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特集 未病の科学 Ⅱ.未病の実験研究
1細胞トランスクリプトームの機能別分類
著者: 飯田渓太1
所属機関: 1大阪大学蛋白質研究所
ページ範囲:P.138 - P.141
文献購入ページに移動 1細胞トランスクリプトームとは1細胞レベルでの転写産物に関する情報総体であり,典型的には遺伝子と細胞ごとに取得されたRNA量の行列データを指す。1細胞RNAシークエンス(scRNA-seq)およびそのデータ解析の精度は,最近10年間で飛躍的に向上した。その結果,従来の集団解析では同定困難であった様々な種類の細胞を新たに検出することが可能になった1)。1細胞トランスクリプトーム解析を用いることで,有効なバイオマーカーの知られていない疾患に対しても新たな治療標的分子を見いだせる可能性が示唆されている。例として,敗血症患者を対象としたコホート研究では,疾患の進行に関連する単球の亜集団とその分子的特徴が見いだされた2)。
1細胞データの解析手法について,Seuratなどの汎用ソフトウェアでは遺伝子発現プロファイルに基づき,細胞集団を幾つかのグループに分画するクラスタリング手法がほぼ確立している3)。また,最近は遺伝子発現プロファイルから各種RNA分子の相対的な合成速度を推定し,細胞全体の転写動態を予測する方法も盛んに研究されている4)。しかし一方で,これらの計算結果に対する生物学的解釈についてはいまだ多くの問題が残されており,研究者の専門知識と経験による試行錯誤に頼っているのが実情である。ほとんどの遺伝子はそれぞれ多様な生物機能に関わっており,その細胞が置かれた状態においてどれが真に重要な機能であるかをデータのみから判別することが難しいためである。
1細胞データの解析手法について,Seuratなどの汎用ソフトウェアでは遺伝子発現プロファイルに基づき,細胞集団を幾つかのグループに分画するクラスタリング手法がほぼ確立している3)。また,最近は遺伝子発現プロファイルから各種RNA分子の相対的な合成速度を推定し,細胞全体の転写動態を予測する方法も盛んに研究されている4)。しかし一方で,これらの計算結果に対する生物学的解釈についてはいまだ多くの問題が残されており,研究者の専門知識と経験による試行錯誤に頼っているのが実情である。ほとんどの遺伝子はそれぞれ多様な生物機能に関わっており,その細胞が置かれた状態においてどれが真に重要な機能であるかをデータのみから判別することが難しいためである。
参考文献
. 20:273-282, 2019
. 26:333-340, 2020
. 184:3573-3587.e29, 2021
. 560:494-498, 2018
5)Iida:Bioconductor R package version 1.0.0:2022
. 38:4330-4336, 2022
. 19:15, 2018
. 26:976-978, 2010
. 38:333-342, 2020
10)飯田渓太,岡田眞里子:空間スクリプトームと1細胞トランスクリプトームの統合解析.鈴木 穣編:実験医学別冊 空間オミクス解析スタートアップ実践ガイド,pp175-182.羊土社,東京,2022
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