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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学7巻5号

1956年04月発行

雑誌目次

巻頭言

巻頭言

著者: 吉川春寿

ページ範囲:P.225 - P.225

 本誌前号の巻頭言に高橋吉定教授が,現在の日本の基礎医学と臨床医学との間に深い断層があつて,臨床の方で欲しいと思う基礎的研究については基礎医学者は一向興味をもつてくれない,という意味のことをのべて居られた。基礎医学者の業績はなるほどりつぱなものであるかも知れないが,それは臨床医にとつてはしよせんおいしそうな菓子を望遠鏡で覗くようなもので,自分でほおばれる菓子ではないのだ,というのである。これはたしかに言われる通りで,わたくし自身,基礎の側から何とかしてこの深い溝をいくらかでも浅くしたいと考えている。しかし,なかなかこれはむずかしい。では,何故にむずかしいのだろうか。
 わが国でも独創的な基礎医学の研究が行われ,あるものは世界的なレベルまで達していることはみとめてよいと思う。けれども,これが極上の菓子で臨床家には手のとどかないものだという比喩はあてはまらない。むしろこれは,将来臨床家がほおばつて味える様な菓子をつくる原料なのだといつた方がよさそうである。つまり,ほおばれないのは上等すぎて手がとどかないのではなく,ほおばれるだけの形態をまだとつてないのである。

綜説

"SHの進歩"その後

著者: 平出順吉郞

ページ範囲:P.226 - P.234

 まえがき
 綜合医学新書に"SHの進歩"を執筆したのはもう2年近く以前のことである。
 本書の前編には"蛋白結合—,さらに溶在性—SH基の役割"の基礎的解説から多数にわたる重要な"SH酵素"の示唆的な説明を経て3種の"SH反応剤"の概説と各論に入り,ついで中編では広汎にわたる"SH基の新らしく認識された役割"としてコエンチームA(CoA-SH),放射線,発ガン,細胞分裂,アクトミオシン形成,血液凝固,血清熱凝固,フエリチン,ヘモグロビン代謝,白内障,視紅再生,メラニン形成阻止等の説明に移り,おわりに後編(データ編)に入り最近2年間の我々の研究業績としてSH説の酵素化学的検討,SH基からみた蛋白の賦活構造(実験中),ジフテリヤ毒素のSS学説,放射線障害とSH基の役割(実験中)等について述べた。

論述

動物の無菌飼育装置の研究

著者: 谷川久治 ,   田波潤一郞 ,   戸叶公明

ページ範囲:P.235 - P.240

 緒論
 動物の無菌飼育は最近各方面から注目されてきたようである。これを細菌の側から見れば,無菌動物の腸管を生きている培地と徹し,単一菌株の生体内増殖現象を明確に知る方法とすることが出来るが,生体側から見れば,無菌飼育は複雑な腸内細菌の如きものゝ動物体に対する影響を,順次分析的に研究する唯一の実験方法ということが出来よう。
 腸内細菌研究の立場から考えると,無菌飼育に於て次の点が主要な課題となると思う。即ち腸内細菌の各個又はその組合わせが発育や一般状態に及ぼす影響,つまり生体に対する生理的作用,これを更に分析して,消化管に於ける消化,吸收に及ぼす作用や,ビタミンの合成,腸内の腐敗作用,有毒物質の抽出等に進め得る。次に腸用,内細菌特に大腸菌や腸球菌等の初感染の問題や,菌交代現象の研究がある。

無脊椎動物心臓の歩調取り部

著者: 入沢宏 ,   入沢彩

ページ範囲:P.241 - P.251

 心臓の運動を研究し血液循環の原理を始めて明らかにしたのは,W.Harveyであるが,心臓の搏動が何に依つて起されているかと云う事に就ては何等の説明も為されなかつた。
 心臓がそれ自体の中に收縮の原動力となるものを含む事が発見されたのは18世紀の後半に達してであつた。尚当時相続いて発見されたRamak,Bidder, Ludwigの神経節は心臓原性收縮に有利な証拠となつたが,歩調取りと云う事に就て最も明らかな貢献をした最初の人はStannius(1852)であつた。彼の有名な結紮実験は心收縮の起源が神経原か筋原か云う事に就ては何等の解決を与えなかつたが,静脈洞から心收縮の興奮波が起ることを如実に示したものである。此の事は其の後Gaskell(1881)に依って更に歩調取りの概念に迄進んだが,彼に依つて得られた多くの結果から両棲類や爬虫類では心搏動の起源が筋源的であるという事に圧倒的な支持を与えた28)34)。其の後心臓が自働的に動くと云う驚異に対して,多くの先達が実験を重ね,哺乳動物には洞結節の部分に全心臓の搏動を主宰する部分のあることが早くから知られた。

報告

カエルの飼育

著者: 小林龍男 ,   秋山龍男

ページ範囲:P.252 - P.255

 藥理学者にとつてはカエルは未だに大切な実験動物の1つなのであるが,カエルの飼育についての記録が比較的少いからという小山良修教授の御話もあつたので私たちの教室で行つているまゝを記してみたが,それはコンクリートに囲まれた大都会では想像もできない像ど全く文字どおり野趣に富んだものである。つまり私たちは春から秋にかけては野外から捕獲してきたカエルを先ず下に記したような場所に收容したのち,この中から必要な場合に適当な数を選んで実験の用に供し(もちろん学生実習のように一時に大量を必要とし,また使用数の想定ができる場合には用に臨んで野外に採りにゆく),また冬季は教室の建物の傍に堀つた深い穴に收容して冬眠に入らせ,適時堀り出して恒温飼育箱に入れてから実験に供している。
 では次にもう少し具体的に記してみよう。

変形体の收縮性蛋白質

著者: 中島宏通

ページ範囲:P.256 - P.259

 原形質流動の機構を考える際に重要な問題となるのは原形質系のmechanochemical systemである。神谷,中島,阿部1)は変形菌(Myxomycete)の変形体(Plasmodium)に見られる原形質流動の原動力と物質代謝との関係を研究し,原形質流動は主として醗酵によつて生産されるエネルギーが利用されることを指摘した。すなわち原形質流動の原動力は醗酵のエネルギーがアデノシン三燐酸(ATP)を介して蛋白質の分子変形に変換される結果生ずるものと考えられる。そこでATPによつて分子変形を起す蛋白質の性格が問題となる。
 Goldacre及びLorch2)は運動しているアメーバの尾部にATPを注射すると前進方向の運動が促進され,逆に頭部に注射すると逆方向の運動が引き起されるのを観察し,このような現象をactomyosin-gelに及ぼすATPの影響と考えている。神谷,中島,阿部1)は複室法を用いて変形体にATPを作用させた結果流動力が非常に増大することを明かにした。一方Loewy3)は変形体を1.2MKCl,0.1M K2HPO4で60分間,0°〜4℃で抽出し,この抽出液にATPを添加した結果見られる粘度変化から,変形体中にもactomyosin類似の收縮性蛋白質が存在すると考えている。

モルヒネ及びその類似物質のペーパークロマトグラフイーに就て

著者: 細谷英吉

ページ範囲:P.259 - P.260

最近はペーパクロマトグラフイーが(以下P.P.Cとする)各方面に用いられるようになり,麻藥類のP.P.Cに就ても報告が散見される。(文献参照を乞う)
 筆者はミシガン大学藥理学教室在勤中,モルヒネとそのグルクロン酸結合物との分離にP.P.Cを用いた際Solvent等に就て種々の試みをやつてみた。然しそれらの大部分は今迄何処にも発表していないし,将来,誰かが何処かで利用することがあるかもしれないと考えて,有用そうな部分だけを此処に簡単に報告をして置くことにした。

Myosin並にActomyosinの酵素化学的研究(Ⅳ)—Myosin-ATPaseの熱変性に対するActinの影響

著者: 湯田坂八重子

ページ範囲:P.261 - P.264

 私共1)はmyosinとactomyosinのATPaseの相違を研究し,種々の条件下でmyosinのATPase作用をactinが修飾することを報告して来た。
 更に前報2)で收縮とATPase活性度の関係を明かにする為に広い温度範囲でactomyosin-ATPaseの活性度を測定し,其際温度が40℃を越えるとATPase活性度は急激に低下することを認めた。

研究室から

東大理学部植物生理学研究室

著者: 高松

ページ範囲:P.264 - P.265

 他所から私達の研究室に始めて足を踏み入れる人は部屋に雑然と並ぶ一見ガラクタの様に思える道具類に辟易するかも知れない。その上,藥品棚は勿論冷臓庫,実験材料を培養する孵卵器等も廊下にまではみ出し,一体どこで実験しているかと思われる。わずかに残つた室内で又,ガラクタに類した器具を並べて実験している。先輩に言わせると,これ等のガラクタ即ち実験装置は細心に又最も合理的に配置してあるのだそうだ。そして,その時々に応じて使いよい様に配置換えが度々行われるとのことである。
 何処の研究室も同じであろうと思うが,私達の処も消粍品は出来る限り買わぬ健前であるので往々一本のメスシリンダーを探す為に部屋中を血眼になつて駈ずり廻ると云つた風景が展開される。それも,100mlとか50mlとかいつた完全なものではなく,上の方がかけて修理した75mlと34mlとかのメスシリンダである。だから罐詰の空罐や焼酎の空瓶も貴重な道具の一つである。空罐がwater-bathとして狩出され湯呑茶椀に氷を入れて冷すこともある。之は必ずしも日本丈の実験室風景でない様で,1月に帰朝された小倉先生の話しではChanceの処でも,メスシリンダーなどは買うべきものでは無いものとして通用しているそうだから私達も現状に大いに満足の意を現す次第だ。

——

第3回筋收縮の化学班研究協議会報告

著者: 上住南八男 ,   岡本彰祐 ,   林浩平 ,   永井寅男 ,   丸山工作 ,   小西和彦 ,   八木康一 ,   大沢文夫 ,   江橋節郞 ,   高橋宏 ,   寺山良雄 ,   酒井敏夫 ,   名取礼二 ,   熊谷洋

ページ範囲:P.266 - P.271

 文部省科学研究費による「筋肉收縮に関する化学的研究」班の第3回研究協議会は,2月11日(土),午前10時より,東大医学部藥理学教室記念文庫で行われ,終日熱心な議論が交された。以下はその概要である。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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