増大特集 細胞多様性解明に資する光技術─見て,動かす
Ⅱ.見えなかったものを視る
ATPバイオセンサーを用いた生細胞内ATP濃度の可視化・計測
著者:
吉田有希1
今村博臣1
所属機関:
1京都大学大学院生命科学研究科高次生体統御学
ページ範囲:P.458 - P.459
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ATP(アデノシン三リン酸)は,細胞内における主要なエネルギー通貨であり,種々の吸エネルギー性の酵素反応を進めるために必要である。細胞内ATPの枯渇は細胞の生存に不可欠な酵素反応の停止を意味し,したがって,ATPの恒常性は組織や細胞が正常に機能するために極めて重要であると考えられている。その一方で,細胞内ATP濃度を感知するタンパク質が重要な生理機能を有することから,細胞は一定のATP濃度変化をシステムとして許容し,積極的にその変化を利用していると考えられる。しかし,実際には,生きた細胞内のATP濃度はどのような分布をしているか,あるいはどのような変動を示すか,という細胞内ATP濃度の時空間情報は全くわかっていなかったため,「ATPが組織や細胞の生理機能にどれだけ影響しているのか」という問いに明確な答えを出すことはできていなかった。
本稿では,細胞内ATP濃度の時空間情報を解析するために筆者らが開発してきた,生細胞内ATP動態の光計測を可能にするATPバイオセンサーについて紹介したい。