特集 細胞高次機能をつかさどるオルガネラコミュニケーション
Ⅰ.小胞体
小胞体に存在する複数のオルガネラ・ゾーン
著者:
森和俊1
岡田徹也1
所属機関:
1京都大学大学院理学研究科生物物理学教室
ページ範囲:P.527 - P.531
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小胞体は,分泌経路の入口としてタンパク質恒常性において極めて重要な役割を果たしている(図1)。分泌タンパク質と膜タンパク質は小胞体膜結合性リボソームで翻訳されると同時に小胞体内腔へ入り,高次構造を形成する(折り畳み)1)。正しい立体構造を獲得した分泌系タンパク質は,小胞体出口(532頁,黒川の稿を参照)を経てゴルジ体以降の分泌経路に進む。一方,高次構造形成に失敗したタンパク質は小胞体にとどめられ,やがて細胞質へ逆行輸送されて分解される(分解)2)。このように,分泌系タンパク質の品質は折り畳みと分解によって厳密に管理されている。しかしながら,様々な生理的・病理的条件下で,この品質管理機構に綻びが生じ,小胞体内に高次構造の異常なタンパク質が蓄積する。この小胞体ストレスが細胞機能に重篤な悪影響を及ぼさないように,すべての真核細胞には小胞体ストレス応答と呼ばれる恒常性維持機構が備えられている(応答)3)。このような多機能が整然と発揮されるためには,オルガネラ・ゾーン(オルガネラの内部に存在する機能場)という新しい概念を取り入れる必要があり,実際にそのようなデータが出始めている現状を解説する。