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文献詳細

雑誌文献

生体の科学70巻4号

2019年08月発行

文献概要

特集 メカノバイオロジー Ⅲ.力学環境依存的な細胞の機能発現

間質の硬さと線維芽細胞の多様性が規定するがんの進展メカニズム

著者: 江崎寛季1 水谷泰之1 榎本篤1 高橋雅英1

所属機関: 1名古屋大学大学院医学系研究科腫瘍病理学

ページ範囲:P.312 - P.316

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 病理診断の現場では,手術によって摘出された組織にあらかじめ割を入れてホルマリン固定することがあるが,固定後にがんの割面が膨隆する現象が観察される。このことは,腫瘍組織内に高い応力(stress)が生じていることを意味する。これは,がん周囲に厚い線維性被膜が形成されることによる外力の影響に加え,がん組織内の硬さ(弾性率)自身が上昇していることによる。乳房のセルフチェックや触診により乳がんを発見することができるのも,まさにがんは周囲の正常組織よりも硬いからである。臨床の現場ではエラストグラフィーを用いた腫瘍の硬さの測定が良・悪性の判定のために使用されている。
 がん組織を硬くする要因は主に線維芽細胞が産生するコラーゲン,ラミニン,フィブロネクチンなどの細胞外基質(extracellular matrix;ECM)の蓄積である。間質(がん細胞以外の領域)に沈着したECMはがん細胞の接着のための新たな足場となり,その運動能・浸潤能の上昇に多大な貢献をすることは周知の事実である。加えて,近年の研究では,間質の硬さそれ自体ががん細胞の悪性化を更に促進することが明らかにされており,特に膵がん・胆管がん・消化管の硬がんなどの難治がんの病態の本質を把握するには,このようながんのメカノバイオロジーの理解が必須である。更に最近の研究により,間質を構成する線維芽細胞は決して一様・均一ではなく,がんの悪性化を促進する細胞と抑制する細胞の二者が存在することが示唆されている。本稿ではがんの病態の理解におけるメカノバイオロジーの重要性と,間質を構成する線維芽細胞の多様性について筆者らの予備的な知見を加えて概説する。

参考文献

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掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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