icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

生体の科学7巻2号

1955年10月発行

雑誌目次

巻頭言

巻頭言

著者: 名取礼二

ページ範囲:P.57 - P.57

 最近物理の生物物理分科会が活溌な動きをみせている。
 物理学者が生命の本態に興味をもち,その解析を試みることは決して珍らしいことではないが,従来はどちらかといえば生命の全機性の問題に関心がもたれ,具体的な事項の解決へ進んだものは少かつた。それが,個々の生命現象の分析を対象にして研究が進み,また纒つた学会として発展したのは確かに留意されてよい。

綜説

温度受容器

著者: 横井泰生

ページ範囲:P.58 - P.66

 温度受容(Thermoreception)あるいは温度受容器(Thermoreceptor)の基本問題について,われわれの知識は無に近い。否,無に近かつたと述べることは決して誤りではなかろう。少くとも現在の成書の記載は不確定の要素が余りにも多い。
 温度感覚は古くして,しかも新しい問題である。今世紀前半に到るまでの間にこの方面で多数の研究が行われて来ているが,大体においてWE-BER(1846)とHERING(1877)以来の論争の繰返しに過ぎないのである。すなわち温度受容器に対する適応刺戟は,時間的温度変化であるか温度絶対値であるか,決着を見ないまゝである。この問題はまた所謂『順応』("Adaptation")とは物理的現象であるか生理的現象であるかの問題に直ちにつながる。比較的近年,第三説がEBBEGKE(1917)の研究と共にあらわれた。これは,空間的温度勾配によつて,つまり皮内温度勾配によつて,温度受容器は決定的な影響を受けるという学説である。これら全く相いれることのないように見える諸学説は各々自己の陣営に多数の著名な学者を擁していて,甲論乙駁蓋きる所がない。研究方法として多くの人の用いた方法が余りにも心理学的であることも大きな欠陥であるが,同時に明確な温度刺戟を起すに適当な方法がなかつたことも甚しい災をなしている。結局,この領域は生理学上最も進歩の遅れた分野として取り残される所となつた。

論述

界面活性剤の生体膜におよぼす作用

著者: 後藤昌義 ,   和佐野忠 ,   緒方道彦

ページ範囲:P.67 - P.77

 Ⅰ.いとぐち
 熱力学の立場からするとあらゆる系は均一なものと不均一なものに区別できる。いうまでもなく界面によつて分離された相があるかないかということである。生体のように沢山の界面をもつ不均一系では化学反応は多く界面において起ることが当然に予想される。そこに界面現象の重大な役割がある。
 他方また生体の物的構成の基礎をなす膠質は典型的な不均一系の分散を示すものであつて,これらを研究する膠質学は膠質微粒子の界面の学問であるといつても過言ではあるまい。かくして生体における界面現象は化学反応の立場のみならず膠質といつた立場からも軽視することはできない。

界面活性剤の藥理

著者: 中沢与四郞

ページ範囲:P.78 - P.87

 界面活性剤(以下界活剤と記す)とはこれを水にとかした場合微量にて溶液の表面張力を著しく低下する物質のことを謂い,工業的には繊維製品の染色・洗滌,油脂の乳化,浮游選鉱等にひろく応用されているものである。殊に近年アメリカに於て石油を原料として多種多様の界活剤の合成工業が飛躍的に進展して以来,その応用は一層広汎なものとなりつゝある。
 特にその医学的応用についてみると,古くはクレゾール石鹸液や肝油乳剤等に乳化剤として使用されたに過ぎないが,近年新合成界活剤の医藥又は食品の乳化剤としての応用は急速に増大しており,又逆性石鹸の如く消毒藥として或はTween80の如く結核菌発育促進剤1)として特異な声価を得ておるものもあり,その応用部門の発展が期待されている。

ムコ蛋白と癌—Sialoproteinを中心として

著者: 鶴見膠一

ページ範囲:P.88 - P.97

 はじめに
 さきに東北大学の正宗教授が"ムコ蛋白とムコ多糖類の生理"と題して本誌1)に述べられた際,ムコ蛋白の名称を従来の複合蛋白体の1つとしての糖蛋白体(Glycoprotin)と同義に用いられたが,K. Meyer2)の分類に依るとウロン酸とヘキソサミンを含む酸性多糖類は"ムコ多糖類"の項に分類し,ウロン酸を含まない,ヘキソサミン含量4%以上の糖蛋白体をムコ蛋白又はムコイドと称し,4%以下含有の蛋白をグリコプロティンとした。これよりさきBlix3)は1940年"Studies on Glycoprotein"という論文に於いて糖蛋白体の分類を提出し,所謂Glycoproteinを2大別してNeutroglycoproteinとAcidoglycoproteinとし,後者を4つのSubgroupに分類した。即ち 1)Chondroproteins 2)Hyaloproteins 3)Sialoproteins 4)Mucoproteinsに分類し,ムコ蛋白という名称をムコイチン硫酸と蛋白の複合体に与えたが,この意味でムコ蛋白の名が今日用いられることはないようである。ここではムコ蛋白という名称をMeyerの意味に於いて用いることとする***

報告

Myosin並にActomyosin酵素化学的研究(Ⅱ)—ATPase及びSuperprecipitationに対するActinの影響

著者: 湯田坂八重子

ページ範囲:P.98 - P.102

 先に私共1)は従来比較的重要視されなかつたmyosin-ATPaseに対するactinの影響に着目し,各種イオン環境下で詳細に実験を行い,actinの存在がmyosin-ATPaseを大きく変化することを認めた。
 この結果から今回は更に一歩進んでactinのmyosin-ATPase及びsuperprecipitationに対する影響の作用機作を追求しよとして次の様な実験を行つた。

通信

外国で見たことの一つ

著者: 川喜田愛郞

ページ範囲:P.103 - P.104

 WHO関係の仕事でエジプトに1年余り暮して帰つてきたのは昨年の夏のはじめですから,もう大分の時がたつのですが,機会がえられれば是非もう一度行つてみたいと思うほど執着のある国なので,本誌の編集部からエジプト滞在中の見聞を書いてほしいとたのまれたとき,あまり躊躇もせずにお引き受けしてしまいました。しかし考えてみると「生体の科学」誌にふさわしいような話題は残念ながらこの国には乏しいので,その代りに帰途の欧米旅行の印象の一つを記して責をふさぎたいと思います。
 ロンドン滞在中の或る日,サウス・ケンシントンの自然科学博物館を訪れたことがあります。ここは御承知の方も多いと思いますが大英博物館の分館になつています。本館の方はわたくしの短い滞在中も再三訪れて,有名な聖書の写本(コーデクス・サイナイテイカス)とかロゼツタ石,パンテノンの彫刻等をはじめ,かずかずの逸品がわたくしを飽ぎさせなかつたのですが,おはずかしいながら自然科学博物館についてはあまりふかい予備知識をもつていませんでしたので,いよいよアメリカに向つて出発する2,3日前に格別の期待ももたずに漫然と足を向けた次第でした。仮にも医学と生物学の片隅に仕事場をもつている者の1人としてまことにお話にならない失態です。

Swedenだより

著者: 萩原生長

ページ範囲:P.104 - P.105

 そろそろEnglandに向つて出発をしなければなりませんので気忙しく思つています。仕事はcatの事は片附き,今publicationの準備をしています。Lundberg,Dijkgroaf,Pringle Hoyle(Glasgow)からは宿の世話もしてくれるといつてすでにletterが来ています。CambridgeはZottermanがAdrian,Hodghis,Mathewsの3人にletter of introductionをかいてくれるとのことでありがたいと思つています。
 一昨日physiological meetingがこゝであつて4人,Mccaun,Cohen,Landgren,Granitが話しました。Granitの話は内容は面白そうなのですが,僕には何を云つているのか(英語でやつたのですが)ちつともわかりませんでした。ところが後できいたところCohenにもわからなかつたとの事,彼の話ではGranitは7ヵ国話で話せるが,そのどれを話しても,勿論スエーデン語で話しても,誰にも何のことだかわからないので有名なのだそうです。僕に君の方がGranitよりはいくらか良いと云うので全く驚いてしました。

研究室から

東京女子医科大学藥理学教室

著者: 小山

ページ範囲:P.106 - P.107

 この学校は創立以来50余年の歴史をもつているが,藥理学教室がひとり立ちになつてから,やつと10年である。それまでの長い間,西田敬先生(現・慶応の藥理学教授)が講師として講義と実習をされていた。それから私(小山良修)が1945年4月から專任教授として赴任したのであつた。当時の校長吉岡彌生先生が自慢していた基礎教室の一隅の藥理教授室なるものに入り椅子にどつかとこしかけて,さてこれからどんな風にして,この藥理学教室を発展させて行こうかと考えたり夢みたり,若いような血をわかしたものであつた。ところがそれから僅か3日あとに空襲で教室は完全にあとかたもなく焼けてしまつた(とつさに明智光秀の事を連想したのは正直な告白である)。それから焼け残りの離れの細菌学教室の小室を貸りて独り机に向う,まず補助員が1人出来る,助手代りの学生が手伝つてくれる,なんにもないから,ゾーリ虫を貸りた顕微鏡でのぞいたり,ミジンコの心臓をみて搏動数を200以上あると数えてみたり,クラミドモナスの生殖をみようと試みて,歴史は夜造られるなどと感心したり,オタマジヤクシを集めてメチレンブラウで染めて游がせたり,ヒドラ(腔腸動物)を飼つて眺めたり,絹糸草をはやして,女性ホルモンをやつてみたり,たゞもう小人閑居して不(完)全をやつて時間をつぶしていた。実習でも,蛙の眼玉は学生各自のおべん当箱の中でのぞくと言つたような有様であつた。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?