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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学7巻8号

1956年10月発行

雑誌目次

巻頭言

專門分野の連繋

著者: 島薗順雄

ページ範囲:P.369 - P.369

 生理科学は,理科,農科,医科,薬学にまたがつているから,これら各分野の間に緊密な連繋が保たれることが学問の発達上きわめて重要なことはいうまでもないが,その実現がなかなかむつかしい。同じ医学の中でも基礎医学と臨床医学,更にその中の各分野が独立分化して連結がむつかしい。この問題は教育の方法についても考えられる。各分野の專門家がその專門科目の重要性のみを知つて他の分野との連繋に思いを致さないために,学生は徒らに過重の負担にあえぎ,範囲の狭い教育を受けることになる。わたくしどもは研究や教育の上で各分野の連繋を密にするために,どのような方法をとるべきであるか,思いをひそめなければならない現状である。ここにわたくしが最近欧米を視察して来た記憶の中から,この点について一二参考となるものを述べて見たいと思う。
 ClevelandのWestern Reserve Universityが4年前から実施している医学教育の方法は,世の注目をひいているもので,わが国にも既に何人かその実際を見て来られた人々がある。この教育の方法は,1年をPhase ⅠとしてBasic Science(組織学,生化学,生理学と解剖学の一部)にあて,次の1年半をPhase ⅡとしてMedicalScience(病理学,微生物学,薬理学,解剖学)にあて,次の1年半をPhaseⅢとして臨床にあてている。PhaseⅠでは授業がたとえば次のような項目について行われる。

綜説

端板の機能

著者: 井上清恒

ページ範囲:P.370 - P.378

 はしがき
 生体内に於いては筋の収縮は運動神経によつて伝えられる衝撃によつて惹起される。ここには異種の原形質,すなわち筋線維と神経線維の間で衝撃の伝達が行われるのである。筋線維と神経線維の接触部に脊椎動物では端板end-plateと称する構造がある。この部分に於ける衝撃受渡しがどのような機構で行われるかが本稿敍述の目的である。本論に入るに先だつて脊椎動物の端板がどのような組織学的構造を有するかについて一瞥することは無用であるまい。
 脊椎動物端板の組織学的研究はGutman及びYoung(1944)1)やCouteaux2)3)らにより進展した。その構造は動物の種類によつて多少異るが,基本的な部分は共通である。運動神経線維は骨格筋内に入ると共に数百本に分枝し,それぞれ1個の筋線維に入るのである。これらの分枝は筋線維に入る前に髄鞘を失い無髄となる。この部分が終末線維terminal fiberと呼ばれるのである。終末線維は筋線維に入ると共に更に数本に分枝し,その周囲は光学的に無構造な膠状体telogliaに囲まれ,更に筋肉質sarcoplasmaとの接触面は柵状体palisadeと称する特異な構造の膜が存在する。恐らくこの部分は神経の形質膜と筋の形質膜とが密接に接触を保つている部分であろう。

論述

哺乳動物心室筋の細胞電位

著者: 松田幸次郎 ,   星猛 ,   亀山重徳

ページ範囲:P.379 - P.391

 はじめに
 心筋の電気発生の問題は心電図解釈の基礎となるばかりでなく,もつと一般的に刺激生理学としても重要な又興味あるテーマである。殊に近年発達した超微少電極(Ling & Gerard11))を用いて単一細胞より膜電位を誘導する方法は心筋発電の最も根源的な姿を知らしめるもので,その知見のもつ意味は大きい。殊に哺乳動物の心臓に於ては,心室は発電部として最強力であるから心室筋についての研究が重要となる。
 哺乳動物心室筋膜電位に関する研究としては,従来とも犬の乳頭筋10)及び犬,牛,羊のPurkinjeFiber(False Tendon)5)に関する報告がある。心室筋の中でとくにこのような特殊部位が用いられた主な理由は,この2つの部分は興奮に際して動きが比較的小さいのと,創面の少ない標本を切り出し易いからであろう。然しFalse Tendonは刺激伝導系の一部であり,本来の心室固有筋とは若干異なつた組織と見なければならぬ。又自動性興奮を示すから,自動性の研究そのものには適しているが,以下に報告する様な刺激頻度を制御して観察しようとする実験には都合が悪い。

圧反射より見た腎機能

著者: 中根公正 ,   新田貴一 ,   村田和子

ページ範囲:P.392 - P.403

 緒言
 膀胱を人工的に膨大し,膀胱内に存在すると思われる圧受容器を刺激した場合に,反射的に全身の自律神経機能に種々なる影響を与える。この点に就いてはここ数年来種々の面から追求して来た。その反射の起り方に関して,高木1)等のいう皮膚の圧受容器よりの反射と同じような結果が得られている。例えば,膀胱を人工的に膨大すれば,血圧の変動が起る。犬では一般に上昇し,兎では下降が起る。同時に脈搏数は犬で減じ,兎では増加する。また「ふるえ」,眼盪等の律動性の運動に対しても一般的に抑制を起し,また腸管の運動に対しても抑制を惹き起すことなどの事実を証明して来た。その後膀胱膨大が,頸動脈洞加圧と同様に,腎機能に強く影響し,これらの場所に分布する圧受容器に適刺激を加え,この際起る排尿の変化,及び同時に起る血圧の変化から,腎機能を追求した。

報告

Actomyosin系に対するThoulet's Reagentの作用—(Ⅲ)Actomyosin溶液に対するThoulet's Reagentの作用

著者: 落合倜

ページ範囲:P.404 - P.407

 現在筋肉の収縮及び弛緩に対するActomyosin(以下AMと略す)-adenosinetriphosphate(以下ATPと略す)系の反応機作に関する諸家の見解は,次の二つに大別する事が出来る。即ち一つはWeber1),Bozler2),Mommaerts3),永井4)らのpreenergizationの立場であり,他の一つはSzent-Györgyi5),Morales6),らのpostenergizationの立場である。後者の見解をとるMoralesは,Thoulet's reagent(以下T. R. と略す)によつてglycerol筋が短縮するというLaki7)らの報告を重要視して,この事実はAM系の収縮がATP以外の物質によつても起り,ATPの分解energyを特に必要としないentropic-electrostaticな機構に基ずくという自己の見解の裏ずけをなすものであると述べている。こゝに於て著者はT. R. によるglycerol筋の短縮がMoralesのいう如くATP収縮と同一に論じられるべき性質のものであるか否かを明かにするために前報8),9)に於て先ずglycerol筋に対するT. R. の作用を詳細に検討した結果,種々なる点でATP収縮とは異るものである事が明かになつた。

顕微分光測光法によるコイの錐体視物質の研究

著者: 藤本克己 ,   花岡利昌

ページ範囲:P.408 - P.411

 1.緒言
 網膜の視細胞外節中に存在する感光物質としては,桿体外節のRhodopsin及びPorphyropsinが詳細に研究され,その分光化学的性質も明らかにされている。一方錐体物質については,von Stüdnitz13),14),細谷・沖田・河久根8)以来種々の動物について研究が行われ,近くはWald15)17),Dartnall4)5)9)細谷・木村9)等の新らしい結果も発表されているが,錐体視物質として提唱されているもののλmaxは,近縁種の動物についても必らずしも一致していない。
 従来この種の研究には,全網膜或いは比重分別法によつて集めた桿体又は錐体外節から,digitonin等で抽出した視物質溶液について分光吸収を測定する方法がとられている。従つて桿体の場合は別として,少くも錐体については,個々の外節に如何なる視物質が含まれているかを明らかにすることは出来ない。

マウス間腦におけるアミン酸化酵素の組織化学的研究

著者: 有岡巖 ,   谷向弘

ページ範囲:P.411 - P.414

 5-オキシトリプタミン(セロトニン)を基質に用いて,その好気条件下におげる色素形成を観察することにより,組織化学的にモノアミン酸化酵素を検出する方法を記載し,その特異性及び局在性に関して検討を加えた。そしてこの方法により,マウスの間脳のモノアミン酸化酵素を組織化学的に検索し,その活性は灰白質特に視床下部に著明であり,神経細胞原形質内・脳室上衣細胞内・毛細血管壁細胞内及び脈絡叢に強度であることを認めた。
 これらの所見より,モノアミン酸化酵素が,1血液脳関門の機能及び神経細胞内におけるセロトニンの作用調節にあづかつている可能性を指摘した。

研究室から

私どもの研究室—神戸医科大学薬理学教室

著者: 雲井

ページ範囲:P.415 - P.415

 さる5月から瀬戸内海国立公園の仲間入りをした六甲山を東に控え,国際港神戸を直前にした,ちよつとした高台に大学がある。港に出入する各国の豪華船の眺めは私たちにしばしの慰めを与えてくれるのである。
 私たちの研究室の最初の担当者は,中沢与四郎氏(現長崎医大教授)で,まだ戦時中昭和19年兵庫医專の開設と共に,2年間講義をうけもたれた。昭和21年に至り,神戸医大に昇格し,中沢教授の御転任の後を継いで,同年現松本博教授が着任され現在に至つている。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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