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文献詳細

雑誌文献

生体の科学73巻1号

2022年02月発行

文献概要

特集 意識 Ⅲ.理論的アプローチ

深層学習ネットワークにおける錯視

著者: 渡辺英治1

所属機関: 1自然科学研究機構基礎生物学研究所

ページ範囲:P.75 - P.80

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 静止画なのにあたかも動いているかのように,厳密には同色にもかかわらず別の色として知覚してしまう現象など,視覚に関する錯覚を指す“錯視”は非常に不思議な現象である。錯視が起こる原因は様々で,眼や脳の情報処理過程におけるミスに起因する場合や,情報処理が能動的に働いた結果など,錯視の種類によって機序は異なるが,なかにはいまだ本態がよくわかっていないものも多い。いずれにせよ,錯視は視覚系の神経ネットワークシステムの特性をうまく表現していると考えられ,古くから人間の視覚を理解するうえでの強力なツールとして様々な実験に用いられてきた。錯視は研究が始まった1800年代後半から,主に心理物理学的手法で解析が進められてきたが,近年は神経生理学をはじめ脳科学,更には計算機科学といった,より近代科学的なアプローチが取り入れられる傾向にある。

 本稿では視覚研究における錯視の役割を概観すると共に,計算機科学的アプローチのなかでも特に,錯視と人工神経回路である深層学習ネットワーク研究手法を組み合わせた,全く新しい概念の研究成果を紹介する。錯視と深層学習ネットワークという異色の組み合わせを用いる研究アプローチは,まさに今始まったばかりであるが,歴史ある視覚研究に,これまでにない斬新な視点と知見を提示したトピックスの一つとして,今回読者諸君に紹介させていただきたい。

参考文献

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掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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