特集 新組織学シリーズⅡ:骨格筋—今後の研究の発展に向けて
Ⅲ.骨格筋を障害する疾患の注目すべき病態
糖尿病とサルコペニア
著者:
平田悠1
小川渉1
所属機関:
1神戸大学大学院医学研究科糖尿病・内分泌内科学
ページ範囲:P.537 - P.541
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サルコペニアとは加齢による骨格筋量の減少とそれに伴う身体活動能力の低下に特徴づけられる症候群であり,1988年にRosenbergによって提唱された。サルコペニアは転倒や骨折,寝たきりのリスクとなり,寿命の短縮にも関連することが知られている。サルコペニアの診断については,2010年にEuropean Working Group on Sarcopenia in Older People(EWGSOP)が診断のアルゴリズムを発表し1),2018年に改訂した2)。アジア人の診断については,2014年にAsian Working Group for Sarcopenia(AWGS)のコンセンサスレポートにより,診断の推奨アルゴリズムが発表され3),2019年に診断基準が改訂された4)。AWGS2019では,サルコペニアの診断には骨格筋量と骨格筋機能の両方の測定が必要であるという考え方を維持したが,測定機器などの問題で筋量の測定が困難な施設においては,筋力または身体機能の低下のみでサルコペニア(possible)の診断を可能とした(図1)。
サルコペニアに肥満を合併したものをサルコペニア肥満と呼び,サルコペニア肥満では心血管イベントや死亡のリスクが更に上昇する可能性が指摘されている。なお,狭義のサルコペニアは原発性サルコペニアと呼ばれ,加齢による筋量低下を指す。一方,糖尿病や不動化(廃用症候群),カヘキシアなどによる骨格筋量の減少は二次性サルコペニアと定義される1)。原発性サルコペニアと二次性サルコペニアの原因や病態は必ずしも同一ではなく,例えば筋線維タイプの割合の変化(速筋または遅筋優位の減少)は原疾患によって異なることが知られている。