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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学73巻5号

2022年10月発行

雑誌目次

増大特集 革新脳と関連プロジェクトから見えてきた新しい脳科学

特集「革新脳と関連プロジェクトから見えてきた新しい脳科学」によせて

著者: 岡野栄之

ページ範囲:P.379 - P.379

 この10年間,世界的にも脳科学の巨大プロジェクトが進みました。2013年,脳の科学的理解を加速するための2つの大規模国家研究プロジェクトである米国BRAIN Initiativeと欧州のHuman Brain Project(HBP)が開始されました。日本の科学者コミュニティーでは,動物モデルからヒトの脳を正確に理解するためには,霊長類による脳研究が必要であり,霊長類の脳から得られる科学的知見は,ヒトの精神疾患,神経疾患,神経変性疾患の診断と治療に関するエビデンスに基づくトランスレーショナルリサーチに不可欠な要素であると判断し,米国やEUの脳プロジェクトの大規模化・広範化とは根本的に異なるアプローチとして,新世界・小型霊長類であるコモンマーモセット(Callithrix jacchus)を主要な脳疾患克服のための病態解析・治療法開発のモデルとして開発を加速することが重要であると結論しました。これらを踏まえ,2014年6月,文部科学省および日本医療研究開発機構(AMED)の支援により,「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト」(革新脳)[Brain/MINDS(Brain Mapping by Integrated Neurotechnologies for Disease Studies)]プロジェクトがスタートしました。

 この革新脳研究では,神経細胞がどのように神経回路を形成し,どのように情報処理を行うことによって全体性の高い脳の機能を実現しているかについて,その全容を明らかにし,更に精神・神経疾患の克服につながるヒトの高次脳機能の解明のための基盤を構築してきました。革新脳の前半5年間は「マーモセット全脳回路に関するマクロレベルの構造と活動のマップを完成」を目標とした研究がオールジャパン体制で精力的に推進され,これまでマーモセット脳の遺伝子データベースの構築,脳画像データの3D化およびその動画のデータポータルでの公開,マーモセットの脳回路研究への応用可能な革新的イメージング技術の開発,ヒトと非ヒト霊長類の脳の相同神経回路の同定技術の開発など着実に成果が積み上がってきており,臨床応用への道筋が見えてきています。

Ⅰ.霊長類脳科学 a)遺伝子改変技術および関連技術を用いたマーモセットの脳科学・疾患研究

遺伝子改変技術を用いたマーモセットの脳科学・疾患研究(総論)

著者: 岡野栄之

ページ範囲:P.380 - P.381

 霊長類は齧歯類に比べ,脳の構造や機能がヒトにより近いこともあり,近年の霊長類の遺伝子操作の進展は生物医学研究分野,特に脳科学研究において非常に注目されている。筆者らの研究グループをはじめ,革新脳プロジェクトでは,小型霊長類であるマーモセットに注目した研究を展開している。本稿では,トランスジェニック動物やゲノム編集技術を用いたノックアウト動物など,霊長類の遺伝子操作に関する最近の進展について述べる。

パーキンソン病モデルマーモセット

著者: 小林玲央奈

ページ範囲:P.382 - P.383

 パーキンソン病(Parkinson's disease;PD)研究において,様々な手法でモデル動物が作製され,PDのメカニズム解明や新規治療法開発に多大な貢献を成してきた。しかし,最近明らかになってきたPD病態の複雑さは従来のモデル動物では網羅できず,新たな方策が求められている。本稿では,PDモデル動物の特徴とマーモセットモデルの意義,およびその展望について述べる。

アルツハイマー病マーモセットモデルの作出と解析

著者: 笹栗弘貴 ,   佐々木えりか

ページ範囲:P.384 - P.385

 これまで,アルツハイマー病(Alzheimer's disease;AD)の基礎研究において中心的な役割を果たしてきたマウスとヒトの間には,生物学的特徴に大きな種差がある。小型の霊長類であるコモンマーモセット(図)は,遺伝学的,脳構造・機能的にもヒトに近く,様々な複雑な認知行動をとることからAD研究により適した動物であると考えられる。本稿では,マーモセットの生物学的特徴や,最近筆者らが作出,解析しているADマーモセットモデルに関して概説する。

レット症候群モデルマーモセット

著者: 岸憲幸 ,   岡野栄之

ページ範囲:P.386 - P.387

 レット症候群は主に女児に発症する神経発達障害であり,X染色体上のmethyl-CpG binding protein 2(MECP2)遺伝子の変異によって生じる。マウスモデルによりMECP2の機能やレット症候群の病態解明が進んできた一方,霊長類との脳構造・機能の質的な違いによりモデル動物としての限界も指摘されるようになってきた。本稿では,ヒト患者の病態を忠実に再現する霊長類モデルの開発,解析,展望について述べる。

トリプレットリピート病モデルマーモセット

著者: 富岡郁夫 ,   永井義隆 ,   関和彦

ページ範囲:P.388 - P.389

 高次脳機能障害を呈する晩発性の神経変性疾患において,脳構造や代謝生理がヒトに類似した霊長類の疾患モデルの開発は,疾患克服への特急券となり得る。筆者らは小型の霊長類であるマーモセットを用いて,ポリグルタミン病モデルを作出することに成功した。このモデルマーモセットは生後3-4か月で神経症状を呈したのち,時間依存的な疾患進行が認められ,生後13か月齢でグリオーシスを伴う顕著なプルキンエ細胞の減少などの小脳病理が認められた。本稿では,ポリグルタミン病モデルマーモセットの作出とその成果を概説する。

自家移植法によるヒト疾患モデルマーモセット作製

著者: 饗場篤 ,   阿部由希子

ページ範囲:P.390 - P.391

 コモンマーモセットは小型霊長類で,ヒト疾患モデルを作製するのに適した実験動物である。近年,CRISPR/Cas9システムにより変異マーモセットの作製が容易となったが,飼育コロニーが小さい研究室などでは従来の発生工学的手法では変異個体を得ることが必ずしも容易ではなかった。筆者らのグループは,自然交配した雌の卵管から受精卵を回収し,ゲノム編集した直後に,同一個体の採卵を行った卵管内に移植するという自家移植法を開発した。

マーモセットの発生工学の最近の進捗

著者: 汲田和歌子 ,   佐々木えりか

ページ範囲:P.392 - P.393

 非ヒト霊長類実験動物のコモンマーモセットは,霊長類のなかでも繁殖効率が高く,遺伝子改変個体の作出方法も確立されていることから,多くの研究に有用である。しかし,マウスなど齧歯類に比べると繁殖には時間を要すため,加速する技術や工夫が必要である。そこで本稿では,筆者らが実践しているマーモセットの個体作出や,遺伝子改変モデルマーモセットの効率的な作出に向けた工夫について紹介する。

霊長類ゲノム編集の潮流

著者: 相田知海

ページ範囲:P.394 - P.395

 CRISPRの発明は,従来マウスなどごく一部に限られた正確なゲノム操作による遺伝子改変動物作出を,あらゆる生物種へと拡張した。その最たるインパクトは,ヒトの最近縁種たる霊長類での遺伝子改変であろう。本稿では,受精卵での古典的ゲノム編集からゲノム編集2.0,そしてin vivoゲノム編集へ至る,筆者らの遺伝子改変霊長類作出の取り組みを紹介する。

マーモセットの多能性幹細胞

著者: 吉松祥 ,   岡野栄之

ページ範囲:P.396 - P.397

 コモンマーモセット(マーモセット,Callithrix jacchus)は実験的に有用な神経科学における非ヒト霊長類モデルであるが,遺伝子改変個体の作製を目指した実験系の構築のうえではin vitro(培養下)における細胞株の樹立が重要である。そこで,安定したマーモセットからの細胞株の供給や遺伝子改変系の構築を目指して筆者らが開発を行った,マーモセットからのiPS細胞の新規誘導法と遺伝子改変系に関して本稿では概説する。

マーモセットiN細胞

著者: 根本晶沙

ページ範囲:P.398 - P.399

 小型霊長類コモンマーモセットは,霊長類特有の発達した脳を有し,パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患モデルとしての利用が期待される。しかし,発症までに数年単位の期間を要することや,侵襲性の高い解析を繰り返し行うことができないという問題がある。本稿では,試験管内でマーモセット体細胞から迅速かつ高効率に神経細胞を分化させる直接誘導法の技術について紹介する。この技術を用いることで,マーモセット個体のin vivo解析を補完する多彩なin vitro解析の発展が期待される。

遺伝子改変マーモセット作製にかかる胚操作システムの開発

著者: 笹岡俊邦 ,   中務胞 ,   﨑村建司 ,   阿部学

ページ範囲:P.400 - P.401

 遺伝子改変マーモセット樹立に必要な受精卵を,経費と動物福祉の問題を解決して生産するために,異種間移植法を用いた技術開発を進めてきた。これまで廃棄されていた未利用のマーモセット卵巣を全国の研究機関から分与してもらい,これらを免疫不全マウスに移植することにより,マウス体内で成熟卵子の作製に成功した。これら卵子を体外受精させ,マーモセット子宮移植可能な成熟胚を生産する方法の開発を進めている。

マーモセット脳におけるin vivoゲノム編集

著者: 吉田哲 ,   岡野栄之

ページ範囲:P.402 - P.403

 小型霊長類であるマーモセットを使った脳神経科学研究において,特定のサブタイプのニューロンのラベルを可能にするなど,受精卵遺伝子ノックインは非常に有用な技術である。しかし,受精卵遺伝子ノックイン・マーモセットの作製は困難であり,作製したという報告はまだなされていない。そこで,筆者らは既に生まれているマーモセットの脳にin vivoゲノム編集技術を用いて,直接遺伝子ノックインを行う系の開発を行っている。

マカクにおける遺伝子改変技術と疾患モデルの作製

著者: 松本翔馬 ,   依馬正次

ページ範囲:P.404 - P.405

 ヒト疾患の理解および治療法の開発には,疾患モデル動物を用いた解析が必要不可欠である。特に,非ヒト霊長類を用いることで,汎用されるマウスなどの齧歯類では再現困難なヒト疾患を模倣したモデル動物の作出が可能となる。近年のゲノム編集技術革新により,昨今では様々なヒト疾患モデルサルの作出報告が相次いでいる。本稿では,ヒトに最も近縁な実験動物であるマカク属における遺伝子改変技術および疾患モデルについて述べる。

マカクザルの精神神経疾患モデル

著者: 伊佐正 ,   尾上浩隆

ページ範囲:P.406 - P.407

 精神神経疾患と一言で言っても,特定の病的な化学反応によって異常タンパク質が蓄積し,特定の神経症状が発現する神経変性疾患と,複数の遺伝的背景と環境との相互作用によって認知機能が変容する精神疾患とでは,病因の解明や治療法の開発に至る過程は異なる。近年ゲノムワイド関連解析(genome-wide association study;GWAS)により,精神疾患原因遺伝子候補が複数挙がっているがいずれもオッズ比は低く,決め手を欠いている。それらの遺伝子改変マウスを作製して,種々のエンドフェノタイプを詳細に解析する研究は有意義だが,マウスの行動解析がヒトの精神疾患の症状を正しく反映するかについて疑問を持つ研究者は少なくない。一方で,認知機能の表現がヒトに近い霊長類を用いて遺伝子改変個体を作製する趨勢があり,現在中国が一歩先行している。

b)マーモセット脳のconnectome・構造マッピング解析

コモンマーモセット脳MRIアトラス

著者: 畑純一

ページ範囲:P.408 - P.409

 コモンマーモセットは,基礎研究と臨床研究をつなぐ前臨床研究として,橋渡しに最適な実験動物となり得る可能性を持っていることから注目を浴びている。また,MRIは生体内情報を非侵襲的に可視化することができる技術である。脳アトラスや脳マッピングといった研究は,文字どおり脳内の地図作成をすることであり,筆者らはMRIに注目し,コモンマーモセット脳アトラスを脳構造,脳活動,脳ネットワークという視点で開発を進め,脳科学や生命現象の理解を目指している。

霊長類脳標本画像リポジトリを通して創造するマルチスピーシーズ脳科学の未来

著者: 酒井朋子

ページ範囲:P.410 - P.411

 ヒトという生物の脳の進化的起源を紐解くことは,われわれ現生人類(Homo sapiens)が,自分たちの“こころ”の働きや“いのち”のあり方を俯瞰し,未来に向かって新たな可能性や展望を自らの力で開く際の大きな手がかりとなる。つまり,過去から自らを解放し,これまで培ってきた固定観念や偏見から抜け出し,新しい視点で物事を眺めたり,新たな考えを創造したりすることが可能となる。

マーモセット脳のトレーサーマップ

著者: 山森哲雄

ページ範囲:P.412 - P.413

 齧歯類と霊長類では,ヒト高次機能に重要な役割を果たす脳の解剖学的構造に大きく異なる部位がある。革新脳では,霊長類モデルとしてのマーモセット脳の特徴を明らかにするため,高精細・高密度な大脳皮質トレーサーマップの作成を行い,前頭前野(PFC)投射の新たな知見を得た。これを踏まえ,マーモセット全大脳皮質の脳マップ完成により,齧歯類からヒトまで連続的した脳機能解明研究の進展を図ることを目指している。

マーモセット遺伝子アトラスの開発

著者: 下郡智美 ,  

ページ範囲:P.414 - P.415

 ヒト脳の研究のための最適なモデル動物はヒトであり,ヒトの脳の理解にはヒトを利用して実験しなくてはならない。当然倫理的な問題があるため,様々なモデル動物を代用してヒトの脳の理解に近づけようとしてきた。しかし,依然としてモデル動物からヒトの脳の理解につながる道筋は立っていないのが現状である。今後われわれはどのような技術を開発して,どのようなことを行えばこの道筋をつくることができるのだろうか。

革新脳データベースに基づくデータ駆動型統合モデルの開発

著者: 中江健

ページ範囲:P.416 - P.417

 革新脳では,マーモセットの構造から機能に至る様々なデータが取得されている。これらの異なるモダリティを統合する解析手法が必要とされている。本プロジェクトでは,データ同化手法による統合を目指し,これまで開発してきた種々の基盤技術について解説する。

マーモセット脳データベースの構築

著者: ,   田中啓治

ページ範囲:P.418 - P.419

 革新脳では,脳研究の普遍的な基盤として,コモンマーモセット脳の構造と遺伝子発現を中心とした網羅的データベースを構築しつつある。標準脳アトラスの上にすべてのデータをマップすることで,個体とモダリティを超えたデータ統合を容易にした。このデータベースは,疾患マーモセットモデルの異常を検出する参照データとなり,個別研究の計画を助け,内外の他動物種脳データベースと共に種間比較を支える基盤となる。

ATUM-SEM法を用いた大脳皮質局所神経回路の超微細構造三次元解析の標準化と迅速化

著者: 窪田芳之

ページ範囲:P.420 - P.421

 大脳皮質神経回路は,記憶,学習,思考,動作,感覚,感情など,われわれ人間が人間として生きていく根幹をなす機能をつかさどる重要な脳の部位である。大脳皮質には150億個の神経細胞があると言われているが,その神経回路構築の詳細は全くわかっていない。この解析を実現するため,現在,最新の電顕技術や画像解析技術の導入と開発を進め,大脳皮質ミクロコネクトーム(神経回路構造)の解析を目標に研究している。

神経回路および神経細胞微細構造の相関顕微鏡観察に関する研究開発

著者: 平林祐介

ページ範囲:P.422 - P.423

 脳のそれぞれの領域は,対側や異なる領野など様々な領域からの投射を受ける。これらの領野間をまたぐ投射によるシナプス結合は,脳が様々な情報を統合的に判断するうえで非常に重要な役割を果たしており,そのシナプス結合パターンの解明は脳の高度な機能の理解に必須である。本稿では,遠距離投射とシナプス結合の統合的解析を可能にする相関顕微鏡技術について論じる。

マーモセットにおけるトランスクリプトーム解析

著者: 郷康広

ページ範囲:P.424 - P.425

 トランスクリプトーム解析は,細胞の機能単位として働くRNAの種類と量をゲノムワイドに同定・定量化する技術であり,様々な条件間のサンプルを比較することで,多様な表現型の基盤となる分子メカニズムを同定するための有効な解析手法である。本稿では,齧歯類と比べてヒトにより近縁なマーモセットのモデル動物としての有効性に関して,トランスクリプトーム解析から見えてくる今後の展望について述べる。

Ⅱ.脳機能マッピングのための新規技術開発

広視野2光子顕微鏡FASHIO-2PMの開発とその高機能化に向けて

著者: 上森寛元 ,   太田桂輔 ,   村山正宜

ページ範囲:P.426 - P.427

 近年,神経活動を記録する手法である細胞外記録やカルシウムイメージングによって,同時記録可能な神経細胞数が大規模化してきている。この向上により,大規模神経ネットワークの構造や大規模神経細胞群によって行われる情報表現などに関する新しい報告がなされるようになった。本稿では,カルシウムイメージングによる大規模記録を可能とした広視野2光子顕微鏡を紹介し,それを更に機能拡張した高機能型広視野顕微鏡の開発に関して,その展望を述べる。

多角的な蛍光/発光プローブ開発による脳科学の推進

著者: 下薗哲 ,   宮脇敦史

ページ範囲:P.428 - P.429

 脳の機能は,多数の神経細胞やグリア細胞の活動の相互作用の結果として現れる。脳の時空間的活動の解析に,Cameleon,G-CaMPなどのプローブ1,2)やライトシート顕微鏡などの撮像装置の開発が大きな貢献をしてきた。本稿では,脳深部からのイメージングを可能にする発光イメージングシステムAkaBLIと,神経疾患への関与が指摘されているマイトファジーに対する蛍光プローブmito-SRAIを紹介する。

シナプス増強可視化技術による機能的コネクトミクス法の開発

著者: 林(高木)朗子

ページ範囲:P.430 - P.431

 コネクトミクスとは神経接続の全容解明を目指す研究戦略であり,世界中で精力的に推進されている。一方で,いかに詳細なコネクトームをつくろうとも,どの神経回路が実際に使用され,強化もしくは減弱されたかを示すことはできないため,シナプス可塑性などの機能変化情報を含めた“機能的”コネクトミクスの確立も必要である。筆者らは,神経活動依存性に増大もしくは新生した興奮性シナプスのシナプス後部(樹状突起スパイン)を特異的に標識するAS-PaRac1を作製し,スパインの形態可塑性を大規模に標識する技術を確立した。本技術を応用した機能的コネクトミクス法の開発について述べる。

マーモセット脳のconnectome解析のための技術開発

著者: 石井信 ,  

ページ範囲:P.432 - P.433

 2014年から実施中の「革新脳」プロジェクトでは,マーモセットの全脳にわたる神経結合を細胞レベルで可視化できるデータベースの構築を進めている。トレーサーにより蛍光標識された神経線維を2光子顕微鏡により三次元イメージング(連続2光子トモグラフィ)をしたうえで,細胞レベルで線維追跡する技術が必要となる。本稿では,そのために開発された最適化手法(大域的線維追跡法)について紹介する。

2光子顕微鏡を用いたマーモセット脳機能のイメージング

著者: 松崎政紀

ページ範囲:P.434 - P.435

 筆者らは,テトラサイクリン発現誘導システムを組み込んだアデノ随伴ウイルスベクターをマーモセットの大脳皮質に注入し,蛍光カルシウムセンサーを神経細胞に発現させることで,体性感覚野や運動野で多数の神経細胞の活動を単一細胞レベルで検出すること,また樹状突起や軸索での活動を検出することを可能とした。更に頭部固定下での前肢を用いた運動課題を構築し,この課題実行中の多数の運動野神経細胞の活動を検出することを実現した。

神経トレーサー,構造MRI,機能MRIデータの統合による全脳モデルシミュレーション

著者: 塚田啓道 ,   銅谷賢治

ページ範囲:P.436 - P.437

 革新脳,ブレイン・イニシアチブ,ヒューマン・ブレインプロジェクト(HBP)などの脳プロジェクトにより,脳の構造と活動に関する大規模なデータが得られているが,これらの多様なデータをいかに融合し,脳機能の統合的な理解につなげていくかが大きな課題である。本稿では,神経トレーサーと拡散MRIにより得られる全脳の構造的な結合データをもとに,機能的MRIにより計測される全脳のダイナミクスを再現・解析する研究について紹介する。

新規ベクター開発と霊長類脳への遺伝子導入技術の開発

著者: 高田昌彦

ページ範囲:P.438 - P.439

 「革新脳」プロジェクトでは,順行性感染型の新規ウイルスベクターを用いて,神経回路選択的な活動操作や活動イメージングを霊長類脳でより効果的かつ安定的に遂行するための先端技術を確立すること,および新規に開発した全脳導入型ウイルスベクターを用いて,霊長類脳において非侵襲的かつ広範な遺伝子導入を実現し,遺伝子改変モデルの作出に発展させることを目指して研究を進めてきた。本稿では,これらの成果について述べる。

新規高性能カルシウムセンサー分子設計から脳神経回路の情報動態解明へ

著者: 井上昌俊 ,   藤井哉 ,   坂本雅行 ,   尾藤晴彦

ページ範囲:P.440 - P.441

 神経活動の蛍光計測技術の進化は近年飛躍的な進歩を遂げている。筆者らは,カルシウムに対する線形的応答を強化すると共に,多色化推進により多数の細胞集団を同時計測可能な新規高性能カルシウム分子群XCaMPを設計し,新たな脳情報動態解析を実現可能とした。

細胞内シグナル伝達系の光操作による革新的シナプス可塑性介入技術の研究開発

著者: 永瀬将志 ,   渡部文子

ページ範囲:P.442 - P.443

 脳機能の全容解明に向けて,脳領域間の構造的な静的コネクティビティが明らかになりつつある今こそ,シナプス可塑性を含めた動的コネクティビティ解明の機が熟したと言える。シナプス可塑性は多様な細胞内シグナル伝達系によって,プレやポストシナプスで時空間的に精緻な制御を受ける。セカンドメッセンジャー光操作ツールを細胞内局所ドメインに局在化させた可塑性制御ツールを開発することで,シナプス可塑性と脳機能との因果関係に迫る研究に活用されることが期待される。

大脳皮質・皮質下回路機構に迫る多領域間マルチリンク解析法の洗練化

著者: 礒村宜和

ページ範囲:P.444 - P.445

 脳の領域間の情報伝達のしくみを理解するためには,他の領域に投射する神経細胞のスパイク活動を観測することが有用である。スパイクコリジョン試験はスパイク記録細胞の投射先を同定する信頼できる電気生理学的手法である。筆者らは,マルチニューロン記録とオプトジェネティクスを組み合わせて同試験の効率を向上させるマルチリンク解析法を考案し,ラットの大脳の生理学研究に応用すると共に,自動化システムの開発にも成功した。

マーモセットの眼球運動と認知機能を制御する脳領域の構造-機能マッピング研究

著者: 尾上浩隆 ,   ,   伊佐正

ページ範囲:P.446 - P.447

 霊長類において特に発達している高次脳機能を支える構造と機能の理解は,ヒトの知性の起源を知るという観点から大変重要である。ヒトは他の霊長類と同様に,日常生活において視覚に大きく依存しており,“眼は心の窓”と言われるように,注意や反射的行動の抑制,動機づけ,社会性などの様々な認知機能が眼球運動に反映される。ヒトの認知と眼球運動,そして両者の相互作用の根底にある神経メカニズムを明らかにすることは,高次認知機能だけでなく,関連する様々な神経疾患の病態の理解や治療法の開発という観点からも大変重要である。

光遺伝学的手法を用いた脳機能解析

著者: 加藤智信 ,   田中謙二

ページ範囲:P.448 - P.449

 脳の機能を解析する1つの方法として,脳を構成する様々な細胞,例えば神経細胞,グリア細胞,血管細胞などが,それぞれどのように相互に作用し合っているのか明らかにするアプローチがある。この場合,細胞種特異的にいずれかの細胞集団の機能を操作することが求められるが,それに適した操作技術の一つがオプトジェネティクス(optogenetics;光遺伝学)である。本稿では,オプトジェネティクスを用いた代表的な研究を紹介し,脳内のあらゆる細胞集団に対してこの技術が応用できることを示す。

Chemogenetics(DREADD)を用いた脊髄損傷の再生研究

著者: 河合桃太郎 ,   北川剛裕 ,   吾郷健太郎 ,   名越慈人 ,   岡野栄之 ,   中村雅也

ページ範囲:P.450 - P.451

 治療が困難と考えられてきた脊髄損傷に対する新たな治療法として,筆者らはヒトiPS細胞由来神経幹/前駆細胞移植療法の実現に取り組んできた。そして,治療効果の更なる改善や,背景にあるメカニズムの解明を目指して,細胞移植療法とchemogeneticsの手法を組み合わせた基礎研究を行ってきた。これらの研究は,臨床応用が開始となっている細胞移植療法の発展のための新たな基盤として期待されている。

Ⅲ.ヒト疾患研究 a)精神疾患

精神疾患とイメージング研究

著者: 平野仁一 ,   三村將

ページ範囲:P.452 - P.453

 近年の脳画像の技術的進展は著しく,計測・解析技術の進展が精神疾患の神経基盤の解明に寄与している。本稿では磁気共鳴画像法を中心とした精神疾患における脳画像研究により明らかになった知見,機械学習技術の活用,将来への展望について概説する。

PTSDの分子細胞生物学

著者: 喜田聡

ページ範囲:P.454 - P.455

 心的外傷後ストレス障害(PTSD)は生死に関わるトラウマ体験の記憶(トラウマ記憶)が原因となった精神疾患であるが,その分子メカニズムは不明である。PTSDの主症状が,トラウマ体験の記憶が蘇る再体験症状であり,恐怖記憶の想起(思い出し)と想起後の再固定化の記憶制御プロセス群の異常との関連が予想される。一方,最近,ゲノム解析によりPTSD関連遺伝子の同定が試みられている。筆者らは齧歯類PTSDモデルを用いて恐怖記憶想起と再固定化の分子機構の解明を進めてきた。以上の背景と筆者らの研究成果に基づき,PTSDの発症や病態に対するcAMP情報伝達経路の重要性について考察する。

iPS細胞技術を用いた精神疾患の病態解析

著者: 鳥塚通弘 ,   高田涼平 ,   牧之段学

ページ範囲:P.456 - P.457

 iPS細胞技術を用いた精神疾患研究も初報から10年を過ぎたが,その病態解明に向けて決定的な役割はまだ果たせていない。これまでの研究から様々な課題も明らかになってきており,今後はその他の手法を用いた精神疾患研究との相互補完がよりいっそう重要と考えられる。

双方向トランスレーショナルアプローチによる精神疾患の脳予測性障害機序に関する研究開発

著者: 小池進介 ,   笠井清登 ,   柳下祥 ,   國井尚人 ,   松崎政紀 ,   田中謙二 ,   宇賀貴紀 ,   吉田正俊 ,   山本真江里 ,   鬼塚俊明 ,   三浦健一郎 ,   小松三佐子

ページ範囲:P.458 - P.459

 これまでほとんどの精神疾患基礎研究は,ヒト臨床研究の知見を基礎実験に落とし込むリバーストランスレーショナルアプローチがとられてきたが,その成果が逆に精神疾患臨床・研究に応用されるフォワードトランスレーショナルアプローチはほとんどない。精神疾患のトランスレータブルフェノタイプを開発し,ヒト臨床,ヒト基礎,非ヒト霊長類,マウス基礎研究を組み合わせた双方向トランスレーショナルアプローチを確立することで,精神疾患の病態解明が期待できる。

脳ゲノム情報解析による精神疾患関連神経回路の同定と機能解明

著者: 岩本和也

ページ範囲:P.460 - P.461

 統合失調症,自閉症,双極性障害などの精神疾患では,疫学や遺伝学的研究から共通した環境要因やゲノム要因が発症に関与することが示唆されている。共通の要因から異なる精神症状を特徴とする精神疾患が発症する原因の一つとして,影響を受ける脳領域や神経回路の差異があると考えられる。革新脳プロジェクトでは,環境要因,ゲノム要因それぞれについて,影響を受ける脳領域の同定を試み,どのような精神症状と対応するのか,動物モデルを用いて検討している。本稿では,環境要因に着目した研究の試みについて紹介する。

リン酸化プロテオミクスを用いたドーパミン受容体シグナル機構の解明

著者: 船橋靖広 ,   坪井大輔 ,   西岡朋生 ,   山橋幸恵 ,   永井拓 ,   貝淵弘三

ページ範囲:P.462 - P.463

 ドーパミンは快・不快など情動行動を制御すると考えられているが,その分子機序は長らく不明であった。本稿では,情動行動を制御するドーパミン受容体シグナル機構について,筆者らが独自に開発したリン酸化プロテオミクス法によって解明した最新の研究成果を概説する。

統合失調症の神経生物学のゲームチェンジャー

著者: 笠井清登 ,   柳下祥

ページ範囲:P.464 - P.465

 統合失調症の脳病態解明研究は国際的に着実に進歩がみられ,革新脳や国際脳などの日本の研究プロジェクトの貢献も大きい。同時に,従来の還元主義的な生物医学的パラダイムからの転回の必要性が明らかになり,今後“ゲームチェンジ”をもたらす研究に取り組む必要がある1,2)

iPS細胞技術を用いた統合失調症の病態解析

著者: 堀内泰江 ,   糸川昌成 ,   新井誠

ページ範囲:P.466 - P.467

 統合失調症の病因には,多くの遺伝的要因・環境要因の関与が示唆されているが,分子メカニズムはまだ明らかになっていない。統合失調症の病態解明と治療法開発において,疾患の異種性の回避と病態を反映した疾患モデルの確立は重要な鍵と考えられている。患者由来iPS細胞は,遺伝子の寄与を考慮した疾患モデルとして,病態解析,薬剤反応性の検討が可能であり,プレシジョンメディシンへ応用が期待される。

気分障害の神経生物学

著者: 加藤忠史

ページ範囲:P.468 - P.469

 ゲノム研究のデータをもとにしたデータ駆動型アプローチにより,精神疾患の原因細胞種に迫る手法を提案した。また,統合失調症,自閉症,双極性障害は,表現型が異なるにもかかわらず関連遺伝子に重なりがみられるが,その1つの要因として体細胞変異が関与する可能性が考えられた。今後,脳内における体細胞変異の分布と表現型の関係を明らかにすることで,精神疾患の原因脳部位に迫ることが期待される。

精神疾患横断的に発症に関わるゲノム変異を起点とした分子・神経回路病態の解明

著者: 森大輔 ,   有岡祐子 ,   奥村啓樹 ,   尾崎紀夫

ページ範囲:P.470 - P.471

 統合失調症などの精神疾患は発症に遺伝要因が関わっていることは自明だが,その発症機序は不明である。近年では,22q11.2欠失などの発症リスクの効果が高いゲノム変異が同定され,その欠失を持つiPS細胞やモデルマウスが樹立,作出されている。本稿では,これらモデル生物を用いた分子・神経回路病態解明への取り組みについて述べる。

b)神経変性疾患

孤発性ALSの神経生物学

著者: 陸雄一 ,   石垣診祐 ,   祖父江元

ページ範囲:P.472 - P.473

 ALSの最も重要な病態関連タンパク質として2006年にTDP-43が発見され,ALSの病態研究が飛躍的に進歩した。近年,広範な神経変性疾患の病態にTDP-43の異常が関与することが解明され,TDP-43関連病態による神経変性疾患のパラダイムシフトが起こりつつある。本稿ではALS患者剖検組織の解析からみえてきたTDP-43関連病態について論ずる。

iPS細胞技術を用いたALSの病態解析

著者: 割田仁 ,   青木正志

ページ範囲:P.474 - P.475

 ALSは成人発症の代表的な運動ニューロン変性疾患であり,主に前頭葉の皮質ニューロン,脳幹運動神経核と脊髄前角の運動ニューロンがほぼ選択的に変性する。症例ごとに発症年齢や初発部位,進行速度,非運動症状の合併などが多様で,遺伝学的にも不均一である。平均3-5年で筋力低下や筋萎縮が全身に広がり呼吸筋障害に至るALSの進行抑制薬は限定的な現状だが,iPS細胞技術によるヒト細胞モデルの病態解析が加わったことで治療開発が加速している。

iPS細胞技術を用いたALSの創薬と臨床試験

著者: 髙橋愼一 ,   森本悟 ,   岡野栄之

ページ範囲:P.476 - P.477

 筆者らは,家族性および孤発性の筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者から樹立した人工多能性幹細胞(iPSC)由来の脊髄運動ニューロンを用い,in vitroで疾患表現型を再現することに成功した。更にドラッグ・リポジショニング目的で1,232種類の既存薬ライブラリーをスクリーニングして得られた治療薬候補,ロピニロール塩酸塩を用いた医師主導治験を実施した。他施設でもiPSC創薬発のレチガビンやボスチニブによる臨床試験が進行中,あるいは終了している。

iPS細胞技術を用いた神経変性疾患の解析

著者: 仲井理沙子 ,   近藤孝之 ,   今村恵子 ,   井上治久

ページ範囲:P.478 - P.479

 2007年にヒトの人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell;iPS細胞)の樹立技術が報告され,患者から作製された疾患特異的iPS細胞を疾患の標的細胞へと分化誘導することで,培養皿の中で患者病理を再現することが可能となった。疾患特異的iPS細胞を用いた神経変性疾患の病態モデルから新たな薬剤候補が特定されている。本稿では,疾患特異的iPS細胞を用いた神経変性疾患の病態モデルと創薬研究について概説する。

SBMAの病態解明・治療開発研究

著者: 岡田梨奈 ,   岡田洋平

ページ範囲:P.480 - P.481

 球脊髄性筋萎縮症(spinal and bulbar muscular atrophy;SBMA)は,成人男性に発症する緩徐進行性の下位運動ニューロン変性疾患である。ポリグルタミン鎖(CAGリピート)の異常伸長したアンドロゲン受容体(AR)が,リガンドであるテストステロン依存的に凝集体を形成し,神経障害の発症・進展に関与すると考えられてきた。しかし,従来解析に用いられてきたモデルマウスは実際の患者とは異なる点もあり,より忠実に患者の病態を再現し得るヒト疾患モデルでの解析が求められてきた。本稿では,SBMAの克服に向けたこれまでの研究と今後の展望について,疾患特異的iPS細胞による最近の知見も含めて概説する。

パーキンソン病の遺伝学と神経生物学

著者: 服部信孝

ページ範囲:P.482 - P.483

 パーキンソン病(PD)は原因不明に神経細胞が変性,脱落する神経変性疾患であり,寡動,振戦,筋強剛といった運動機能障害,更には,認知症,精神症状,自律神経機能障害などの非運動症状が合併することも多く,そのため患者の生活の質に多大な影響が生じる。多くは遺伝歴のない孤発型であるが,5-10%は家族歴のある遺伝性PDである。現在,疾患修飾療法の開発が喫緊の課題であり,その開発に最も有効な戦略が遺伝性PDの病態を明らかにすることである。本稿では,筆者らのチームが中心となって解析している遺伝性PDの神経生物学について解説したい。

iPS細胞を用いたパーキンソン病の病態解析

著者: 赤松和土

ページ範囲:P.484 - P.485

 患者iPS細胞を用いてマイトファジー異常を呈する家族性パーキンソン病(Parkinson's disease;PD)PARK2/PARK6の表現型を改善させる薬剤を同定し,それらの薬剤が動物モデルや一部の孤発性PD症例にも有効であることを示した。孤発性PDは多様性のある集団と考えられており,それらを臨床経過・細胞表現型に基づいて正確に層別化することが,PD全体の病態解明と根本的治療薬につながると考えられる。

パーキンソン病の動物モデル

著者: 澤村正典 ,   髙橋良輔

ページ範囲:P.486 - P.487

 動物モデルは疾患研究における最も基本的で重要なツールである。パーキンソン病(PD)の動物モデルは薬剤モデル,遺伝子改変モデル,αシヌクレイン凝集体接種モデルと発展し,多様な展開をみせているが,理想的な動物モデルはいまだ存在しない。ここでは現在用いられているPDの動物モデルについて概説する。

アルツハイマー病とタウタンパク質

著者: 前田純宏

ページ範囲:P.488 - P.489

 アルツハイマー病患者脳内においてみられる特徴的な病理像と言えば,アミロイドβ(Aβ)とタウタンパク質による老人斑と神経原線維変化である。本稿では,主にタウタンパク質に焦点を当てて,その神経毒性発揮機構と,バイオマーカーの開発,それらを標的とした治療薬開発の現状と,今後の展開を概説した。

アルツハイマー病の神経生物学:細胞外タウの恒常性維持機構と病態形成に対する役割

著者: 山田薫 ,   橋本唯史 ,   岩坪威

ページ範囲:P.490 - P.491

 凝集性タウ分子が細胞外に放出され,次いで細胞内取り込みを受けることで細胞間を伝播するという知見から,細胞外に存在するタウ分子はタウ蓄積進行における重要なトリガー分子として認識されるようになった。筆者らは,タウの細胞外量の調整に関わる内在性機構という新しい着眼点から,伝播やタウ蓄積,神経変性に与える効果について研究を展開してきた。本稿では,これまでに得られた研究成果を最近の知見を踏まえて考察する。

iPS細胞を用いたアルツハイマー病の病態解析

著者: 渡部博貴

ページ範囲:P.492 - P.493

 ヒト体細胞に初期化遺伝子を導入し,あらゆる細胞へ分化可能な人工多能性幹(iPS)細胞を作出する技術によって,これまで不可能であったヒト中枢神経系の細胞生物学的機能をディッシュ上で解析することが可能となった。iPS細胞から誘導したヒト神経系細胞は,これまでの種差による問題を克服できるモデルとして期待されている。本稿では,iPS細胞から誘導されたヒト中枢神経系細胞を用いたアルツハイマー病モデルの現状を概説する。

前頭側頭型認知症の生物学

著者: 森本悟

ページ範囲:P.494 - P.495

 前頭側頭型認知症(FTD)は,行動,認知,遂行機能,または言語機能における進行性の障害を特徴とする臨床症候群である。一方,前頭側頭葉変性症(FTLD)という用語は,これらの臨床症候群を引き起こす神経変性疾患であり,前頭側頭葉ネットワーク機能障害に関連するタンパク質異常症を含む。臨床的,遺伝学的,および分子生物学的な特徴の解明が進み,FTDおよびFTLDに関する知見が増えるに従い,これまで考えられてきたよりもはるかに広い症状や徴候を示す疾患群であることが明らかになってきた。特に,これまでに同定されたFTDに関連する様々な遺伝子に注目し,その分子病態に関して概説する。

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目次

ページ範囲:P.377 - P.378

書評

著者: 森正樹

ページ範囲:P.496 - P.496

財団だより

ページ範囲:P.497 - P.497

次号予告

ページ範囲:P.498 - P.498

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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