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文献詳細

雑誌文献

生体の科学70巻4号

2019年08月発行

文献概要

連載講座 生命科学を拓く新しい実験動物モデル−19

ナメクジウオと脊椎動物の起源—フロリダから南仏,そして厦門へ

著者: 高橋宗春1

所属機関: 1

ページ範囲:P.344 - P.349

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 医学部を出て臨床医をしていたころは,“疾患のモデルマウス”などの言葉を日頃からよく耳にし,モデル生物という概念になんの疑いも持っていなかった。ところが,英国留学をきっかけに研究分野を動物学に移し,欧州の進化発生学の学会などに参加したりすると,そこは“モデル”生物という言葉に敵意というか,あからさまな嫌悪感を隠さない研究者ばかりの集団で,当初は戸惑ったのを憶えている。確かに,種の多様性が大好きな動物学者からみれば,すべての左右相称動物は等しく5億数千万年の時をともに過ごしてきたはずである。そこでどの種が規範となるモデルで,どの種が変なアウトローか,などと議論しだしたら喧嘩になってしまうであろう。実際のところ,伝統的な多くのモデル動物は,飼いやすいとか継代が早いとかお金がかからないだとか,要は研究者の都合で選ばれてきたわけで,“モデル”という言葉が示唆する典型的普遍的な形態や機能や発生メカニズムを保持しているとは限らない。むしろ,世代回転が早いために,より修飾を受けている可能性も高いわけである。そうはいっても,モデル生物が生物学の進歩に多大に貢献してきたことはまちがいのない事実で,酵母にせよケンサキイカにせよイモリにせよ,研究テーマに応じてまさに奇跡のようにドンピシャリの生物がいてくれたおかげで,われわれの学問が進歩してきた。
 進化学の分野でのモデル生物は何か,と改めて問われれば,それはやはり系統樹上で要所を占めていて,そのうえ進化速度が遅くて比較的祖先型が保たれている可能性が高い生物種,ということになるのであろうか? そこから相同性相似性を見極め,進化・多様化の過程やそのメカニズムを検証していく作業が容易になるからである。もちろん絶滅した種まで含めてモデル生物として研究できればそれは進化学者のパラダイスであるが,現時点では古生物学の解析手法は著しく限定的で,この点ではまだまだ現実的な実験技術の制約を受けている。それでもモデル生物の選択理由が,入手しやすいとか実験操作がしやすいとかいった人間の都合から,技術進展のおかげで純粋に科学的な見地から選べるようになってきた,というのが現状ではないだろうか。

参考文献

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掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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