特集 組織幹細胞の共通性と特殊性
Ⅰ.幹細胞の自律性とニッチ依存性:Q.幹細胞の自己複製能とは何か?
消化管幹細胞の寛容性とニッチによるホメオスタシスの維持
著者:
安田忠仁12
馬場秀夫1
石本崇胤12
所属機関:
1熊本大学大学院消化器外科学
2熊本大学国際先端医学研究拠点施設消化器がん生物学
ページ範囲:P.109 - P.112
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正常組織幹細胞は自己複製能と多系統の分化細胞への多分化能を有しており,組織・臓器の恒常性は幹細胞を頂点とする階層構造によって維持されている。幹細胞研究の系譜は,造血幹細胞を中心に進展を遂げ,近年それを追随する形で固形臓器,なかでも消化管における幹細胞研究が盛んに行われるようになった。その端緒は,消化管における幹細胞を同定するマーカーとして,Lgr5が報告されたことに由来する。このLgr5陽性細胞は小腸および大腸の陰窩底部に発現し,幹細胞の特徴である多分化能を有した組織の恒常性維持に必須の細胞であることが示唆された。更に,オルガノイド技術の発達を背景として,Lgr5陽性幹細胞を取り巻くニッチの実態解明が進んでいる。特に,間葉系細胞を中心とした微小環境とLgr5陽性幹細胞との相互作用が大きな注目を集めている。
本稿では,消化管幹細胞研究の変遷をたどりながら,各消化管臓器における幹細胞とニッチに関する最新の知見について概説したい。