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特集 宇宙の極限環境から生命体の可塑性をさぐる Ⅲ.宇宙空間滞在の環境リスク
植物の成長を支配する重力応答と宇宙実験
著者: 髙橋秀幸1
所属機関: 1東北大学大学院生命科学研究科宇宙環境適応生態分野
ページ範囲:P.162 - P.167
文献購入ページに移動 緑色植物は,すべての生物のエネルギー源となる炭水化物を光合成によって生産する。その光合成を効率よく営むために,植物は茎葉を地上に伸ばして光および二酸化炭素を,根を土壌中に伸ばして水および無機栄養を効率よく獲得する。これは主に,重力を感知してそれぞれの器官を上側および下側に伸長させる重力屈性によるものである。特に固着性の植物にとって,重力屈性は陸地で遭遇する環境ストレスを回避・軽減して生きるために重要な役割を果たす。この重力屈性は古くから植物生理学の課題として注目されてきたが,植物の重力応答は重力屈性以外の成長現象にも及ぶ。また,重力応答によって干渉されて通常は認識されにくい成長現象も知られている。植物が進化過程で獲得したこのようなしくみは,生物学的に解明されるべき研究課題であるだけでなく,ヒトの生命維持や生活に必要な植物生産を向上させる基盤的機能としても重要である。しかし,植物の重力屈性を担う重力感受機構や最終的な屈曲(偏差成長)に至るシグナル伝達系,重力応答によって影響される様々な成長現象の制御機構には,いまだに不明な点が多い。その理由の一つが,地球上では恒常的に働く重力を排除できないことにある。近年,これらの課題を解決して重力生物学を進めるために,また,人類が長期宇宙居住を実現させるための植物生産システムを確立するために,宇宙船内の微小重力環境を利用した宇宙実験が行われている。
本稿では,植物の重力応答およびそれによって影響される植物の成長現象について,筆者らが実施した宇宙実験を含めて概説する。
本稿では,植物の重力応答およびそれによって影響される植物の成長現象について,筆者らが実施した宇宙実験を含めて概説する。
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