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生体の科学72巻6号

2021年12月発行

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特集 新組織学シリーズⅡ:骨格筋—今後の研究の発展に向けて

特集「新組織学シリーズⅡ:骨格筋—今後の研究の発展に向けて」によせて

著者: 武田伸一

ページ範囲:P.504 - P.504

 Szent-Györgyi(セント=ジョルジュ)に始まる筋収縮に関わる研究は,1970年台の初頭まで生物学の華であったことは疑いをいれない。わが国でも,江橋節郎,殿村雄治,大沢文夫,丸山工作など諸先生の研究が綺羅星のように輝いていた。とりわけ,江橋先生のカルシウムによる筋収縮制御と,初めてのカルシウム結合タンパク質であるトロポニンの発見は,まちがいなく世界をリードしていた。しかし,この研究分野は,その先進性ゆえに,ステューデント・パワーの影響を受けたことも事実である。そのある意味での停滞を救った研究が1980年代の後半に2つあった。1つは,Harold Weintraubによる筋分化制御因子MyoDの発見である。当時の若手研究者は,こぞって彼の論文を読みふけったものである。この研究は,後年,山中伸弥博士によってiPS細胞研究として普遍化され,ノーベル賞に結びついた。もう1つが,Louis M. KunkelによるDuchenne型筋ジストロフィーの原因遺伝子の解明である。原因遺伝子産物であるジストロフィンの局在,ジストロフィンの形成する結合タンパク質複合体をめぐって,日本人研究者の大きな貢献があったことは,疑いをいれない。それらの研究は,ウイルスベクターや核酸医薬品の開発を促し,筋ジストロフィーの治療にも,幹細胞と筋再生など残されている問題も多いが,一応の到達点がみえつつある。それでは,今後の骨格筋の研究はどこへ向かうのであろうか。やはり,加齢に伴う筋萎縮およびそれに関連したサルコペニア・フレイルの解明と予防が中心になるのであろう。また,近年では,運動が認知機能に及ぼす影響が注目され,世界にも類をみない超高齢社会を迎えているわが国では,骨格筋の機能に再び注目が集まっている。しかし,この普遍的な問題に挑むには,もう一度筋研究の原点に立ち戻り,筋収縮,筋を構成している細胞の機能,筋萎縮研究の出発点となる筋疾患の病態,治療法の開発の現状を俯瞰する必要があるのではないか。
 そこで,本特集では全体を4つの章に分け,わが国を代表する研究者に,骨格筋収縮,骨格筋を支える細胞,筋疾患の病態,新たな治療原理をめぐって,最新の知見を紹介していただくこととした。骨格筋の研究分野に今後参入される研究者の皆さんにも,研究を展開してゆくうえでの参考としていただくことができれば幸いである。

Ⅰ.骨格筋収縮研究の多様な側面

筋小胞体カルシウムポンプの構造とイオン輸送機構

著者: 豊島近

ページ範囲:P.505 - P.509

 骨格筋の筋原線維は袋状の構造体に取り囲まれている。この袋状構造体は筋小胞体と呼ばれ,Ca2+の貯蔵庫である。筋収縮の際にはこの貯蔵庫からCa2+放出チャネルを通じてCa2+が放出され,弛緩の際にはCa2+ポンプ〔sarco(endo)plasmic reticulum calcium ATPase;SERCA〕がCa2+を小胞体内腔に汲み上げ,筋細胞中のCa2+濃度をサブμMまで下げる。このようなCa2+による筋収縮の制御は,「Ca2+が生体反応を制御する」というCa2+説の最も顕著な例であるが,江橋による「筋肉の弛緩因子は断片化された筋小胞体であり,弛緩は膜にあるATPaseによってCa2+が輸送されるために起こる」との発見1)がCa2+説の嚆矢となった(https://brh.co.jp/s_library/interview/ 12/)ことは,今や科学の歴史に埋もれかかっているように感じられる。筆者は2000年に最初の結晶構造決定に成功して以来2),集中してCa2+ポンプの構造解析に取り組んできた。その結果,反応サイクルほぼ全体をカバーする14の中間体(うち4つは未発表)の構造決定に成功し(図1),輸送メカニズムの大略は理解できるようなった。ごく簡単に言えば,イオンポンプはミクロの手押しポンプのように働くのである(ただしレバーを押すのはATPではない)3)。本稿では,Ca2+ポンプの分子構造とイオン輸送メカニズムに関し,ごくごく大まかに述べてみたい。

人工ナノ筋肉を用いた筋収縮原理の解明

著者: 岩城光宏 ,   柳田敏雄

ページ範囲:P.510 - P.514

 19世紀にKuhneによってカエル骨格筋からミオシンが発見されて以来,筋収縮の動作原理解明が精力的に進められてきたが,現在に至るまで曖昧な点も残されてきた。近年,筆者らは,ヒト骨格筋ミオシンを含む筋サルコメアの一部を再構成し,力発生の瞬間を1分子レベルで画像化およびその全過程を明らかにすることに成功した。本稿では,分子レベルで柔軟に機能するミオシンの動作原理について紹介する。

昆虫の筋肉が教えていること

著者: 岩本裕之

ページ範囲:P.515 - P.518

 昆虫は地球上で最も繁栄した動物群であり,知られている全動物の約170万種類のうち,約100万種が昆虫といわれている。更に未知の昆虫種も多くいると考えられている。この繁栄の大きな要因と考えられるのが昆虫の飛翔能力である。最初の有翅昆虫の化石は3億5000万年前の地層から発見されており,翼竜や鳥類が出現するまでの間,昆虫は地球の空を独占していたことになる。この昆虫の飛翔能力を議論する際に切り離すことができないのが,飛翔をつかさどる筋肉,飛翔筋である。昆虫の飛翔筋は,あらゆる動物の筋肉のなかでも高度に特殊化した筋肉といえる。本稿では,昆虫の飛翔筋とわれわれヒトを含む脊椎動物の骨格筋とは,何が共通で何が異なるかについて解説する。

Ⅱ.骨格筋組織を支える細胞の役割・応答

筋サテライト細胞の適応

著者: 中村彩紗 ,   深田宗一朗

ページ範囲:P.519 - P.521

 筋サテライト細胞は代表的な組織幹細胞の一つであり,他の組織幹細胞同様に定常状態では細胞周期G0期(静止期)で存在している。近年の研究により,筋サテライト細胞の静止期維持機構は徐々に解明されてきた1)。一方で,骨格筋は様々な外的ストレスを受ける臓器でもあるため,そのストレスに適応した筋サテライト細胞の動態が注目を集めている2)。骨格筋が損傷を受けた際の生体応答である筋再生は最も研究が進んでおり,筋サテライト細胞の分化モデルの基盤となっている。一方で,運動負荷などの物理的刺激に対する筋サテライト細胞の動態についてはほとんど理解されていない。その理由の一つに,「筋サテライト細胞の役割=筋再生」と考える流れは強く,損傷以外のストレスにより筋サテライト細胞が静止期から活動期に入ることを前提とした研究がほとんど行われてこなかったためである。本稿では,筋の成長・再生・肥大に焦点を当て,それぞれの環境における筋サテライト細胞の挙動,運命決定について概説する。

間質の間葉系前駆細胞とサルコペニア

著者: 上住円 ,   上住聡芳

ページ範囲:P.522 - P.526

 骨格筋は全身に分布する人体最大の臓器であり,健康維持に欠くことのできない機能を担っている。骨格筋の老化はサルコペニアと呼ばれ,健康長寿を妨げる要素として問題になっている。本稿では,筋組織の維持に必須であることが明らかとなってきた間葉系前駆細胞について紹介し,本細胞とサルコペニアの関連について考えたい。

神経筋接合部(NMJ)の形成・維持メカニズム—NMJを標的とした治療技術の開発を目指して

著者: 江口貴大 ,   山梨裕司

ページ範囲:P.527 - P.531

 骨格筋はわれわれの運動機能に必須の器官であり,その収縮は運動神経により厳密に制御されている。運動神経の軸索末端と骨格筋の主な構成要素である筋管(筋線維)を結ぶ神経筋接合部(neuromuscular junction;NMJ)は骨格筋収縮に必須のシナプスであり,NMJ形成・維持の異常は運動機能や筋力の低下をもたらす。本稿では,筋特異的受容体型チロシンキナーゼMuSKを中心としたNMJ形成・維持の分子機構について概説し,NMJを標的とする新たな治療技術について紹介する。

骨格筋のメカノバイオロジー

著者: 平野航太郎 ,   鈴木美希 ,   原雄二

ページ範囲:P.532 - P.536

 骨格筋は体重の30-40%もの重量を占める,生体最大の組織である。骨格筋は単に運動器官という一面だけでなく,生理活性物質(いわゆるマイオカイン)の産生,エネルギー代謝をはじめ,全身での様々な生理現象に関与する。また,昨今“サルコペニア・フレイル”という言葉は医療現場のみならず,様々な場面で語られるようになり,国民のなかでも骨格筋の重要性は認知されつつある。骨折などによりギプス固定されて筋肉が不動化すると,筋重量の顕著な減少がみられることからも,適切な力は骨格筋の恒常性維持に重要な役割を果たすことは明らかであろう。では,なぜ骨格筋は力を感知でき,その力を筋線維の恒常性維持に変換できるのであろうか。本稿では,骨格筋が力を感知する機構と共に,骨格筋の大きな特徴である筋線維の高い再生能に着目し,筋再生過程の力感知機構の役割にも焦点をあてて,骨格筋における“メカノバイオロジー”の重要性について概説したい1)

Ⅲ.骨格筋を障害する疾患の注目すべき病態

糖尿病とサルコペニア

著者: 平田悠 ,   小川渉

ページ範囲:P.537 - P.541

 サルコペニアとは加齢による骨格筋量の減少とそれに伴う身体活動能力の低下に特徴づけられる症候群であり,1988年にRosenbergによって提唱された。サルコペニアは転倒や骨折,寝たきりのリスクとなり,寿命の短縮にも関連することが知られている。サルコペニアの診断については,2010年にEuropean Working Group on Sarcopenia in Older People(EWGSOP)が診断のアルゴリズムを発表し1),2018年に改訂した2)。アジア人の診断については,2014年にAsian Working Group for Sarcopenia(AWGS)のコンセンサスレポートにより,診断の推奨アルゴリズムが発表され3),2019年に診断基準が改訂された4)。AWGS2019では,サルコペニアの診断には骨格筋量と骨格筋機能の両方の測定が必要であるという考え方を維持したが,測定機器などの問題で筋量の測定が困難な施設においては,筋力または身体機能の低下のみでサルコペニア(possible)の診断を可能とした(図1)。
 サルコペニアに肥満を合併したものをサルコペニア肥満と呼び,サルコペニア肥満では心血管イベントや死亡のリスクが更に上昇する可能性が指摘されている。なお,狭義のサルコペニアは原発性サルコペニアと呼ばれ,加齢による筋量低下を指す。一方,糖尿病や不動化(廃用症候群),カヘキシアなどによる骨格筋量の減少は二次性サルコペニアと定義される1)。原発性サルコペニアと二次性サルコペニアの原因や病態は必ずしも同一ではなく,例えば筋線維タイプの割合の変化(速筋または遅筋優位の減少)は原疾患によって異なることが知られている。

自己免疫性筋炎—新たな疾患概念と分類

著者: 西森裕佳子 ,   西野一三

ページ範囲:P.542 - P.548

 自己免疫性筋炎(autoimmune myositis)は主に骨格筋に炎症性変化を来し,自己免疫が関与する筋疾患である。Heterogeneousな疾患群であり,遺伝的要因と環境因子が作用して発症すると考えられているが,いまだその多くの病態機序は明らかになっていない。

鏡-緒方症候群の筋発生異常の原因となる真獣類特異的遺伝子PEG11/RTL1

著者: 石野史敏 ,   北澤萌恵 ,   金児-石野知子

ページ範囲:P.549 - P.554

はじめに:鏡-緒方症候群について

 難病認定される鏡-緒方症候群は,ヒト染色体14番父親性2倍体で生じる重篤なゲノムインプリンティング疾患である(図1A)。特徴的なベル型肋骨は呼吸不全による新生児致死と関連すると考えられ,腹直筋乖離などの筋肉関連の異常や,発育遅滞を伴う知的障害などを引き起こす1)

 一方,同じ領域の母親性2倍体はテンプル症候群の原因となり,出生前後の発育遅滞,筋緊張低下,摂食嚥下困難,発語の遅れなどを引き起こす2)(図1B)。ゲノムインプリンティングは,胎生の生殖様式をとる真獣類,有袋類にのみみられるエピジェネティック機構で,染色体のおよそ20領域で遺伝子の片親性発現を制御する。父親・母親由来で発現するインプリント遺伝子[PEGMEG(paternally expressed genes and maternally expressed genes)]は,differentially methylated region(DMR)と呼ばれる父親・母親由来でDNAメチル化状態の異なる配列によって制御される3)。ヒトとほぼ共通のインプリント領域(インプリント遺伝子)を持つマウスは,これら疾患の良いモデルとなる。

筋チャネル病の新たな病態

著者: 久保田智哉 ,   髙橋正紀

ページ範囲:P.555 - P.559

 筋チャネル病は,骨格筋に発現するイオンチャネルの異常により発症する疾患の総称である。イオンチャネルをコードする遺伝子の変異による一次性筋チャネル病を中心に,変異チャネルの機能変化と臨床病型との関連について理解が進んできた。一方で,周期性四肢麻痺のように,チャネル機能のみの理解では病態解明が困難な病型も存在する。近年,電位依存性ナトリウムチャネルNav1.4をコードするSCN4A遺伝子の変異による新たな病型の報告が相次いでいる。更に,骨格筋の再生・分化と電気的興奮性の関連について,骨格筋におけるNavチャネルの知見の重要性が再認識されている。

CGGリピートと筋疾患

著者: 石浦浩之

ページ範囲:P.560 - P.564

 眼咽頭遠位型ミオパチー(oculopharyngodistal myopathy;OPDM)はわが国で疾患概念が確立された疾患であるが,長らくその原因が明らかになっていなかった。最近,筆者らの研究により,神経核内封入体病(neuronal intranuclear inclusion disease;NIID),白質脳症を伴う眼咽頭型ミオパチー(oculopharyngeal myopathy with leukoencephalopathy;OPML),眼咽頭遠位型ミオパチーの3疾患にはその臨床像にオーバーラップがあることをヒントに,3疾患ともCGGリピート伸長変異が原因であるということが明らかになった。本稿では,主にOPDMに焦点を当て,疾患概念の確立から遺伝子同定,その後の研究について概説する。

デュシェンヌ型筋ジストロフィーの中枢神経障害

著者: 橋本泰昌 ,   青木吉嗣

ページ範囲:P.565 - P.568

 Duchenne型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy;DMD)は,X染色体(Xp21.2)上に位置するDMD遺伝子の変異により発症する希少神経・筋難病である1)。出生男児3,500-5,000人に1人の割合で発症し,臨床経過として2-5歳時に歩行の異常を呈し,徐々に筋力低下が進行し,11-13歳ごろから独り歩きができなくなる。30年前までは10歳代後半で死亡することが多かった。しかし,現在では骨格筋と心筋を対象としたステロイド治療および人工呼吸器管理と心臓デバイス治療を含めた最善のケアにより,生存期間が延長した2)

 近年,DMDの筋を狙ったアンチセンス核酸医薬であるビルトラルセンの開発により,治療対象組織を拡大する動きが加速しつつある3)。仮に全身の筋機能が改善され寿命を更に延ばすことができるようになれば,ジストロフィン欠損を呈する脳の状態も改善させることが求められると考えられる。その結果,コミュニケーション能力や社会適応能力の向上により,高いQOLや自立した社会生活を有意義に送ることができるであろう。そこで本稿では,DMDの中枢神経障害の原因や病態を解説する。

ベッカー型筋ジストロフィーと中枢神経障害

著者: 森まどか

ページ範囲:P.569 - P.572

 ベッカー型筋ジストロフィー(Becker muscular dystrophy;BMD)は軽症の筋ジストロフィーと捉えられており,身体症状が必ずしも重症ではない場合には診断後医療機関の受診が途絶えてしまい,様々な合併症が気づかれないことがある。認知度は低いが,BMD患者は発達障害や不安特性,精神疾患の合併がまれではなく,中枢神経障害への理解とケアが継続的に必要である。BMDの中枢神経障害と課題について概説する。

Ⅳ.遺伝性筋疾患研究を起点とした治療原理の進展

糖鎖の新たな理解をもとにした筋ジストロフィー治療法の開発

著者: 金川基

ページ範囲:P.573 - P.576

 ジストログリカン異常症は,基底膜受容体であるジストログリカンの糖鎖修飾異常を認める筋ジストロフィーの総称である。糖鎖異常によってジストログリカンが担う基底膜と細胞膜との連携が破綻し,発症に至ると考えられている。近年,ジストログリカンの糖鎖構造や修飾酵素が明らかになったが,驚くべきことに,糖鎖の中にはリビトールリン酸という,これまで哺乳類では存在が知られていなかった修飾体が含まれていた。本稿では発症に直結する糖鎖の構造と修飾様式について概説し,リビトールリン酸に着目した筋ジストロフィーの治療戦略を紹介する。

RNA制御機構の解析で明らかとなるRNA病の病態解明と新規治療法開発

著者: 細川元靖 ,   萩原正敏

ページ範囲:P.577 - P.581

 骨格筋におけるRNA制御は古くから解析されており,骨格筋特異的なRNA結合タンパク質(RBP)の発現や,筋分化依存的なスプライシング制御などがよく知られている。また,RNA制御の破綻による疾患の表現型と分子機序の解析も進んでいる。本稿では,RNA制御異常による疾患とその治療アプローチおよび,RBPの機能解析方法について最新の解析例を用いて概説する。

治療法の開発を見据えた筋強直性ジストロフィーの新たな病態の解明

著者: 中森雅之

ページ範囲:P.582 - P.585

 筋強直性ジストロフィー(DM)は成人で最も多い遺伝性筋疾患である。進行性の骨格筋障害による諸症状だけでなく,現在に至るまで根本的治療法がないことも,患者やその家族を苦しめている。近年,DMの病態解明が進み,ようやく治療開発の道が見えてきた。本稿では,治療開発の基盤となるDMの病態を概説し,現在検討されているDMの治療戦略を紹介する。

アンチセンス核酸医薬の発展とデリバリー手法の開発

著者: 丸山理香 ,   横田俊文

ページ範囲:P.586 - P.590

 近年,DNA様の人工合成分子から成るアンチセンスオリゴ核酸を用いた核酸医薬の発展が目覚ましい。2013年以降,多くの核酸医薬品が遺伝性疾患向けに承認されている。一方で,アンチセンスオリゴ核酸の効率的な生体内デリバリー技術は十分に開発されているとはいえず,対象疾患の拡大や効率の改善へ向けた今後の大きな課題といえる。本稿では,アンチセンス核酸医薬の発展と,今後重要性が大きく高まると考えられる核酸デリバリー技術の動向を紹介したい。

連載講座 ヒトを知るモデル動物としてのゼブラフィッシュ-2

トランスポゾンを用いたゼブラフィッシュの遺伝学—遺伝子トラップ法〜Gal4-UAS法

著者: 川上浩一

ページ範囲:P.591 - P.595

 遺伝子やエンハンサーの機能解析,あるいは胚が透明であるという長所を活かした細胞の蛍光ラベル実験において,トランスジェニックゼブラフィッシュの作製は重要である。Stuartらは,受精卵の細胞質へのプラスミドDNAの微量注入によりトランスジェニックフィッシュの作製が可能であることを示した1)。その方法を用いて,LongらによるGATA-1プロモーターの下流にGFP遺伝子を組み込んだトランスジェニックフィッシュの作製2),東島らによるアクチンプロモーターの下流にGFP遺伝子を組み込んだトランスジェニックフィッシュの作製3)などの研究が行われた。しかしながら,1990年代後半プラスミドDNAの微量注入によるトランスジェニックフィッシュの作製効率はとても低いものであった。ショウジョウバエにおけるP因子のようなトランスポゾンを用いた遺伝学的方法論がゼブラフィッシュにおいて開発されれば,その問題が克服され,研究が飛躍的に進むことは明らかであったが,そのような方法論は未開発であった。その理由は,当時脊椎動物において効率よく転移するトランスポゾンが見つかっていなかったことにあった。

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目次

ページ範囲:P.503 - P.503

次号予告

ページ範囲:P.531 - P.531

財団だより

ページ範囲:P.548 - P.548

あとがき

著者: 編集者一同

ページ範囲:P.596 - P.596

 本誌の編集長を長年にわたって務めてこられた野々村禎昭先生が,本年9月に急逝されました。したがって本特集号は,先生が直接関わられた最後の特集となります。野々村先生が生涯心血を注がれた筋研究の生理学的基礎過程の研究から疾患の治療法開発に至るまで,ゲスト編集者の武田先生のご尽力によって,各分野の最前線で研究されておられる先生方にご執筆いただけたことに,深く感謝いたします。

 現在『生体の科学』の編集に携わらせていただいています岡本,栗原,松田は東京大学医学部の同学年で,基礎医学の薬理学の授業や実習で,当時気鋭の助教授であられた野々村先生の教えを初めて受けました。また岡本は,医学部に進学した夏休みを江橋教授の薬理学研究室で過ごさせていただき,その間野々村先生には,手取り足取り実験の手ほどきをしていただきました。それ以来,近年『生体の科学』の編集部に招いていただくに至るまで,私たちは人生や研究者として生きて行くうえでの基本姿勢を,先生から学ばせていただきました。編集者一同,先生のこれまでのご指導に深く感謝いたします。先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

生体の科学 第72巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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