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特集 宇宙の極限環境から生命体の可塑性をさぐる Ⅲ.宇宙空間滞在の環境リスク
宇宙放射線と重力変化環境の複合影響
著者: 髙橋昭久1 池田裕子2 吉田由香里1
所属機関: 1群馬大学重粒子線医学推進機構 2群馬大学未来先端研究機構
ページ範囲:P.152 - P.156
文献購入ページに移動一方,宇宙空間は磁場と大気に守られている地上とは異なり,生物学的効果の高い重粒子線(一粒子でも飛跡に沿って重篤なDNA切断を引き起こす)を含めて線質の異なる混合放射線が,低線量・低線量率で降り注いでいる。ISSでの1年ほどの長期滞在の間に浴びる放射線量は地上の約100倍の約0.3Svと推定されており1),船外活動では船内の約5倍の放射線に曝される。太陽表面で大規模な爆発が生じると,大量のプラズマ粒子が宇宙空間に放出され,比較的高い線量を被曝する可能性がある。月は大気がないため,月面表面で約1Sv/年を超えると推定され2),地球磁気圏から遠く離れた深宇宙では,特に重粒子線の被曝量が増すことも知られている。また,火星までの往復と滞在期間の合計約2年半で約1Svの被曝が予測されており3),これまでのミッション以上にがんや白内障の発症リスクが高くなり,中枢神経系や免疫機構への悪影響が危惧されている。更に,宇宙空間は微小重力環境であり,月や火星では地上の1/6,1/3の重力環境である(図1)。月や火星,宇宙空間での長期宇宙滞在を実現するためには,宇宙放射線のみならず,地球と異なる重力環境との複合影響を明らかにすることで,リスクを正しく評価し,宇宙での生活の質を高めることが喫緊の課題である。ここでは宇宙放射線と重力変化環境との複合影響研究の過去・現在・未来について紹介する。
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