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文献詳細

雑誌文献

生体の科学71巻3号

2020年06月発行

文献概要

特集 スポーツ科学—2020オリンピック・パラリンピックによせて

競技スポーツ選手を対象とした高地トレーニングの科学

著者: 杉田正明1

所属機関: 1日本体育大学体育学部

ページ範囲:P.193 - P.199

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Ⅰ.高地トレーニングによる効果のメカニズム
 空気の薄い高所(低圧低酸素環境)でトレーニングをすると,大気中の酸素分圧が低くなり,体内の酸素の取り込みが減る。そのため,身体はそれに適応しようとエリスロポエチンという骨髄における赤血球生産を促進するホルモン増加によって,赤血球やヘモグロビン,血液量などを増やそうと代償的反応が生じ,ヘモグロビンやヘマトクリットを増加させる。その結果,主として血液学的メカニズムによって最大酸素摂取量やランニングパフォーマンスを改善させることが可能であると報告されている1)。また,ヘモグロビンと酸素の親和力を調整する赤血球2,3-DPGも増え,ヘモグロビンから筋組織などへ多くの酸素を供給することができるようになる。更に毛細血管の発達,ミオグロビン濃度の増加,ミトコンドリアにおける酸化系酵素活性の増加およびミトコンドリア量の増加がもたらされ,非血液学的メカニズムによって酸素利用効率が高まることもトレーニング効果として挙げられている1,2)。高い持久的競技者においてもhypoxia-inducible factor1αやGLUT-4などのmRNA濃度が増加することも筋生検の結果から報告されており3),末梢における機能改善の面からも有酸素パフォーマンスを向上させることが明らかとなっている。低酸素環境下で行う高強度間欠的トレーニングによって,筋細胞内から細胞外への乳酸輸送を担うモノカルボン酸輸送担体4(MCT4)が有意に増加したことから,解糖系によるエネルギー産生に関連する無酸素性能力や乳酸代謝能の改善に有効であることも報告されている4)。したがって,高地トレーニングは持久系の競技だけでなく,球技系や様々な競技で有効であるといえる。

参考文献

1)Wilber RL:川原 貴,鈴木康弘監訳:高地トレーニングと競技パフォーマンス,講談社,東京,2008
2)浅野勝己,小林寛道:高所トレーニングの科学,杏林書院,東京,2004
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. 39:107-127, 2009
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9)Chapman RF:第20回高所トレーニング国際シンポジウム2017 in Tomi, Naganoプログラム・抄録集,pp24-45,2017
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. 101:1386-1393, 2006
. 47:i26-i30, 2013
. 18:162-167, 1986
. 120:387-391, 1992
. 127:1569-1578, 2019
16)Wilber RL:2019 San Moritz Altitude Training Base August-October 2019 AFTER-ACTION REPORT, 2019(私信)
17)Pritchard D:BBC Sport. 2019.7.21, https://www.bbc.com/sport/rugby-union/49056535
. 25:20-38, 2015
. 49:509-517, 2017
. 14:635-643, 2019

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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