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特集 脳神経回路のダイナミクスから探る脳の発達・疾患・老化
特集「脳神経回路のダイナミクスから探る脳の発達・疾患・老化」によせて
著者: 榎本和生12
所属機関: 1東京大学大学院理学系研究科 2東京大学ニューロインテリジェンス国際研究機構
ページ範囲:P.2 - P.3
文献購入ページに移動神経回路ダイナミクスという視点からヒトの一生をみると,脳神経回路は異なる年齢層において,異なる制御による再編を受けており,しかもその異常は様々な脳疾患と密接にかかわることが見えてくる。出生後数か月から数年間は,生後の様々な経験に基づいて“不要なシナプス(神経回路)”が選択的に除去されることにより,脳の機能成熟が促進される。多くの自閉症患者の脳ではシナプス除去に異常が認められることから,発達期のシナプス除去異常は自閉症の一因である可能性が考えられている。青年期になると,シナプス数は一見すると一定数に保たれているように見えるが,局所に着目すると,記憶や学習など脳機能の発現に伴い,常にシナプスの除去と形成がダイナミックに起こっている。このとき,除去と形成が時空間的なバランスを保つよう制御されて起こっているために,シナプス数は一定に保たれていることがわかってきた。この“除去と形成の定数制御”が崩れてシナプス数が減少すると統合失調症につながることも見えてきている。更に老齢期になると,“除去と形成のバランス”が徐々に崩れてシナプス数は減少し,この減少は脳機能低下の一因と考えられる。更にアルツハイマー病などの認知症では,このシナプス数の減少が加速することがわかっており,この老齢期における“除去と形成のバランス”の過剰な崩れを是正することが,認知症の進行を抑制するためのターゲットの一つとも考えられる。
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