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特集 形態形成の統合的理解 Ⅱ.技術による推進
組織変形動態の定量と器官発生—心臓初期発生過程を例に
著者: 森下喜弘1
所属機関: 1理化学研究所生命機能科学研究センター
ページ範囲:P.311 - P.316
文献購入ページに移動 動物の体を構成する各器官は,多くの細胞から成る1つの集合体として,しばしば非常に複雑な構造を持ち,固有の機能を発揮する。発生中の胚で各器官の正常な形がどのようにつくられるのかを理解することは,理学的な興味のみならず,先天性疾患や奇形の発生機序を知るための基礎情報として重要である。また,その知見は,機能的な器官形態のデザインや制御技術の開発へも展開可能であることから,生物学の長い歴史のなかでも重要な課題の一つとして多くの研究が行われてきた。過去数十年にわたる分子生物学の進展は,形態形成に関する主要遺伝子群の同定に成功し,細胞の分化や増殖を制御するための分子機構が明らかになってきた。
他方で,こうした分子的知見と実際に形態がつくられる物理過程の理解との間には大きなギャップが存在する。物理システムとして形態形成過程を理解するためには,器官固有の形態が,どのような組織変形や細胞集団運動により実現されているのか,またそれらが力学状態とどのような関係性にあるのかを明らかにする必要がある。近年の共焦点・2光子顕微鏡を含む計測技術は,小さく薄い組織であれば1細胞分解能で高速に計測可能とし,個々の細胞動態と組織形態変化の間の関係性を定量可能とした1-3)。更には細胞の応力・物性情報と統合し,形態形成過程を再現する数理モデルも提案されるようになった4)。しかし,高分解能での計測が難しい胚の深部で発生する立体的な器官に関しては,その組織・細胞動態について多くが未解明のままである。本稿では,脊椎動物の心臓初期発生を例に,限られた細胞軌道情報から統計的処理による組織変形写像の再構成,組織変形パターンと細胞プロセスとの定量的な関係性,動態解析結果から想定されるモデル提案までの一連の流れを紹介する5)。
他方で,こうした分子的知見と実際に形態がつくられる物理過程の理解との間には大きなギャップが存在する。物理システムとして形態形成過程を理解するためには,器官固有の形態が,どのような組織変形や細胞集団運動により実現されているのか,またそれらが力学状態とどのような関係性にあるのかを明らかにする必要がある。近年の共焦点・2光子顕微鏡を含む計測技術は,小さく薄い組織であれば1細胞分解能で高速に計測可能とし,個々の細胞動態と組織形態変化の間の関係性を定量可能とした1-3)。更には細胞の応力・物性情報と統合し,形態形成過程を再現する数理モデルも提案されるようになった4)。しかし,高分解能での計測が難しい胚の深部で発生する立体的な器官に関しては,その組織・細胞動態について多くが未解明のままである。本稿では,脊椎動物の心臓初期発生を例に,限られた細胞軌道情報から統計的処理による組織変形写像の再構成,組織変形パターンと細胞プロセスとの定量的な関係性,動態解析結果から想定されるモデル提案までの一連の流れを紹介する5)。
参考文献
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