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特集 組織幹細胞の共通性と特殊性 Ⅳ.幹細胞のクローン性増殖とAging:Q.幹細胞のLife Cycle
幹細胞競合と皮膚の再生老化
著者: 松村寛行1 劉楠1 西村栄美1
所属機関: 1東京医科歯科大学難治疾患研究所幹細胞医学分野
ページ範囲:P.166 - P.171
文献購入ページに移動“細胞競合”とは,適応度の異なる同種細胞が近接した際に,適応度の高い細胞が低い細胞を排除する現象をいう。1975年にMorataらによってショウジョウバエの発生期の翅において,野生型細胞とリボソームタンパク質遺伝子の変異細胞が混在した際にのみ変異細胞が排除される現象が報告され,その基本的な概念が提唱された(図1A)6,7)。近年,哺乳類のイヌの上皮細胞(MDCK細胞)8)やマウスの腸管細胞9)などにおいても観察され,遺伝子変異を獲得したがん前駆細胞を排除するなど,細胞集団を最適化する機構としても注目を集め始めている。皮膚や腸管など上皮系の組織幹細胞システムにおいても,造血幹細胞と類似して上皮系幹細胞クローンのサイズの増大とクローン数の減少が知られるようになった。当時は確率論的に引き起こされるとしてニュートラルな(中立的)幹細胞競合であろうとみなされ,そこに適応度の違いに基づく細胞競合が起こっているかどうかは明らかではなかった(図1B)10,11)。一方,Toressらは,マウスの初期胚のエピブラストにおいて,MYCの発現量の高いエピブラストがより低いエピブラストと隣接した際にアポトーシスを誘導して排除していることを明らかにし,初期胚において細胞競合が生理的に起こっていることを報告した(図1C)12)。また,発生初期のマウス表皮においてはMYCNを低発現する細胞は周囲の細胞によってアポトーシスで排除され,更に重層化してくると細胞分化により排除していることが最近報告されている(図1D)13)。つまり,発生中の組織においても細胞競合が生理的に重要な役割を担っていることが考えられる。しかしながら,発生後の上皮系組織や臓器において組織幹細胞が隣接する幹細胞との間で“細胞競合”を引き起こしているのかどうか,またその生理的な意義については不明であった14)。
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