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文献詳細

雑誌文献

生体の科学74巻4号

2023年08月発行

文献概要

解説

—第1回生体の科学賞 受賞記念論文—充填知覚の神経機構の理解の現状

著者: 小松英彦123 齊藤治美14

所属機関: 1玉川大学脳科学研究所 2自然科学研究機構生理学研究所 3自然科学研究機構基礎生物学研究所 4京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点

ページ範囲:P.370 - P.375

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 視覚における充填知覚とは,視野の中のある領域に,その部分には物理的には存在しない色や明るさや模様が知覚される現象のことを指す。物理的な刺激と知覚が対応しないために一種の錯視と言えるが,実は視知覚にとって非常に重要な機能である。このことを示す古典的な例に静止網膜像の実験がある。この実験では,内側が緑色で外側が赤色の同心円の図形を見ているときに,赤色と緑色の境界が網膜上で静止するようにしてやると,しばらくすると周囲の赤色が内部もうずめて一様な赤い円盤が知覚された。この現象は,正常な視野で面が見えるときにも,面の境界部分の情報が面の内部に充填する過程が重要であることを示している。視覚野で輪郭が検出され,その情報が統合されて複雑な図形の認識が行われる処理と並行して,輪郭部分で検出された明るさや色の情報を用いて図形内部の面が形成されるのである。

 充填知覚は,正常に物体を見るときに働いている基本的な視覚系のしくみが生み出す知覚現象と考えられる。前述した静止網膜像の知覚を体験するためには特殊な装置が必要だが,充填知覚は様々な事態で簡単に観察することができる。図1に幾つかの例を示した。充填知覚は視覚系の重要な機能であるにもかかわらず,その処理の実態については不明な部分が多い。本稿では,筆者らの最近の研究とそれに基づく仮説も含めて,充填知覚に関する理解の現状について述べたいと思う。

参考文献

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掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1883-5503

印刷版ISSN:0370-9531

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