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特集 血管制御系と疾患
網膜血管パターニングの制御機構
著者: 久保田義顕1
所属機関: 1慶應義塾大学医学部坂口光洋記念機能形態学講座
ページ範囲:P.317 - P.320
文献購入ページに移動 哺乳類の生体内には一部の無血管組織(角膜や軟骨,椎間板など)を除いて,全身くまなく血管網が張り巡らされる。また,その血管ネットワークの解剖学的特徴,発生のメカニズムは臓器によって多様であり,多くの場合,その臓器の主たる構成細胞(例:心臓では心筋細胞,肝臓では肝細胞)により規定されると考えられる。大脳の血管網は,胎生初期にまず脳の表面(脳軟膜)にしっかりした血管網が張り巡らされ,この間,脳の内部(脳実質)に血管は進入せず,脳実質はいわゆる“無血管組織”として発達する。胎生約10日目になって,脳軟膜の血管ネットワークから脳実質方向への垂直方向の枝分かれが生じ,その枝分かれによってできた細い穿通血管が,脳実質内の特定の層で新たな血管叢を形成する。この一連のプロセスにより,多層から成る三次元的な脳の血管ネットワークができあがる。大脳の血管網はこのような段階的なステップを経て形成されるが,この過程を反映してか,出生後もなお脳軟膜血管網に比して,脳実質の血管は細く,密度は疎である。
大脳の血管パターニングがなぜこのような様式をとるかの合目的性については,全くもって不明であるが,おそらく神経内部,特に軸索や樹状突起の多く存在する部位では,血流によるノイズが多少なりとも神経活動に影響を及ぼすのではないかと考えられる。また,表面上の太い血管から,臓器内部へ伸びる細い血管が枝分かれするパターンは“strain vessel”と呼ばれ,脳だけではなく,網膜や心臓,腎臓においてもみられ,臓器の低灌流(血流の減少)から身を守るために有利な構造であると考えられている1)。
大脳の血管パターニングがなぜこのような様式をとるかの合目的性については,全くもって不明であるが,おそらく神経内部,特に軸索や樹状突起の多く存在する部位では,血流によるノイズが多少なりとも神経活動に影響を及ぼすのではないかと考えられる。また,表面上の太い血管から,臓器内部へ伸びる細い血管が枝分かれするパターンは“strain vessel”と呼ばれ,脳だけではなく,網膜や心臓,腎臓においてもみられ,臓器の低灌流(血流の減少)から身を守るために有利な構造であると考えられている1)。
参考文献
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