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雑誌目次

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生体の科学72巻3号

2021年06月発行

雑誌目次

特集 生物物理学の進歩—生命現象の定量的理解へ向けて

特集「生物物理学の進歩—生命現象の定量的理解へ向けて」によせて

著者: 青木一洋

ページ範囲:P.190 - P.190

 ノーベル生理学・医学賞を受賞したPaul Nurse(ポール・ナース)が2021年3月に「What is Life?」という本を刊行しました。ご存じの方もいらっしゃると思いますが,「What is Life?」というタイトルは,物理学者のErwin Schrödinger(エルヴィン・シュレーディンガー)が1944年に書いた同じタイトルの本へのオマージュを込めてつけられたものです。この間,遺伝子の実体の発見,分子生物学の勃興,ヒトゲノムの解読,ゲノム編集技術の発展など,生命科学を取り巻く状況は目まぐるしく変化してきました。更に,ビッグデータやAI,デジタルトランスフォーメーション(DX)など昨今の情報科学の隆盛のなかで,膨大なデータが蓄積されてきた生命科学研究も新たな展開を迎えるものと思われます。
 さて,こういった状況において,生命科学の研究者はどうやって生命現象を理解すればよいのでしょうか? 今後の生命科学研究のあるべき1つの方向性は,“定量性”だと筆者は考えます。生物物理学は,Schrödingerの時代よりも前から生命現象を物理的に扱ってきた学問で,そこには定量性を志向する考え方が根づいています。日本は伝統的に生物物理学が盛んで,これまでに素晴らしい成果が幾つも発表されています。生物学者のNurseがSchrödingerへのオマージュを込めた本を刊行したのも,こうした研究展開への期待感を映したものかもしれません。事実,彼の本には,「情報としての生命」という章を設けて,情報や数理生物学の重要性を説明しています。奇しくも,2019年10月から新学術領域「情報物理学でひもとく生命の秩序と設計原理」(領域代表:岡田康志)が立ち上がりました。この領域では,生命現象を題材として,情報を力・エネルギーなどと同列に物理的対象として議論する新しい物理学を構築することを目指しています。本特集は,この新学術領域に大なり小なり関わりのある方々にご寄稿いただきました。分子から細胞,個体レベルに至る様々な階層の生命現象を物理の言葉で表現した,まさに最新の生物物理学研究をお届けできるものと確信しております。

Ⅰ.分子レベル

統計物理からみた生体分子モーターの設計原理

著者: 佐々真一

ページ範囲:P.191 - P.195

 有効な自由度に着目した単純な数理模型に基づいて,生体分子モーターの設計原理を議論する。最初に,統計物理や非平衡物理による生体分子モーターの記述や定式化について解説する。特に,ゆらぐ熱力学の発展により,生体分子モーターのエネルギーの収支を定量的に議論できるようになってきた経緯を説明する。その発展を踏まえて,生体分子モーターの性能を表す指標に関する近年の研究を紹介する。最後に,この指標に基づいてモデル空間上の地形図を作成することで,設計原理を理解しようとする方法を述べる。

成体組織恒常性維持機構の統計物理

著者: 川口喬吾

ページ範囲:P.196 - P.200

 われわれヒトを含む哺乳類は,成体の大きさまで成長したのち,その発生に要した時間よりも長い時間,ほぼ定常な状態を保つことができる。この定常に達した成体組織の中をのぞいてみると,実は細胞分裂と細胞分化が盛んに営まれており,細胞供給とロスが絶えず繰り返される非平衡な定常系になっていることがわかる。実際,われわれの体を構成する約35兆個の細胞のうち,約1%の細胞が毎日失われ,再生産されているといわれている。
 成体組織において,発生や細胞ロス・再生産のターンオーバーよりもずっと長い時間にわたって恒常性が安定に保たれているのはなぜなのか。この問題に関わる研究の蓄積は多く,ここですべてを紹介することはできないが,本稿では分子的なメカニズムの詳細を脇に置き,数理モデルの視点を重視しつつも数式は避け,概念的な進展の歴史をたどっていくことにする。

生命現象における拡散現象—レヴィ・フライトのミクロ理論

著者: 金澤輝代士

ページ範囲:P.201 - P.205

Ⅰ.はじめに:拡散現象の統計物理学
 水にμm程度の微粒子(本稿ではトレーサー粒子と呼ぶ)を浮かべたとき微粒子はランダムに運動し,徐々に初期位置とは異なる場所に拡散していく(図1A)。これはブラウン運動と呼ばれる拡散現象であり,物理学のみならず様々な分野(例えば化学,生物学,金融)で普遍的に観測される1)。Einsteinのブラウン運動の理論によれば,物理におけるブラウン運動が発生するミクロなメカニズムとは,水分子の熱運動に起因する。すなわち,平衡状態にある水分子がランダムにトレーサーに衝突することによって,微粒子が拡散していくとされる(図1B)。このような理論的枠組みは分子運動論と呼ばれており,少なくとも平衡系においては統計物理学で洗練された枠組みが確立している2)
 一方,非平衡系におけるブラウン運動を理解する理論的枠組みはまだ確立していない。例えば,アクティブマター系のような生命現象における拡散現象を考えてみよう。ここでいうアクティブマターとは,内部にエネルギー源を持ち,そのエネルギーを利用することで運動する物体・物質のことである。例えば,自由に空を飛ぶ鳥のような生物や,クラミドモナスなどの遊走微生物などがこれに該当する。このようなアクティブマターの個体が多数集まって構成される系をアクティブマター系と呼ぶことにする。アクティブマター系はアクティブマター内部のエネルギーを消費・散逸することで維持されている非平衡定常系であり,このような非平衡系の拡散現象を従来の平衡統計物理学の枠組みで理解することはできない。
 そこで,筆者はスイス・英国の研究グループ(Tomohiko G. Sano,Andrea Cairoli,Adrian Baule)と共同で,アクティブマター系の拡散現象を理解するための非平衡統計物理学の理論を研究した3)。特にレヴィ・フライトと呼ばれる異常拡散(図1C)に焦点を当て,レヴィ・フライトが生じるミクロなメカニズムを説明する統計物理学の理論を提案した。本稿では文献3に沿って,そこで提案された理論の解説を行う。

生きている細胞の非平衡力学

著者: 水野大介 ,   杉野裕次郎

ページ範囲:P.206 - P.211

 生命の基本構成単位である細胞は,生理活性物質を外界から取り込んで利用したのち,外部へと排出する非平衡開放系である(図1A)1)。この代謝活動とも呼ばれるエネルギー形態の変換を伴う過程は,モータータンパク質などの生体高分子機械が担う。その多くはATPのような高エネルギー分子の(加水)分解を触媒する過程で力を生成し,ナノスケールの分子の形状変化に伴う仕事として生理的な機能を果たす2)
 モータータンパク質に典型的にみられるとおり,生体高分子機械が稼働するためには分子の形態が変化できること(身動きできること)や,関連する分子が速やかに供給・排出される必要がある。したがって,細胞内の生体高分子機械が担う代謝活動は,細胞質の“動きやすさ”,つまりは力学的な特性に強く影響される。例えば,図1Bのように細胞内部にはタンパク質や核酸が濃厚に混み合って存在しているため,本来生体高分子機械は身動きがとりにくいはずである。しかしながら驚くべきことに,モーター分子はこのような混み合い環境下で,希薄なin vitro環境よりも速く動く3)。このように,代謝活動と力学特性が非自明に相関することが細胞の“非平衡力学”の特徴であり,生体組織の形態形成や恒常性の維持をはじめとする生命現象全般に影響を及ぼすことが近年明らかになりつつある。しかしながら,細胞内の代謝活動と力学特性を関係づける物理的機序は不明である。

化学反応ネットワーク上の化学熱力学と情報幾何学

著者: 伊藤創祐 ,   吉村耕平

ページ範囲:P.212 - P.216

 細胞内での生命現象は,細胞内のシグナル伝達経路にみられるように,細胞内の様々な種類の化学物質が複雑に化学反応を起こして細胞内の情報伝達を担うことで,維持されている。シグナル伝達経路に代表されるような各化学物質が相互に反応し合う複雑な構造は,化学反応のネットワークとして表現することが可能である。この複雑な化学反応の構造に関する数学は化学反応ネットワーク理論1)(chemical reaction networks theory)と呼ばれ,1970年代以降に大きく発展してきた。一般に溶媒中の化学物質の濃度の時間発展のダイナミクスは,ゆらぎの影響を無視できる粗視化した状況においては,決定論的なレート方程式で記述されることが知られている。よって,決定論的なレート方程式によるダイナミクスは,化学反応ネットワーク理論のメイントピックの一つになっている。そして,レート方程式で記述される複雑な化学反応ダイナミクスを扱うことができるため,化学反応ネットワーク理論は細胞内のシグナル伝達に適した理論とみなされている。そのため,システム生物学や生物物理学の分野でも,化学反応ネットワーク理論が近年応用されつつある。
 一方で,細胞内におけるゆらぐ化学反応に関する熱力学の研究が近年盛んに行われ,シグナル伝達系への応用にも注目が集まっている。このことは,21世紀に入ってからの確率過程上での熱力学であるゆらぐ系の熱力学2)(stochastic thermodynamics)の理論的な発展によって,細胞内の非平衡な環境下で起きる化学反応の熱力学的な性質が議論可能になってきたことが背景にある。そして更に,化学反応ネットワーク理論とゆらぐ系の熱力学の理論が,化学熱力学の名のもとで結びつきつつある。レート方程式で記述される化学反応ネットワーク上での化学熱力学の理論が,ゆらぐ系の熱力学のアナロジーの視点から見直され,化学熱力学のダイナミクスの理論が整理されてきている3,4)

Ⅱ.細胞レベル

バクテリアの細胞内情報伝達を1細胞で定量解析する

著者: 蔡栄淑 ,   石島秋彦 ,   福岡創

ページ範囲:P.217 - P.222

 大腸菌は数μm程度の単一細胞でありながら1つの生命体として完結しており,小さな細胞の中に環境センシング能,情報処理能,運動能が存在している。個々の細胞はこの走化性システムを巧みに制御し,自身に有益な環境へ移動する(図1A)。細胞内は試験管内のような均一な環境ではなく,また個々の細胞ではタンパク質の発現量などが異なるため,筆者らは細胞内で起こる情報伝達を,生きた大腸菌1細胞内のタンパク質の活性,局在などを計測し,それによって引き起こされる走化性応答を同時に計測して,両者の相関関係を定量的に理解することを目指してきた。ここでは,筆者らの最近の研究結果をもとに,刺激のない安定した環境下における大腸菌の情報伝達について考察したい。

情報理論による真核細胞の情報伝達機構の解析

著者: 近藤洋平 ,   青木一洋

ページ範囲:P.223 - P.228

 細胞内情報伝達系の応答において,分子活性の時間的な変動や細胞内・個体内での分子局在の空間的な分布が重要であることがわかっている。しかし,このような複雑な応答と細胞外部環境との関係をいかに特徴づければよいだろうか。素朴に言えば,「時系列や空間分布に拡張された相関係数」のようなものが必要になるであろう。本稿では,情報理論を応用して前述の問題に対処しようとする近年の試みについて概観する。

運動する細胞の前後極性形成のための自発シグナル生成メカニズム

著者: 松岡里実 ,   上田昌宏

ページ範囲:P.229 - P.233

 細胞の自発運動は,細胞がまさに1つの自律した生命体であることを示す。本稿では,真核細胞のアメーバ様運動に焦点を絞り,細胞内部で前後極性が自己組織化的に形成されるメカニズムを明らかにした一連の研究を紹介する。

細胞内蛍光単分子イメージングによるミオシン張力依存的なアクチン線維安定化の証明

著者: 山城佐和子 ,   渡邊直樹

ページ範囲:P.234 - P.238

 アクチン細胞骨格は,速やかに崩壊・再編成される動的な構造体であり,その特性は細胞骨格が機能を果たすために重要である。アクチンダイナミクスの主要な現象は,アクチン線維の形成(重合),崩壊(脱重合),安定化であり,細胞内では多様なアクチン調節因子により調節されている。近年,アクチン線維に力が負荷されると線維の安定性が変化することが報告されており,アクチン線維がメカノセンサーとして働く可能性が提唱されている1)。しかし,力がアクチン安定化または崩壊のどちらに作用するか,相反する結果がin vitroでの研究および培養細胞を用いた研究から報告されており,明確ではなかった。
 本稿では,培養細胞を用いた研究について,アクチンプローブの性質とミオシン阻害剤の適切な使用法について解説する。更に,忠実度の高い蛍光アクチンプローブを用いた単分子スペックル顕微鏡で阻害剤による素早い変動を捕捉することにより,ミオシン張力によるアクチン線維安定性への作用を精密に検証した例を紹介する。

Ⅲ.個体,進化レベル

大腸菌化学走性における感知・応答の情報論的な最適性

著者: 中村絢斗 ,   小林徹也

ページ範囲:P.239 - P.244

 生物は大腸菌から人間まで,環境の変動を認識し適切に応答へとつなげる多様で高感度な感覚系を有している。一方で,生体,特に細胞内においては,素過程である細胞内反応が大きな確率性やゆらぎを示す。感知やその処理過程に確率性を持ちながら,細胞系が適切に環境変動に応答できるメカニズムは完全には理解されていないが,情報理論を用いた解析などにより,細胞や生体がゆらぎを持つ観測シグナルから,その背後にある環境変動についての物理限界に近い推定をしていることが示唆されている。しかし,どのような細胞内反応系が物理限界を達成する推定を実現できるのかはほとんどわかっていない。
 本稿では,化学走性に必要な環境のリガンド濃度情報を取り出す大腸菌のセンサ系が,最適な推定を実現するシステムの物理的実装として捉えられることを,最適フィルタの理論を応用することで示す。

細胞極性と仮足の動力学コンセプト

著者: 澤井哲

ページ範囲:P.245 - P.249

 真核細胞の運動性は,アクチンフィラメント形成による伸長と,ミオシンによる収縮を起源とする。これらのフィラメントが細胞膜直下において空間的に,時間的にどのように分布しているかが,細胞形状に大きく反映される。特に,細胞性粘菌,好中球などの単独遊走性能の高い細胞型では,極性形成を弱めると仮足が出現しやすくなり,逆に仮足形成が促進されると極性が強まるという関係が共通してみられる。本稿では,そのような自律的な変形ダイナミクスの性質と,その数理的表現の概略を紹介する。

モルフォゲン濃度勾配を介した組織パターン形成

著者: 猪股秀彦

ページ範囲:P.250 - P.254

 発生の進行に伴い,胚は単純な組織パターンをより複雑化させ,多種多様な器官を構築する。このような組織パターンを再現性よく形づくるには,胚を構成する個々の細胞間コミュニケーションが重要である。細胞間コミュニケーションには近隣細胞にのみ情報を伝達する機構から,長距離に情報を伝達する機構まで多様な種類が存在する。Notchシグナルに代表される機構では,細胞膜表面に提示された膜貫通タンパク質を介して隣接する細胞にシグナルが伝達され,1細胞レベルの微細な組織パターンを形成する1)。例えば,有毛細胞のごま塩模様はNotchシグナルの側方抑制によって制御されている。一方,胚・組織全体の大まかなパターンを構築するには,遠位に情報を伝達する必要がある。このような長距離伝達を担う分子として,分泌タンパク質モルフォゲンが存在する。モルフォゲンは細胞間隙を拡散することで濃度勾配を形成し,濃度依存的に様々な組織を誘導する。本稿では,モルフォゲン濃度勾配を介した組織パターン形成を中心に紹介し,更なる進展に必要と思われる解決すべき問題点に関して私見を述べる。

群れの秩序と乱れ—遊泳バクテリアによるアプローチ

著者: 西口大貴

ページ範囲:P.255 - P.260

 細胞集団やバクテリアコロニー,鳥や魚の群れなどのように,自発的に動き回る要素の集団を記述する試みが,非平衡統計物理学において盛んになっている。集団や群れを1つの物体とみなし,そこに普遍法則を見いだそうとする枠組みは,アクティブマターと呼ばれる。多細胞生物の発生に代表される生体ダイナミクスの理解は,統計物理学にとっても究極の目標の一つであるが,細胞集団の挙動を記述し得るアクティブマターの物理学がその突破口として期待されている。
 本稿では,この究極の目標へ向かってアクティブマターの物理学を深化させるための,バクテリア集団をモデルとした研究を紹介する。

人工生態系の生物物理

著者: 細田一史

ページ範囲:P.261 - P.265

 われわれ人類が必要なものは,食料・水・空気など,すべて生態系から得ている。生態系が急速に劣化する今1),その理解は人類にとって急務である。人間や病原菌も含めすべての生物は生態系のなかで常に変化し,それによって生態系全体も変化して,また次の生物の変化を生む。つまり生体の中と外には密接な関係があり,包括的な理解が必要である。生態系は本書とは距離があるかもしれないが,この視点も有益と考え,生態系の再現性や定量性の困難を乗り越える人工生態系を用いた生物物理学的アプローチに関して,意義や背景などを含めて紹介したい。

連載講座 新しい光学系を使って広がる顕微鏡の世界-3

多細胞の相互作用を可視化する多光子イメージング技術

著者: 磯部圭佑

ページ範囲:P.266 - P.271

 細胞は生命現象の機能単位であるが,多数の細胞が集合すると,単なる個々の和を超えた高度な秩序や機能を示す。多細胞の集団挙動のなかで,個々の細胞がいかに相互連絡して細胞集団としての高度な生命現象を制御しているのか,そのしくみはほとんどわかっていない。そのため,細胞間の複雑な相互作用ネットワークを介した生命現象を解明するためのイメージング技術の開発が行われている。マクロ顕微鏡では,試料表面だけではあるが,大脳や小脳全体の三次元(xyt)カルシウムイメージングができるようになっている1)。しかし,xy平面だけでなく,深さ(z)方向にも細胞間の相互作用はあるため2),深部イメージングも行い,1細胞の解像度で大きな培養組織や生体組織を四次元(xyzt)イメージングする必要がある。生体組織の深部まで観察するためには,多光子顕微鏡が有用であるが,レーザー走査を必要とするため,空間分解能,時間分解能,観察領域といったイメージング性能がトレードオフの関係にある。
 近年,これらのトレードオフの関係を打破するために,ベッセルビームを用いたボリュームイメージング技術3-5),異なる深さの焦点面を同時にイメージングする時間多重化技術6-8),複数のビームで同じ焦点面の異なる視野を同時にイメージングし,xy平面の視野を広域化する空間多重化技術9)などが提案され,実用化され始めている。ベッセルビームを用いたボリュームイメージングでは,二次元のレーザー走査で,深さ方向の投影像を取得できる。そのため,二次元の画像取得速度で三次元イメージングが可能である。また,時間多重化技術や空間多重化技術では,複数の集光点を三次元配置することによって,二次元のイメージングを並列化し,二次元の画像取得速度でイメージング領域を広域化している。本稿では,ベッセルビームを用いたボリュームイメージング技術と時間多重化による多焦点面の同時イメージング技術について紹介する。

実験講座

空間的トランスクリプトーム解析

著者: 鈴木絢子 ,   永澤慧 ,   鈴木穣

ページ範囲:P.272 - P.276

 空間トランスクリプトーム解析技術は,組織上で細胞の位置関係を保持したまま遺伝子発現解析を行う技術である。以前より,組織内で特定遺伝子のRNA量やその分布を解析する手法は広く実践されてきたが,本稿では最近更なる発展を遂げつつある新規空間的トランスクリプトーム解析技術について概説する。

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目次

ページ範囲:P.189 - P.189

財団だより

ページ範囲:P.260 - P.260

次号予告

ページ範囲:P.277 - P.277

あとがき

著者: 松田道行

ページ範囲:P.278 - P.278

 巻頭言で触れられているように,エルヴィン・シュレーディンガーやマックス・デルブリュックらの物理学者の参入が分子生物学の幕を開けたと言っても過言ではありません。しかし,そこから始まった研究はバイオテクノロジーとしては爆発的に広がったものの,生命を物理学の理論で説明するという哲学の部分は,置き去りになった感が否めません。計測技術が追い付かなかったことがその理由と私は考えています。バクテリオファージや細菌から高等生物へと研究のターゲットが移るに伴い,計測結果は定量的なものから定性的あるいは半定量的なものへと劣化し,理論的研究が困難になったのではないでしょうか。今回の特集をみれば,顕微鏡イメージングに代表される計測技術の進歩が定量的データをそしてそれが理論を生むのだということがわかる気がします。そしてもう一つ,コンピュータサイエンスという新たな技術が生物物理学をエキサイティングな分野にしていることにも言及すべきでしょう。しかし,残念なこともありました。いつもであれば特集の原稿を通読するのに何日もかかることはないのですが,今回は,たいへん中身の濃い原稿が多く,数式を前に何日も唸ってしまいました。
 最後になりましたが,ご多忙中のところを編集いただいた青木先生ならびにご寄稿いただいた諸先生方にお礼申し上げます。また,実験講座で空間的トランスクリプトームをご紹介いただきました鈴木先生,3回にわたりに顕微鏡の連載講座をご執筆いただきました磯部先生にも改めてお礼申し上げます。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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