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文献詳細

雑誌文献

生体の科学72巻3号

2021年06月発行

文献概要

特集 生物物理学の進歩—生命現象の定量的理解へ向けて Ⅰ.分子レベル

生きている細胞の非平衡力学

著者: 水野大介1 杉野裕次郎1

所属機関: 1九州大学大学院理学研究院物理学部門複雑生命物性講座

ページ範囲:P.206 - P.211

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 生命の基本構成単位である細胞は,生理活性物質を外界から取り込んで利用したのち,外部へと排出する非平衡開放系である(図1A)1)。この代謝活動とも呼ばれるエネルギー形態の変換を伴う過程は,モータータンパク質などの生体高分子機械が担う。その多くはATPのような高エネルギー分子の(加水)分解を触媒する過程で力を生成し,ナノスケールの分子の形状変化に伴う仕事として生理的な機能を果たす2)
 モータータンパク質に典型的にみられるとおり,生体高分子機械が稼働するためには分子の形態が変化できること(身動きできること)や,関連する分子が速やかに供給・排出される必要がある。したがって,細胞内の生体高分子機械が担う代謝活動は,細胞質の“動きやすさ”,つまりは力学的な特性に強く影響される。例えば,図1Bのように細胞内部にはタンパク質や核酸が濃厚に混み合って存在しているため,本来生体高分子機械は身動きがとりにくいはずである。しかしながら驚くべきことに,モーター分子はこのような混み合い環境下で,希薄なin vitro環境よりも速く動く3)。このように,代謝活動と力学特性が非自明に相関することが細胞の“非平衡力学”の特徴であり,生体組織の形態形成や恒常性の維持をはじめとする生命現象全般に影響を及ぼすことが近年明らかになりつつある。しかしながら,細胞内の代謝活動と力学特性を関係づける物理的機序は不明である。

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掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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