増大特集 革新脳と関連プロジェクトから見えてきた新しい脳科学
特集「革新脳と関連プロジェクトから見えてきた新しい脳科学」によせて
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著者:
岡野栄之12
所属機関:
1慶應義塾大学医学部生理学教室
2理化学研究所脳神経科学研究センターマーモセット神経構造研究チーム
ページ範囲:P.379 - P.379
この10年間,世界的にも脳科学の巨大プロジェクトが進みました。2013年,脳の科学的理解を加速するための2つの大規模国家研究プロジェクトである米国BRAIN Initiativeと欧州のHuman Brain Project(HBP)が開始されました。日本の科学者コミュニティーでは,動物モデルからヒトの脳を正確に理解するためには,霊長類による脳研究が必要であり,霊長類の脳から得られる科学的知見は,ヒトの精神疾患,神経疾患,神経変性疾患の診断と治療に関するエビデンスに基づくトランスレーショナルリサーチに不可欠な要素であると判断し,米国やEUの脳プロジェクトの大規模化・広範化とは根本的に異なるアプローチとして,新世界・小型霊長類であるコモンマーモセット(Callithrix jacchus)を主要な脳疾患克服のための病態解析・治療法開発のモデルとして開発を加速することが重要であると結論しました。これらを踏まえ,2014年6月,文部科学省および日本医療研究開発機構(AMED)の支援により,「革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト」(革新脳)[Brain/MINDS(Brain Mapping by Integrated Neurotechnologies for Disease Studies)]プロジェクトがスタートしました。
この革新脳研究では,神経細胞がどのように神経回路を形成し,どのように情報処理を行うことによって全体性の高い脳の機能を実現しているかについて,その全容を明らかにし,更に精神・神経疾患の克服につながるヒトの高次脳機能の解明のための基盤を構築してきました。革新脳の前半5年間は「マーモセット全脳回路に関するマクロレベルの構造と活動のマップを完成」を目標とした研究がオールジャパン体制で精力的に推進され,これまでマーモセット脳の遺伝子データベースの構築,脳画像データの3D化およびその動画のデータポータルでの公開,マーモセットの脳回路研究への応用可能な革新的イメージング技術の開発,ヒトと非ヒト霊長類の脳の相同神経回路の同定技術の開発など着実に成果が積み上がってきており,臨床応用への道筋が見えてきています。