icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

生体の科学71巻4号

2020年08月発行

雑誌目次

特集 細胞機能の構造生物学

特集「細胞機能の構造生物学」によせて

著者: 吉川雅英

ページ範囲:P.280 - P.280

 今回の特集は,構造生物学の分野で活躍している若手の方や,それを細胞レベルにまで広げようとしている方々に執筆をお願いした。構造生物学というと,数年前まではX線結晶解析と核磁気共鳴(NMR)が主に使われていたが,今回の特集をみてもわかるように,クライオ電子顕微鏡が大きな役割を果たすようになってきている。電子線直接検知型カメラが商用化されたことと,解析ソフトウエアの進歩により,2013年ごろからクライオ電子顕微鏡の解像度革命が始まった。日本では,誰もが使える形で十分な最新型クライオ電子顕微鏡が整備されていなかったため,この波に乗り遅れていた感が否めなかったが,2017年以降,文部科学省や国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)のサポートもあり,クライオ電顕ネットワークという形で共同利用施設として広く使われるようになってきた。今回の特集で執筆をお願いをした方々のなかにも,共用の電子顕微鏡を使って結果を出している方々が多い。
 もう少し広い視野で見ると,構造生物学がビッグサイエンスになりつつあると感じている。ここで言う「ビッグ」は,3つの意味がある。1つは金銭的な面で,クライオ電子顕微鏡をはじめとする最先端機器は高額であると同時に維持費も掛かり,とても1つの研究室で維持管理をすることができない。もう1つは,データのサイズで,数テラバイトにも達するデータを処理する必要があり,いわゆる生命科学の知識だけでなく,情報科学,物理学など幅広い知識を学ぶことが重要になってきている。そして3つめは,扱う対象が大きくなっていることである。これまでは,X線結晶解析とNMRは多くの場合,1分子に対して使われてきたが,クライオ電子顕微鏡はもっと大きな複合体や細胞レベルの構造も見ることができる。しかし,そこで使われている手法の一つ,クライオ電子線トモグラフィーについては,まだ多くの技術開発や応用分野を開拓する必要がある。ぜひ,色々な分野の研究者がこの特集を読んで,自分の将来の研究に構造生物学を取り入れていただければと考えている。

Ⅰ.細胞骨格の構造生物学

繊毛の構造と機能

著者: 吉川雅英

ページ範囲:P.281 - P.285

 ヒトをはじめとする真核生物の繊毛は,プロペラやアンテナの働きをする重要な細胞内小器官である。単細胞の緑藻クラミドモナスや精子では,ほぼ繊毛と同じ構造を持つ鞭毛がプロペラとして働いている。ただし,原核生物の鞭毛は全く異なる細胞内小器官なので,最近では真核生物の鞭毛も含めて繊毛と呼ばれることが多い。
 繊毛は,身体の中で様々な役割を果たしていることから,繊毛の遺伝子変異や欠損が起こると様々な病気を引き起こし,それらは繊毛病(ciliopathy)と呼ばれる。実際,筆者もヘルシンキの繊毛に関する学会で繊毛病患者に会ったことがある。欧州や米国には繊毛病の患者団体があり,基礎研究を含めた学会に参加して繊毛病の研究を応援してくれているのである。話す機会のあった患者はまだ小学生くらいの女の子で,聞いてみると筆者らの研究室で働きを解明したCCDC39という遺伝子欠損が原因で,気管支炎に罹りやすいのだという。ただ,感染症に気をつけることで,かなりの程度通常の生活を送ることができているようであった。筆者らの研究は主に基礎的な部分ではあるが,将来的にこのような患者の役に立つことができれば,と思いを新たにした。

心筋の細いフィラメントの立体構造から明らかになった筋収縮・弛緩のカルシウム制御機構

著者: 藤井高志 ,   山田有里佳

ページ範囲:P.286 - P.291

 筋収縮のカルシウム制御機構は生命活動に不可欠であるが,立体構造を基盤とした詳細な機構はほとんどわかっていなかった。筋収縮・弛緩制御の中心は筋肉の細いフィラメント上に組み込まれたカルシウムイオンで駆動するスイッチ機構である。筆者らは,クライオ電子顕微鏡を用いてカルシウム存在下および非存在下における細いフィラメントの立体構造変化を明らかにすることにより,筋収縮・弛緩制御メカニズムの構造基盤を明らかにした。

トロポミオシンは筋収縮の緩いスイッチなのか?

著者: 小田賢幸

ページ範囲:P.292 - P.297

 筋肉はミオシンモーターがアクチンを滑らせることにより収縮するが,そのオンオフをカルシウムイオン依存的に制御しているのがトロポニンとトロポミオシンである。この機構の詳細は既に前稿(286頁)で藤井高志先生が詳しく説明されているため,本稿では既報において書ききれなかったトロポミオシンの構造的性質について,議論してみたい。筆者はこれまで繊毛を中心とした微小管の研究をしていたため,本研究で初めてアクチンに触れることになった。微小管研究者からすると,非常に不可思議なアクチンとトロポミオシンの関係について,新参者の視点から考察する。

微小管結合タンパク質

著者: 吉川知志 ,   仁田英里子 ,   今崎剛 ,   仁田亮

ページ範囲:P.298 - P.303

 細胞はすべて固有の動的な形態を持ち,なかには運動するものもある。このような細胞の形態維持や運動の際の骨組みとなるのが,細胞骨格と呼ばれるタンパク質複合体である。細胞骨格は太さにより3種類に分類され,細いものからマイクロフィラメント,中間系フィラメント,そして最も太いものが微小管である。微小管は直径25nmの中空な管状線維であるが,αおよびβチューブリンから成るヘテロダイマーを基本単位として,それが長軸方向に連なってプロトフィラメントと呼ばれる細線維構造体を形成し,それが10-15本程度,螺旋状に結合することで管状の構造が形づくられている1)。長軸方向に交互に位置するα,βチューブリンの特性の違いにより微小管は方向性を有し,βチューブリンが露出する端はαβチューブリンヘテロダイマーが付加(重合)したり解離(脱重合)する速度が速くプラス端と呼ばれるのに対し,反対端は逆の性質を持ちマイナス端と呼ばれる1)
 微小管は極めて動的な細胞骨格で,常に重合と脱重合を繰り返すことにより細胞形態の維持や変化を担い運動を制御するのみならず,細胞分裂や細胞内物質輸送においても極めて重要な役割を果たす。この微小管の重合と脱重合のバランスは多種多様なタンパク質により制御されており,なかでも微小管に直接結合するタンパク質群は微小管結合タンパク質(microtubule associated proteins;MAPs)と呼ばれる1)。MAPsは微小管への結合特性などから幾つかのグループに分類され,代表的なものは古典的(構造的)MAPs,分子モーター,プラス端結合タンパク質(+TIPs),マイナス端結合タンパク質(-TIPs)の4種類である(図1)。本稿ではこれらについて,筆者らの最近の成果を中心に概説したい。

アクチンの機能を構造から理解する

著者: 成田哲博

ページ範囲:P.304 - P.309

 アクチンは真核生物のすべての細胞に存在し,非常に多くの重要な役割を果たしている。哺乳類には6つのアクチンが存在するが,そのうち量の多い骨格筋αアクチンと細胞質βアクチンについては,爬虫類,鳥類,哺乳類において1残基の変化もない。この1点をみても,アクチンというタンパク質がいかに重要かわかるであろう。筆者らはこのアクチンのダイナミクスを構造から理解するために,クライオ電子顕微鏡を中心に様々な手法で長年研究してきた。本稿では,このアクチンの性質が分子構造からどのように説明されるか,①アクチン線維構造が2本のストランドから成る意味,②アクチン分子内構造変化,の2つに沿って説明したい。

Ⅱ.細胞膜

胃の酸性化の分子メカニズム

著者: 阿部一啓

ページ範囲:P.310 - P.314

 食物消化時の胃の中は強い酸性である(pH 1)。細胞内溶液が中性(pH 7)であることを考慮すると,この状況は実に100万倍のH濃度勾配に相当する。これは胃プロトンポンプが“酸”の実体であるHを能動輸送することで作り出されている。ヒトの遺伝子にはカチオン輸送体が数多くコードされているが,われわれの体には,胃のほかにこれほど酸性度の高い,もしくは急峻なカチオンの濃度勾配を持った組織は存在しない。胃プロトンポンプは,どのようにして強い酸性溶液を作り出しているのであろうか? 胃プロトンポンプの複数の結晶構造によってそのしくみが明らかになってきた1)

クライオ電子顕微鏡が加速するギャップ結合の構造研究

著者: 大嶋篤典

ページ範囲:P.315 - P.320

 われわれヒトを含む多細胞生物において,その体を構成する細胞同士は互いに独立して機能しているわけではなく,互いにネットワークを構築することで,組織の恒常性を保っている。細胞間コミュニケーションを担う結合構造の一つにギャップ結合がある。これは,形態学的にはハチの巣状の孔の集合体が電子顕微鏡で観察されるが,一つひとつの孔は隣接する細胞の細胞質同士を直接つなげるチャネルであり,それらがクラスターとなって集積することで隣接細胞同士を電気的,化学的に共役させている。“ギャップ”という表現は隣接細胞の細胞膜の間に2-4nmの隙間が存在することから名付けられ,集合するチャネルはギャップ結合チャネルと呼ばれる。電気生理学による研究から,このチャネルはギャップ結合を挟んだ電位差(transjunctional voltage;Vj),細胞膜電位,カルシウムイオンやpHといった化学的な要素など,異なる条件に応答して開閉が制御されることが知られている1-3)。しかし,チャネルの開閉と構造を結びつけた解釈,特にこのチャネルがどのような過程を経て閉じるのか,といった問題を明快に説明できる構造学的なモデルは提示されていない。
 ギャップ結合タンパク質には2つの遺伝子ファミリーが知られ,脊索動物ではコネキシン(connexin;Cx)が,無脊椎動物ではイネキシン(innexin;INX)がギャップ結合チャネルを形成する。これらの間にアミノ酸配列の類似性は認められないが,いずれも4回膜貫通型の膜タンパク質で,ヘミチャネルと呼ばれる導管型の構造が隣接細胞の間で向かい合って結合する,という特徴は共通している。ギャップ結合チャネルの構造研究は,X線や電子線を用いた結晶構造解析の研究報告がなされていたが4-9),近年クライオ電子顕微鏡による単粒子解析の高分解能構造が報告されるようになった10-12)。本稿では,クライオ電子顕微鏡を中心にして行われている最新のギャップ結合チャネルの構造研究から示唆される開閉メカニズムについての知見を紹介する。

ミトコンドリアへのタンパク質搬入ゲート TOM複合体の構造解析からわかってきたこと

著者: 荒磯裕平

ページ範囲:P.321 - P.326

 TOM(translocase of the outer mitochondrial membrane)複合体はミトコンドリア外膜に存在する膜透過装置で,サイトゾルで合成されたミトコンドリアタンパク質の約99%がTOM複合体を通ってミトコンドリアへ取り込まれる。TOM複合体の立体構造は20年以上にもわたって不明であったが,近年,筆者らはクライオ電子顕微鏡解析によってTOM複合体の精密構造を決定することに成功した。本稿では,立体構造解析によって明らかになったTOM複合体の機能について,最新の知見を紹介する。

クライオ電子顕微鏡によって明らかになったP4-ATPaseフリッパーゼの脂質輸送

著者: 西澤知宏

ページ範囲:P.327 - P.332

 細胞を覆う脂質二重膜は,その2つの層の間で非対称な脂質分布を示す。真核生物では,ホスファチジルセリン(PS)が通常細胞質側に偏っており,死細胞ではこの非対称性が崩れて細胞外側に露出したPSがファゴサイトによって“eat me”シグナルとして認識され,貪食される。平常時の細胞において,このPSの非対称性を作り出しているのがP4-ATPaseと呼ばれるフリッパーゼである。筆者らのグループは,最近クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子構造解析によってP4-ATPaseの脂質輸送サイクル中の複数中間体の構造を明らかにして,その独自の輸送機構を解明するに至った。本稿ではこれを紹介したい。

回転分子モーターV1-ATPaseの回転機構

著者: 山登一郎 ,   鈴木花野 ,   村田武士

ページ範囲:P.333 - P.337

 V1-ATPaseは,腸内連鎖球菌Enterococcus hiraeの細胞膜で細胞内Naの排出を担うV型ATPaseの触媒頭部部分である。その非対称構造から,四次構造を持つタンパク質の示す協同性の秘密が明らかになった。そうした知見に基づき,ATPの化学エネルギーを利用して回転の運動エネルギーに変換する本モーターの分子メカニズムを提案する。

Ⅲ.細胞分裂・核の構造細胞生物学

中心体の構造と細胞分裂

著者: 松橋恭平 ,   北川大樹

ページ範囲:P.338 - P.342

 中心体は,動物細胞と一部の下等植物の細胞内に存在する,進化的に保存された細胞小器官である。中心体は,微小管形成中心として機能し,分裂期には二極の紡錘体を形成して効率的な染色体分配を行う。また,微小管の形成を促進し細胞骨格として重要な微小管ネットワークを構築することで,細胞形態や移動のみならず,細胞内輸送にも大事な役割を果たしている。中心体の数や構造の異常は,小頭症をはじめとする神経発達疾患やがんといった様々な疾患との関連が報告されているため,中心体は多彩な生命現象に関与する多機能な細胞小器官であると考えられる。ここでは,その基礎となるべき中心体の複製や構造に関する研究を中心に,最新の知見も交えながら概説する。

ヌクレオソームによるクロマチンの構造多様性

著者: 藤田理紗 ,   胡桃坂仁志

ページ範囲:P.343 - P.347

 真核生物のゲノムDNAは,秩序立った階層的な高次構造体であるクロマチン構造を形成して細胞核内に収納されている。転写,複製,損傷修復といったゲノムDNAの機能発現の際には,クロマチンの凝縮や弛緩によるダイナミックな構造変化によって,それらの関連因子とDNAとの相互作用が制御されている。近年のクライオ電子顕微鏡の著しい技術向上により,クロマチン制御機構に関する構造生物学的知見が多数報告されている。本稿では,クロマチンの基盤ユニットであるヌクレオソームと複数のヌクレオソームがつながったオリゴヌクレオソームの構造から示されるクロマチン構造のダイナミクスについて紹介する。

Ⅳ.植物の構造

環境変化に応じて光化学系Ⅰが形成する様々な超複合体の構造

著者: 田中秀明 ,   栗栖源嗣

ページ範囲:P.348 - P.352

 植物や藻類,光合成細菌などが持つ反応中心(reaction center;RC)は,光エネルギーを化学エネルギーに変換する膜タンパク質複合体である。キノン型と鉄-硫黄型の2種類に大別され,酸素発生型光合成の場合にはキノン型RCをコアに持つ複合体を光化学系Ⅱ(photosystem II;PSII),鉄-硫黄型RCを持つ複合体を光化学系Ⅰ(photosystem I;PSI)と呼び,生物種によって多量体を形成したりアンテナ系タンパク質を結合したりして,超複合体構造をとることが知られている。本稿で取り上げるPSIは構造形成の観点から,①緑色硫黄細菌などが持つ単純な鉄-硫黄型RC,②RCに電子伝達などの機能サブユニットが結合したPSIコア複合体,③PSIコア複合体が会合したオリゴマー構造,④PSIコア複合体にアンテナ系タンパク質が結合したPSI超複合体の4つに区別して議論できる。
 近年,植物や緑藻が周囲の光環境に応じ,PSIコア複合体の内部アンテナに加えて集光アンテナであるLHCI(light-harvesting chlorophyl protein complex I)やLHCIIを動的に配置してPSIIとPSIで励起バランスを調整する“ステート遷移”の分子メカニズムも明らかになってきた。その環境適応の様式が生物種によって多様であることも興味深い点である。本稿では,PSIが形成する様々な超複合体の構造形成の観点から幾つかの研究例を紹介したい。

光化学系Ⅱ複合体

著者: 皆川純

ページ範囲:P.353 - P.358

 これまで光化学系Ⅱ(PSII)複合体は,X線結晶解析により反応中心部分と集光アンテナ部分のそれぞれ個別の構造が明らかになっていたが,実際に機能している超複合体(PSII-LHCII超複合体)の構造は知られてこなかった。最近のクライオ電子顕微鏡(Cryo-EM)技術の展開により,複数の生物種でPSII-LHCII超複合体の構造が報告された。バリエーションの幅が大きい集光アンテナやその結合部分の構造が明らかになることで,光合成生物の多様な生存戦略が理解されようとしている。

解説

造血幹細胞がつくられる新たなしくみ

著者: 福原茂朋 ,   盧承湜 ,   小栗エリ ,   山本清威 ,   石井智裕

ページ範囲:P.359 - P.363

 生涯にわたって血球細胞を産生する造血幹細胞は,背側大動脈の腹側に位置する血管内皮細胞からつくられる。これら造血能を有する内皮細胞を造血性内皮細胞といい,造血内皮細胞が血管壁から剝離し造血幹細胞へ生まれ変わる現象を内皮造血転換という。造血性内皮細胞と血管内皮細胞は共に中胚葉に由来し,共通の起源を持つと考えられているが,これら細胞の発生メカニズムについては不明な点が多く残されている。本稿では,造血系の発生プロセスについて概説すると共に,造血性内皮細胞の運命決定機構について筆者らの知見を含め紹介する。

Förster共鳴エネルギー移動の原理に基づく二光子励起光遺伝学操作法の開発

著者: 金城智章 ,   寺井健太

ページ範囲:P.364 - P.369

 近年,生体イメージング技術の進歩によって,細胞内シグナル伝達を生体内で,高い時空間解像度で観察することが可能になってきた。しかし,観察しているシグナルと,結果として起こる表現型との間の因果関係を証明することは困難であり,摂動を加えて背景に存在する分子的なメカニズムを検証することが求められてきた。光誘導性タンパク質を用いて細胞内シグナル伝達系を光で操作可能な非チャネルロドプシン型の光遺伝学は,そうしたニーズに答える技術として近年急速な発展を遂げている。しかし,これらの系は培養細胞系ではよく使用されているものの,生体内での使用例は非常に少ないのが現状である。本稿では,生体観察に有用な二光子励起顕微鏡のための光遺伝学ツールの開発について紹介する。

--------------------

目次

ページ範囲:P.279 - P.279

次号予告

ページ範囲:P.370 - P.371

あとがき

著者: 栗原裕基

ページ範囲:P.372 - P.372

 コロナ禍が世界を席巻する中で大学での研究も制限され,研究活動は不要不急なのかと首をかしげてしまいますが,こうした時期は逆に自分の中にある「不急の要」を見つめ直すいい機会なのかもしれません。しかし,科学が日々急速に進歩する中,のんきなことを言っていられないという思いも一方ではあります。本特集のテーマである構造生物学も,クライオ電顕の登場などで急速に研究が進み,現在最も注目される分野の一つになっています。「不急の要」の追求にも新しい視点や方法論を取り入れていく「急」によってモノの見え方がどんどん深まっていくということを,今回の特集記事は実感させてくれます。
 松尾芭蕉は俳諧の理念として「不易流行」を説きましたが,不易(変わらざるもの)と流行(変わりゆくもの)の根本には同じ風雅を極めようとする精神があるといいます。真理を極めようとする科学においてもそれは通じるということを構造生物学の研究から学びつつ,改めて「不急の要=不易」を見つめ直したいと思う次第です。ご編集いただいた吉川雅英先生,ご寄稿いただいた諸先生方に改めて感謝申し上げます。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?