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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学7巻9号

1956年12月発行

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巻頭言

医科の生化学の講義と実習の在り方

著者: 牧野堅

ページ範囲:P.417 - P.417

 上記の様な表題をあげたからと云つて生化学の講義と実習はこうあるべきだと主張しようと云うのではない。それは私が大学の教師になつてからわずか7〜8年にしかならず,其の資格もなし,現在でも尚これらのことに就いて迷いぬいているからである。そして又色々な講義や実習のやり方があつてよいのである,又そうあらねばならぬと思う。しかしこれから述べることは私が日頃考えていることや或は実行していることでもあるのでこの方面に関心を有せられる方ゝの御批判を得たいと思う。
 ①生化学は暗記の学問であろうか?

綜説

脊髄反射に関する最近の知見

著者: 荒木辰之助

ページ範囲:P.418 - P.429

 脊髄反射に関する研究は近年目盛しい発展が見られるが,この中でも先ずEcclesが猫の脊髄単一運動ノイロンに於て,その細胞内電位を記録する事により行つた電気生理学的研究を挙げねばならない。之によると反射興奮の場合は細胞内電位が一過性に上昇し(EPSP),反対に反射抑制の場合はその一過性下降(IPSP)が起る事が証明され,之は興奮を起すシナプスに於ては促進伝達物質が遊離され,抑制を起すシナプスに於ては抑制伝達物質が遊離される事により起ると考えられ,反射機構が全く新しい立場から一元的に説明し得るのである。又direct inhibitionが如何なる機序で行われるかをも細胞内電位の記録により詳細に分析され,その新しい解釈が試みられた。又以前から云はれていた逆方向性衝撃の中枢内に於ける抑制作用の機構も研究され,之がRenshawcellの活動による事が明らかにされ,然もこの細胞のシナプスはアセチルコリンにより興奮伝達が行われる事が証明された事は特筆に値する。
 一方Kuffler,Hunt,Granit,Leksel,田崎等の筋紡錘,腱器官及び前根線維に含まれるsmall nerve fibreの機能の研究により,反射の際の筋活動の調節機構が明らかにされたが,特にGranit等の発見したautogenetic inhibitionと云われる同一筋への抑制作用の機転が注目される事柄である。

論述

脊髄反射から観た薬物の中枢作用

著者: 高木博司

ページ範囲:P.430 - P.438

 Sherrington1)が屈曲反射を指標として中枢神経系の機能を解明しようと試みて以来,脊髄反射は中枢神経研究の手掛りとして多くの研究者に採り上げられて来たが,近年電気生理学的方法の導入に伴って脊髄について重要な基礎的知見が続々蓄積されつゝある。従つて脊髄内反射路の解剖学的並びに生理学性状を根拠にして薬物作用を分析することはその中枢作用を知る上に有用な手段の一つであるといえよう。
 脊髄反射には種々あるが以下主として骨格筋に現われる体性反射及び内臓器官に現われる内臓反射に対する薬物の作用について述べることにする。

報告

哺乳動物心筋膜電位研究用電子回路

著者: 桜井隆 ,   星猛 ,   亀山重徳 ,   松尾正之

ページ範囲:P.439 - P.445

 1.まえがき
最近電気生理学の分野で超微小電極(Ling and Gerard)が盛んに使用される様になつて来たが,周知の如く超微小電極用増幅器には次の様な条件を満たすことが必要と考えられる。まず使用する電極の抵抗が非常に高いので(10〜数10MΩ)増幅器初段の入力抵抗が充分高いことが要求される。又この様な高い抵抗の電極を使用する際には,入力の浮遊容量によつて高周波特性が劣化する為,早い立ち上りを有する活動電位に充分追従できなくなるから,極力入力容量の影響を避けなければならない。更に静止電位を長時間に亘つて観察する必要も往々有るので極めて安定な直流増幅器であることが望まれる。尚一般的な要求としてできるだけ安価で回路も単純な容易に組立てられるものであることが望ましい。
 Nastuk and Hodgkin1)は,この様な諸条件を比較的良く満足する回路としてcathode follower方式を採用したが,cathode followerに於ては,格子,陰極間の容量が1/1+μ(μは増幅定数)となること,及び出力インピーダンスが低いことなどの理由から高周波特性向上に有効となる。然しcathode followerは単管では安定度が悪いために古河2)は,更にこれをpush pullにし安定度の向上を図つている。

Actomyosin系に対するThoulet's Reagentの作用—(Ⅳ)Actomyosin系諸蛋白に対すThoulet's Reagentの作用

著者: 落合倜

ページ範囲:P.445 - P.448

 前報1)でglycerol筋を著明に短縮させるThoulet's reagent(以下T.Rと略す)によつて,Actomyosin(以下AMと略す)溶液も沈澱することを報告した。
 本報ではAMを構成する諸種の蛋白質に対するT.Rの作用を検し,以下述べる如き成績を得た。

フォスファターゼに関する組織化学的検討

著者: 有岡巖 ,   谷向弘

ページ範囲:P.449 - P.451

 組織化学的に検出し得る重要なる酵素として,アルカリ-フォスファターゼがGomori7),高松26)によつて記載されて以来,酵素の組織化学的研究が次第に盛んになり特にアルカリ及び酸性フォスファターゼについては極めて多数の成績が発表されて来た。
 然るにこゝに近年次第に論議の対象となつてきた一つの問題がある。

——

ポメラート教授(1)

著者: 中井準之助

ページ範囲:P.452 - P.453

 Prof.Charles Marc Pomeratは組織培養殊に位相差顕微鏡映画を用いての研究では知る人が多い。テキサス大学医学部解剖学の先生でProfessor of Cytologyということになつている。写真(1)は昨年帰国してから迎えた私の誕生日に贈られてきたものである。3年前の昭和28年5月,単身テキサスに乗り込んで,組織培養研究室の前に立つた時,忙しそうに大股で現われて来た老人,アメリカの外科医や床屋の親爺が着る詰襟,半袖の白い上着に白ズボン,首からはストツプ・ウオツチを吊るした禿頭の人が,はじめて見るPomerat教授その人であつた。老人とは確かにその時得た第一印象に違いなかつたし,少くとも60歳以上であろうと感じた。到着早々,今夜7時から映画を見せるからと呼び出しを喰つて,外国からの見学者と共に10時すぎまで,のべつまくなしの映画と,それ以上に留まることのない説明に思わず溜息が出てしまつた。日曜とても朝は4時過ぎに研究室に現われたり,1日中研究室の中を動き廻り,皆を叱咤して廻るエネルギーに驚いたが,間もなくやつてきた教授の誕生日に未だ50歳前と知つて第一印象以来の謎が少し解けた気もした。去る5月,日本にやつて来られた時のこと,奈良見物の二日間を終えて京都に戻つて来た。見るものすべて800年前,1000年前。疲れたのも道理,吾々は既に数万年を歩きまわつたのだからと笑い乍ら,ホテルに来た。

日本生化学会総会印象記

著者: 吉川春寿

ページ範囲:P.455 - P.455

 日本生化学会第29回総会は去る10月31日から11月2日までの3日間,九大医学部で行われた。その前2日間は同じ場所で蛋白質構造討論会があつたので,私は5日間にわたつて福岡にいたわけである。生化学という学問が原子物理学と共に時代の科学だといわれる位にめざましい発展をしつゝあり,したがつて生化学の研究にたづさわる学者,ことにわかい世代の学者が急速に増えたということも原因となつて,特別講演として,Greenstein博士のアミノ酸栄養に関するもの,福本寿一郎教授の細菌amylase及びProteaseの産生機転,本村雄吉教授のK効果を中心として見た脳組織の糖代謝,塙功氏の視細胞におけるPhotometabolism,生化学総会の演題は毎年増加し,今年は一般演題183,蛋白質と酵素の生合成シンポジウム14,脳及び神経の生化学シンポジウム16に及び,第一,第二会場の二つを使つた。
 近頃の学会は幻燈使用が多くなつて図表が見やすく,進行も円滑になつて大変結構だが,一面,会場内が暗いのでノートをしたり,あまり聞かなくてもよい演題の間,他の抄録を読んでいるというわけにゆかなくなり,いやでも講演をきかなければならないのは,私の様な不勉強者には苦痛に感ぜられることもある。幸か不幸か,毎日晴天がつづいたので,会期中の半ば以上は外に出て,日当りのよい芝生に坐り,他の人達と誤論風発に時を過した。

第4回筋収縮の化学班研究協議会報告

著者: 殿村雄治 ,   藤野和宏 ,   林浩平 ,   山添三郞 ,   関根隆光 ,   八木康一 ,   名取礼二 ,   永井寅男 ,   菅原努 ,   上住南八男 ,   丸山工作 ,   岡本彰祐 ,   北川正太郞 ,   酒井敏夫 ,   大沢文夫

ページ範囲:P.456 - P.460

 筋化学班の研究協議会は,この夏,我が国における筋化学研究発祥の地である札幌で行われることとなつた。7月29日(於北大),30日(於札幌医大)の両日,北大及び札幌医大の若い研究者も総員参加して,50名に及ぶ研究者が同一のテーマを巡つて議論を沸騰させ,2日の会期も短きに過ぎる感があつた。
 殿村
 殿村,渡辺は先にAM-ATP系のkinetic studyから,energy供給と状態変化とがcoupleしていると結論した。即ち,ATPaseと状態変化とのそれぞれのATP結合点が同じであり,反応はcyclicな過程を経ること,酵素化学的にmyosinがATPase反応の結果活性状態になることを推論して反応機構式を提出した。しかし幾つかの点で実証があつたわけではなく,そう仮定した方が説明しやすいというにすぎなかつた。

研究室から

私たちの研究室—名古屋大学理学部物理教室高分子研究室

著者: 朝倉

ページ範囲:P.454 - P.454

 私たちは素粒子論で名高い坂田先生達と同じ教室に籍をおいています。物理しか教わらなかつた物理出ばかりの集りです。1昨年末以来皆で寄つてたかつてactinをいぢりまわしています。生れつき生きものが好きだつた訳ではないようです。
 私達の研究室は47年に大沢さん(助教授)を中心に生れました。半講座で教授がいません。現在大沢,大井,今井,堀田,朝倉と名を連ねています。研究室や名前のように且つて合成高分子の溶液を扱つて来ました。その時代の最高作品は大沢,今井による高分子電解質の理論でしよう。私共には色々なものが高分子電解質に見える習性があります。これは人によりπ-電子にみえたりMichaelis流に映つたりするのと一緒です。実験面ではぱつとした結果が出ていません。現在動いている流動複屈折の装置は岡島さん(昨年医学部に転出)の作です。高分子相手の測定技術を超音波をやつていた大井さん等に蓄められています。このような下地の上に筋肉蛋白質の仕事が始められました。

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生体の科学 第7巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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