特集 宇宙の極限環境から生命体の可塑性をさぐる
Ⅲ.宇宙空間滞在の環境リスク
微生物学的生体モデルを用いた銀河宇宙放射線の生物効果に関する研究
著者:
藤森亮1
Ralf Möller2
所属機関:
1量子科学技術研究開発機構放射線障害治療研究部粒子線基礎医学研究チーム
2German Aerospace Center(DLR e.V.), Institute of Aerospace Medicine, Radiation Biology Department, Cologne(Köln), Germany
ページ範囲:P.157 - P.161
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宇宙に生きるうえで想定される様々なリスクのなかで,宇宙放射線のリスクの評価には,宇宙の放射線場の生物学的影響に関する十分な知識が必要とされる(図1,2)。ここ50年の間に,宇宙技術は地磁気圏が担う放射線防護がもはや及ばない領域にまで地上生命を移動させる手段を与え,特別な条件に対する生体応答の研究ができるようになった1)。単純なものから複雑なものまで,総じて生体(生体分子,微生物からヒトまで)は生物学的な見地から,低地球周回軌道(low Earth orbit;LEO)上の宇宙船,国際宇宙ステーション(ISS)の船外あるいは船内,あるいは月への軌道,他の宇宙生物学的に興味深い天体(火星,木星や土星の氷衛星)へと地上を遠く離れるにつれ増大する“放射線被曝”のような,様々な物理的な環境の変化を経験する。宇宙における微生物実験のほとんどは,地球周回軌道のロボット型衛星,例えばロシアのフォトン(FOTON)や欧州の回収可能衛星(European Retrievable Carrier;EURECA),あるいはスペースシャトルや宇宙ステーション(MIRやISS)などのような有人宇宙船を用いて実施された1-3)。