特集 ビッグデータ時代のゲノム医学
Ⅳ.骨・関節疾患のゲノム医学
思春期特発性側弯症に対するゲノム研究の現状
著者:
渡邉航太1
池川志郎2
松本守雄1
所属機関:
1慶應義塾大学医学部整形外科
2理化学研究所生命医科学研究センターゲノム機能医科学研究部門骨関節疾患研究チーム
ページ範囲:P.152 - P.157
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脊柱側弯症とは,脊柱が側方だけでなく後方や前方に捻じれるように変形していく疾患である。様々な病因による側弯が報告されている。そのなかで,思春期に発症する変形の原因が不明な側弯症(思春期特発性側弯症。以下,側弯症)が70-90%と最多である。通常,側弯症は第二次性徴前後で発症し,身体の成長と共に変形が進行するが,その程度には患者間で大きな差異がある。多くの症例では変形は軽度にしか進行しないため,X線写真を用いた経過観察のみで治療は必要ない。X線による指標であるコブ角が20°を超える中等症例に対しては装具治療が行われる。更にコブ角40-50°を超える重症例に進行した場合は,手術による高侵襲な治療が必要になる。臨床現場では,ここで大きな疑問が2つ生じる。すなわち,なぜ側弯症が発症するのか,そして,なぜ進行する例としない例があるのか,という疑問である。特に,手術例では脊柱がインプラントで固定されてしまうため,是非,避けたい治療である。そのため進行する/しないが事前に予測できれば,更にはその機序が解明されれば,患者にとって大きな福音になることはまちがいない。
側弯症の病因に関して,今まで多くの領域で研究が続けられてきた。すなわち,遺伝子,環境因子,ホルモン,骨代謝,解剖,バイオメカニクス,神経生理,筋結合織,成長異常である。しかし,残念ながら前述した疑問を説明する明確な機序は未解明である。本稿では前述のうち,側弯症のゲノム研究の現状について概説する