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文献詳細

雑誌文献

生体の科学72巻4号

2021年08月発行

仮説と戦略

感染症数理モデルとCOVID-19 フリーアクセス

著者: 稲葉寿1

所属機関: 1東京大学大学院数理科学研究科

ページ範囲:P.361 - P.364

文献概要

 今回の新型コロナ流行(COVID-19)は,感染の規模とスピードからみれば,100年前のスペイン・インフルエンザに比肩すべきパンデミックであろうが,100年前との大きな違いは科学的な対抗策の進歩である。ワクチン開発や治療法のようなハード面での劇的な進歩はいうまでもないが,マスクや手洗い,行動制限,社会的距離拡大,ロックダウンなどの非薬剤的流行抑制政策は,一見すると非常に原始的で100年前と変わらないようにみえるが,そうした政策の効果を測定,検証することが,経済的影響まで含めて数理・データ分析によって可能となってきたことは,実は大きな進歩だったといえる。
 スペイン・インフルエンザ流行当時においては,“感染”による流行という事実がわかっていても,流行ダイナミクスを定量的に記述する数学的手段がなかったため,行動変容,防御処置によって変化する流行の行方を見通すことができなかった。そうした状況を打開する革新的アイディアが感染症数理モデルであった。ここで注目すべきは,“数理モデル”という言葉で意味しているものは,静態的・記述統計的数理ではなく,“動的システム”(微分・差分方程式)による現象のモデル化にほかならないということである。以下では,今回のCOVID-19において注目された2つの論点,すなわち集団免疫論の意義と検査・隔離政策の有効性を,最も単純な常微分方程式によるSIRモデルを通じて論じてみたい。ただし,数学的詳細については拙著1,2)を参照していただきたい。

参考文献

1)Inaba H:Age-Structured Population Dynamics in Demography and Epidemiology, Springer, Singapore, 2017
2)稲葉 寿(編著):感染症の数理モデル 増補改訂版,培風館,東京,2020
. 115A:700-721, 1927
. 28:365-382, 1990
. 369:846-849, 2020
. doi:10.1101/2020.04.27.20081893. Preprint, 2020
.59:19-25, 2020
. 138A:55-83, 1932
9)アジア・パシフィック・イニシアティブ:新型コロナ対応民間臨時調査会 調査・検証報告書,ディスカヴァー・トゥェンティワン,東京,2020
10)小黒一正:PCR検査体制の拡充と偽陽性の問題,https://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0611.html, 2020
. 7:490-503, 2020
12)Fujii D, Nakata T:Covid-19 and Output in Japan, RIETI Discussion Paper Series 21-E-004, 2021
.90:0909-0914, 2020

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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