることが期待されているが,その成功率が低い状況は依然として続いている。トムソン・ロイターの調査によれば,2008-2009年の第Ⅱ相臨床試験の成功率は18%であり,以前の調査(2006-2007年,28%)に比して減少傾向である1)。臨床試験失敗の主要な原因は“不十分な薬効”であり,第Ⅱ相試験で失敗原因の51%1),第Ⅲ相試験では66%2)を占める。多額な費用をつぎ込む臨床試験の失敗の原因が,非臨床段階の初期にあることを示しており,その傾向はその後も続いている3)。新しい作用機序を有し,目覚ましい治療効果を示す薬剤が結果的に治験の成功率を上げると考えられるが,現在広く行われている標的分子基盤型の薬剤スクリーニングでは,画期的新薬(first-in-class drug)にたどり着く可能性は低い。1990-2008年に承認されたfirst-in-class低分子医薬品の半数以上は,表現型基盤型の薬剤スクリーニングによって発見された。他方,標的分子基盤型スクリーニングに由来する薬剤は,first-in-class低分子医薬品の34%にとどまり,改良型医薬品(follower drug)の51%を占める4)。画期的創薬における手詰まり感のある状況下で,表現型基盤型スクリーニングによるfirst-in-class薬剤発見への期待が高まっている。

生命科学を拓く新しい実験動物モデル−11

超短命脊椎動物アフリカメダカ

著者: 松井秀彰

ページ範囲:P.80 - P.84

 魚類,特にゼブラフィッシュやメダカといった小型魚類は,その様々な利点を活かして基礎医学あるいは応用研究に用いられる機会が増えている。そのなかで特に近年,にわかに脚光を浴びつつある新しいモデル小型魚類の一つに,アフリカメダカ,学名Nothobranchius furzeriがある(図1)。アフリカメダカは幾つかの際立った特徴のため,使いにくい面もあるし有用な面もある。本稿では,実験動物としての第三の小型魚類アフリカメダカの基本的な飼育方法,生態,最近の動向などを1ユーザーとして概説する。

実験講座

組織の透明化技術

著者: 濱裕 ,   日置寛之 ,   並木香奈 ,   星田哲志 ,   黒川裕 ,   宮脇敦史

ページ範囲:P.85 - P.93

 近年,固定組織の透明化技術の開発が主として神経科学の分野で盛んに進められており,これまでに多くの透明化技術が報告されている1-15)。透明化技術は(例えばウイルスベクターを介して),神経細胞に蛍光タンパク質遺伝子を導入して標識する技術によくマッチする。蛍光タンパク質を発現した神経細胞から伸びる軸索がどこに投射しているかを知りたい場合,標識を行ったのちの組織を固定・透明化し適切な観察を行うことで,目的の標識された神経細胞を網羅的に可視化し解析することができる。
 ごく最近のEconomoら8)やYeら15)の論文では,神経細胞の投射を探るための一連の解析が示されており,透明化技術を用いた神経回路の解明について一つの方向性が示されている。

--------------------

財団だより

ページ範囲:P.28 - P.28

次号予告

ページ範囲:P.68 - P.68

あとがき

著者: 岡本仁

ページ範囲:P.94 - P.94

 人間が,意識,論理的推論,言語,共感などといった,人間に特有と思われている心の機能を持っているのは,おそらく大脳皮質の高度な発達によっている。このような機能は,人の大脳皮質が,他の動物の大脳皮質と比べて質的に全く新しい構造を獲得したために生まれたのだろうか? もしそうだとすれば,人間と霊長類の遺伝子を調べて,その違いに,人の心の誕生の起源を突き止められるかもしれない。一方で,脳の階層的構造が進化に伴って連続的に多層化し,人間の段階にいたって初めて,おそらくその多層的階層構造に起因する非線形性の相乗効果によって複雑な思考が可能となった可能性も考えられる。この場合,遺伝子の質的な違いを追い求めても答えは見つからないかもしれない。世界では,このような二つの仮説がどちらも真剣に検討されている。今回の特集から,読者の皆さまにも,日本の大脳皮質研究者の層の厚さと質の高さを改めて感じていただけたのではないだろうか。今後これら本特集号の筆者の方々の研究の発展によって,二つの仮説の答え,即ち人間の心がどのように生まれたのかへの答えが見つかることが期待される。さらに,タイムリーなことに,理研の濱,宮脇先生らに,世界に先駆けて開発された組織透明化法と,その最近の発展について詳細な総説を執筆していただけた。この技術は,今後の大脳皮質研究にも欠くことができない。加えて,松井先生に,老化研究の新しいモデル動物として有望な,世界で2番目に短命な脊椎動物であるアフリカメダカについて,西谷先生に,ゼブラフィッシュを使った薬剤スクリーニングに関して,いずれも力のこもった総説をお願いできた。執筆者の諸先生方に深く感謝いたします。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?