特集 いかに創薬を進めるか
和漢薬創薬を目指した基礎研究と臨床研究
著者:
東田千尋1
久保山友晴1
楊熙蒙1
所属機関:
1富山大学和漢医薬学総合研究所神経機能学分野
ページ範囲:P.354 - P.357
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和漢薬とは,日本古来の和薬と,中国から伝わってきた漢薬を合わせた呼び方である。ただし広義には,天然物由来の薬物を広く示す“生薬”と,複数の生薬から成る“漢方薬”も含めた意味で“和漢薬”と言う。“和漢薬から創薬”と言ったとき,一般的には生薬の成分がシーズとなって新薬創生につながることがイメージされるであろう。モルヒネ,ジギトキシン,エフェドリン,アトロピン,サリシン等々,重要で強力な薬効を有する化合物が植物から同定された例はあまりにも有名である。また,このように生薬,天然物が薬の優れたシーズを生むことは過去の話ではなく,現在でも,特に抗菌活性や抗腫瘍活性を有する薬物の開発は,天然物そのもの,あるいはそれをリード化合物として進められているものが多い。また,2015年には,土壌細菌からの抗寄生虫薬開発と青蒿からの抗マラリア薬の開発にノーベル生理学・医学賞が与えられ,多くの患者を救うための新薬開発への挑戦の尊さと,天然物の有用性があらためて示された。
様々な疾患モデル系を用いた創薬研究の表現型スクリーニングで活性を示す和漢薬の知見は非常に多い。しかし,シーズ化合物発見から新薬承認に至るまでには,研究開発にかかる長い年月,多額の費用,低い成功確率,といった険しい壁が立ちはだかる。和漢薬の基礎研究の成果が,新薬開発の入口としてだけでなく,より直接的に臨床に生かされるような道もあるとよい。