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雑誌目次

雑誌文献

生体の科学74巻5号

2023年10月発行

雑誌目次

増大特集 代謝

特集「代謝」によせて

著者: 『生体の科学』編集委員一同

ページ範囲:P.387 - P.387

 今から100年前の1920年代から約30年の間,代謝研究は目覚ましい発展を遂げた。Meyerhofらによる乳酸代謝の発見とそれに続く解糖系の確立,Cori夫妻らによる糖新生回路の発見,KrebsによるTCAサイクルの発見など重要な代謝経路の多くはこの時代に確立した。また,1920年代に発見されたATPは,その後筋収縮における役割などからエネルギー通貨として認識されるようになり,1940年代にはLehningerらにより酸化的リン酸化によるATP合成系が証明され,Mitchellの化学浸透圧仮説,更にはATP合成酵素の同定へとつながっていった。更に,Banting,Best,Macleodによりインスリンが発見され,糖尿病の病態における意義が確立したのもこの時代であり,その3年後に上梓された柿内三郎著「生化學提要」(1925)には,既に「膵臓除去によりて糖尿病の起るは膵臓内Langerhans島嶼より分泌せらるる覚醒素Insulinの缼如に基因す」と記載されている。

 こうして20世紀前半に百花繚乱の発展を遂げた代謝学はその後,教科書的知識として定着し,それに続く分子生物学・遺伝子工学全盛期には,多くの研究者の眼には「既に確立し終えた学問分野」と映っていたように思われる。しかし,「メタボリック症候群」という概念が生まれた1990年代後半あたりから,種々の病態研究において代謝学が再び脚光を浴びるようになる。2005年に創刊された雑誌『Cell Metabolim』のBrown & Goldsteinをはじめとするエディターらによる巻頭言“Cell Metabolism:Why, and why now?”には「代謝学は今やルネサンス期にある」と述べられているが,その要因として,多様な臓器間ネットワークやエピゲノム制御などを介して代謝調節が多くの生理機能や病態に深く関与していることが明らかになってきたこと,オミクス解析や構造生物学・イメージングなど新技術の急速な発展によってそのメカニズムが多様な角度から解明されてきたことなどが挙げられる。それに加えて新しい分野との融合研究が様々な形で展開しており,黎明期から100年経った今,「代謝学」はまさにルネサンスを迎えている。

Ⅰ.代謝と臓器・疾患

臓器間ネットワークによる代謝制御機構

著者: 高橋圭 ,   山田哲也 ,   片桐秀樹

ページ範囲:P.388 - P.389

 個体の代謝を担う種々の臓器は,単に各々が局所で機能を起結しているのではなく,諸臓器を統御する機構(臓器連関)の支配下で複合的に機能している。筆者らや他の研究室から,膵インスリン分泌を制御する臓器連関や食欲を支配する臓器連関などが報告されつつあるが,本稿では個体レベルのエネルギー消費を左右する臓器連関に絞って述べる。

心不全におけるケトン体を介した心保護作用

著者: 有馬勇一郎

ページ範囲:P.390 - P.391

 ケトン体は空腹時のエネルギー基質として知られているが,近年多面的な作用があることが注目されている。心不全患者ではケトン体の血中濃度と共に利用率も増加しており,ケトン体補充による心保護効果も示された。一方で,過度な蓄積はケトアシドーシスを引き起こすことも明らかであるため,心保護作用を臨床に活かすためには機序の適切な理解や至適濃度の設定などを詳細に検討する必要がある。

不全心筋の心筋エネルギー代謝と治療薬の開発

著者: 絹川真太郎

ページ範囲:P.392 - P.393

 心筋細胞は興奮収縮連関の過程で大量のATPを消費する。そのATPの95%以上を好気的なミトコンドリア代謝による産生に依存している。ミトコンドリアにおけるエネルギー代謝は,エネルギー基質利用,クエン酸回路による電子供与体の産生,電子伝達系での電子の受け渡しによる一連の流れによっている。不全心筋においてこれら一連の過程が障害されており,心不全の病態形成に重要な役割を果たしていると考えられている。

オートファジー,マイトファジーと循環器疾患

著者: 山口修

ページ範囲:P.394 - P.395

 オートファジーとは細胞内分解機構の一つである。循環器疾患においてもオートファジーは心不全や心肥大などの病態において観察されていたが,分子機構が明らかにされていなかったために,観察的研究にとどまり長らくその生理的,病的意義は不明であった。酵母オートファジー関連遺伝子の同定に端を発し,哺乳類細胞でもその分子機構が解明され,心臓においてもオートファジーの保護的機能が明らかにされた。

疾患iPS細胞を用いたミトコンドリア病の病態・創薬研究

著者: 徳山剛士 ,   魚崎英毅

ページ範囲:P.396 - P.397

 人工多能性幹(induced pluripotent stem;iPS)細胞の登場は,遺伝性の希少疾患への病態研究に革新をもたらした。特に,モデル動物の利用が困難なミトコンドリア病においては,病態解明や創薬研究などにiPS細胞が活用されている。本稿では,疾患iPS細胞の登場で,ミトコンドリア病の病態の理解や創薬に向けた研究がどのように進展しているかについて紹介したい。

生後環境による代謝の変化と心筋再生

著者: 佐田泰 ,   木村航

ページ範囲:P.398 - P.399

 心血管系疾患に対する新たな治療法の開発へのニーズは世界的に高い。近年,心筋の再生と代謝が密接に関わっていることが明らかになってきた。そのため,本稿では代謝制御による心筋再生の誘導のメカニズムに関する,ここ2-3年で得られてきた最新の知見について概説を行う。

胃から分泌されるエストロゲンによる血中脂肪調節

著者: 金井克光

ページ範囲:P.400 - P.401

 血糖値はインスリンやグルカゴンにより調節されるが,血中脂肪(中性脂肪や脂肪酸)を調節する臓器やホルモンは知られていなかった。他方,卵巣,脂肪,胃などから分泌されるエストロゲンは性周期調節以外にも,摂食行動,脂肪合成,脂肪の血中放出を抑制し,脂肪の蓄積や消費を促進する。筆者らは血中脂肪が増えると胃のエストロゲン分泌が増えることを見いだし,これが血中脂肪を下げるというモデルを提唱した。本稿ではこのモデルと今後の展望を解説する。

脂肪肝の新基準MAFLD

著者: 川口巧

ページ範囲:P.402 - P.403

 2020年,International Expert Panelより脂肪肝の新概念であるmetabolic dysfunction-associated fatty liver disease(MAFLD)が提唱された。飲酒量の多寡に基づくこれまでの脂肪肝の分類とは異なり,MAFLDは病期進展のリスク因子である肥満や糖尿病などの代謝異常を組み入れ基準としている。本稿では脂肪肝の新概念MAFLDについて概説する。また,脂肪肝改善のための運動プログラム「肝炎体操」と「ヘパトサイズ®」についても紹介する。

NAFLDにおけるアミノ酸代謝と免疫病態

著者: 嘉数英二 ,   考藤達哉

ページ範囲:P.404 - P.405

 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は飽食の時代を背景に近年急増しており,その一部が肝硬変・肝がんに進行するため病態解明が急務である。糖・脂質代謝とNAFLDに関するエビデンスは数多く存在するが,アミノ酸代謝に関してはあまり知られていない。近年,免疫応答におけるエネルギー代謝に関する研究が注目されており,本稿ではNAFLDにおけるアミノ酸代謝と免疫病態に関して述べる。

核酸代謝と生活習慣病

著者: 櫛山暁史

ページ範囲:P.406 - P.407

 核酸代謝異常の遺伝性疾患などの病態への関与は古くから知られるが,近年の研究では,尿酸産生増加を伴う核酸代謝異常が生活習慣病に関与することが数多く示されている。生活習慣病は代謝の疾患の包括的な捉え方であり,現代社会において重要な健康問題の一つである。なかでも,動脈硬化,慢性腎臓病,慢性肝障害,糖尿病は深刻な健康リスクをもたらす。本稿では,特に尿酸産生の律速酵素であるキサンチンオキシダーゼ(XO)と生活習慣病の関連性に焦点を当て,筆者らがここ10年の間,継続的に報告してきた研究成果も紹介したい。

先天代謝異常症の病態理解の進歩と治療法の開発

著者: 中島葉子 ,   大石公彦

ページ範囲:P.408 - P.409

 先天代謝異常症(IEM)は,タンパク質,炭水化物,脂肪などの代謝に必要な酵素や輸送体の欠損や機能喪失により,様々な症状や合併症を起こす遺伝性疾患群である。これらの疾患は,診断,その根底にある病態生理の理解,効果的な治療法の開発という点で,歴史的に重要な課題を突きつけてきた。近年の医学の進歩により,IEMの根底にある複雑なメカニズムに新たな光が当てられ,革新的な治療法の開発への道が開かれつつある。本稿では,IEMの病態生理の理解におけるこれまでの重要な進歩の概要と,新しい治療法の開発の進展について述べる。

ミトコンドリア病の病態解明と治療法の開発

著者: 八塚由紀子 ,   岡﨑康司

ページ範囲:P.410 - P.411

 ミトコンドリア病とはミトコンドリアの機能低下によって発症する疾患の総称である。発症時期が新生児期〜成人期と広く,臨床症状や遺伝形式も多岐にわたる。そして,ミトコンドリアDNAと核DNAのいずれに存在する遺伝子変異も発症の原因となり得る1)。このように,臨床的にも遺伝的にも診断が非常に難しい疾患ではあるが,筆者らは,生化学診断とゲノム解析を組合せることによる体系的な病態解明と有効な治療法の開発に取り組んでいる。

ミトコンドリア心筋症を中心にした代謝と病態の関連

著者: 武田充人

ページ範囲:P.412 - P.413

 心筋細胞は発生の過程で受動的拡散による解糖系代謝から冠循環による好気的代謝へと変化し,生後の好気的環境に備える。エネルギー基質はブドウ糖から脂肪酸へ変化し,ミトコンドリアへ①輸送され,②β酸化を受け,③酸化的リン酸化反応を経てATPが産生されている。このため,この経路に障害が及ぶと心筋症を来す。特に,③の障害はミトコンドリア心筋症の主病態であり,乳児期発症例では生後の好気的条件に適応できず死亡する例も多い。成人例は肥大型心筋症様心肥大を呈し,心筋病理ではミトコンドリアの著明増加や巨大ミトコンドリア,クリステ異常を認める。

TFAMマウスからみるミトコンドリア機能維持と疾患病態

著者: 康東天

ページ範囲:P.414 - P.415

 ミトコンドリアDNA(mtDNA)は細胞内活性酸素の主要な発生源であるミトコンドリア内に存在し,核DNAに比べはるかに強い酸化ストレス下にある。ミトコンドリア転写因子A(TFAM)はmtDNAのヌクレオソーム様構造(ヌクレオイド)を形成する主要構成タンパク質であり,ヒストン様タンパク質としてmtDNAを機能的構造的に保護している。そのためTFAM過剰発現マウスでは,心不全や老化の進行が強く抑制される。

ミトコンドリア機能異常と老化機構

著者: 内海健

ページ範囲:P.416 - P.417

 老化はミトコンドリア異常が引き金になること,またミトコンドリアは細胞内恒常性維持のため様々なオルガネラと相互作用することが知られている。老化の進展はミトコンドリアの機能異常が他のオルガネラ,特にリソソームの機能異常によって増悪化を引き起こすことを見いだした。特にHIF1α-NAD合成系酵素を介してリソソーム機能障害を引き起こす新分子機序について紹介する。

代謝産物センサー分子の生体での機能と医療応用可能性

著者: 関谷元博

ページ範囲:P.418 - P.419

 代謝はその基質と終産物が研究対象となることが多かったが,近年その中間代謝産物を含む膨大な代謝産物に様々な生理活性があり,またそうした生理活性の多くを代謝産物に結合して機能が調節される代謝産物センサー分子が担っていることが明らかになってきた。また,その役割は肥満・糖尿病などの代謝関連疾患にとどまらず,腫瘍,免疫,中枢神経など幅広い生命現象に及んでいる。本稿では,こうした代謝産物センサーについて概説する。

Ⅱ.代謝と神経

新規脳内小タンパク質による代謝調節機構

著者: 浮穴和義 ,   岩越栄子 ,   成松勇樹

ページ範囲:P.420 - P.421

 80アミノ酸残基から成る分泌性の小タンパク質(長鎖ペプチド)をコードする新規遺伝子を視床下部から発見し,小タンパク質をneurosecretory protein GL(NPGL)と命名した。飢餓や肥満状態において,本Npgl遺伝子の発現が変化することから,NPGLがエネルギー代謝調節に関与することが示唆された。本稿では,ラットとマウスを用いた研究から,NPGLが摂食行動や白色脂肪組織での脂肪蓄積に重要な作用を担っている中枢性因子であることについて述べる。

PI(4,5)P2代謝と神経変性の分子基盤

著者: 新田陽平 ,   小坂二郎 ,   杉江淳

ページ範囲:P.422 - P.423

 ホスファチジルイノシトール4,5-ビスリン酸[PI(4,5)P2]は生体膜を構成するリン脂質の一種であり,細胞膜に局在して多種多様な機能を発揮する。また,PI(4,5)P2は分解されて二次メッセンジャーとしても機能する。本稿では,PI(4,5)P2の機能を紹介し,その代謝がいかに調節されているか,そしてその調節異常が引き起こす神経変性の分子基盤を述べる。

運動時エネルギー代謝の中枢性調節

著者: 井上和生

ページ範囲:P.424 - P.425

 持久運動時の脂肪組織からの遊離脂肪酸動員は,エネルギー源の供給機構として非常に重要である。筆者らは持久運動時の末梢組織の情報が脳内ノルアドレナリン作動性神経によって視床下部腹内側核に伝達され,ここから交感神経を介して脂肪酸の動員が指示されていることを明らかにした。中枢神経系による調節は,運動時の全身でのエネルギー代謝の協調に重要な役割を果たす。

糖・エネルギー代謝を制御する脳-末梢臓器連関

著者: 井上啓 ,   稲葉有香

ページ範囲:P.426 - P.427

 脳(視床下部)と末梢臓器の連関,特に迷走神経を介した脳と膵/肝の連関は,糖・エネルギー代謝恒常性維持に必須である。脳-膵連関は,ムスカリンM3受容体を介し,膵内分泌を制御し,脳-肝連関は,α7型ニコチン受容体,IL-6/STAT3シグナルを介し,肝糖新生を制御する。前者は食後早期の,後者は食後後期の糖代謝制御に重要な役割を果たしている。

体温と代謝の中枢調節メカニズム:肥満発症機序の理解に向けて

著者: 中村和弘

ページ範囲:P.428 - P.429

 体温と代謝の調節は密接に連関する。特に,寒冷環境で体温低下防止に機能する褐色脂肪組織の熱産生は脂肪を燃焼し,肥満防止の役割もある。近年,褐色脂肪熱産生などの体温調節反応を制御する脳の神経回路メカニズムが明らかになりつつあり,そのしくみの不全が代謝の低下を招き,肥満につながる可能性が見えてきた。本稿では,肥満発症機序の理解に向けた,体温と代謝の中枢調節メカニズムに関する最近の知見を紹介する。

視床下部によるエネルギー代謝・炎症制御と代謝疾患発症機構

著者: 箕越靖彦

ページ範囲:P.430 - P.431

 肥満すると脂肪組織において炎症が引き起こされ,肥満症を発症する原因となる。一方,皮下脂肪組織では,肥満しても内臓脂肪組織に比べて炎症が比較的少ないことが知られている。本稿では,視床下部腹内側核SF1ニューロンが,食事性肥満マウスにおいて皮下脂肪組織である鼠径部脂肪組織の炎症を選択的に抑制することを示す。

消化管ホルモンによる高次精神活動と代謝制御

著者: 原田一貴 ,   坪井貴司

ページ範囲:P.432 - P.433

 消化管上皮に存在する消化管内分泌細胞から分泌される消化管ホルモンは,末梢臓器に加えて中枢および末梢神経にも作用し,全身の恒常性の維持に深く関与している。本稿では,そのなかでも消化管ホルモンによる認知機能などの高次精神活動や糖や脂質代謝の調節機能について紹介する。

運動による糖尿病予防・改善の分子機構

著者: 古市泰郎 ,   藤井宣晴

ページ範囲:P.434 - P.435

 血液中の糖の約70%は骨格筋で消費される。骨格筋における糖の取り込みが低下すると血糖値が上昇したままになり,2型糖尿病の発症につながる。運動が糖尿病を予防・改善するのは,骨格筋の糖取り込みを促進させるためであり,運動の効果は糖尿病患者においても有効である。本稿では,運動が糖取り込みを促進させる機序について最近の研究動向を含めながら概説する。

糖代謝と神経変性:ショウジョウバエ研究から

著者: 岡未来子 ,   安藤香奈絵

ページ範囲:P.436 - P.437

 加齢に伴う脳の機能低下と神経変性疾患リスクの増加は喫緊の課題である。脳高次機能を担う神経細胞の細胞内エネルギーATPは,主に糖代謝により供給される。近年,脳の老化と糖代謝の関連が分子レベルで明らかになりつつある。寿命が短く,遺伝学的ツールの豊富なショウジョウバエモデルの利点を活かした加齢依存性神経変性疾患と糖代謝の関係についての知見を紹介する。

統合失調症患者由来神経系細胞における脂質代謝関連遺伝子ネットワークの再構築

著者: 岡本理沙 ,   柚木克之

ページ範囲:P.438 - P.439

 統合失調症患者に由来する神経系細胞の既報トランスクリプトームデータに基づいて,脳機能への関与が近年示唆されている脂質代謝に関連する転写制御ネットワークを再構築した。結果,複数の患者集団に共通する転写制御ネットワークの存在が明らかになったほか,これまでの研究ではほとんど報告例がない形質・疾患と統合失調症との間の関連をデータドリブンに予測した。

休眠状態を誘発する神経細胞種と代謝制御

著者: 小野宏晃 ,   砂川玄志郎

ページ範囲:P.440 - P.441

 休眠は,動物が冬季や食料不足に直面した際に,能動的にエネルギー必要量を減らす生存戦略である。動物が休眠するためには,生体の内的・外的環境の変化を知覚・統合して,全身の細胞へ情報伝達するしくみが存在するはずである。特に,視床下部に位置する特定の神経細胞種は,温感冷感の感覚シグナルや,末梢のエネルギー代謝情報を統合し,中枢神経系の他領域や自律神経系を調節することで,動物に休眠状態を誘発する。

Ⅲ.代謝とがん

がん微小環境におけるニュートリオミクス

著者: 大澤毅

ページ範囲:P.442 - P.443

 近年,疾患生物学研究において,臓器間や細胞間を連関するオミクス統合解析が盛んに行われている。がん微小環境では,がん細胞自身のみならず,細胞間やオルガネラ間の代謝相互作用“ニュートリオミクス”ががん悪性化に重要な役割を果たすことから,ニュートリオミクスの理解が新しいがん治療標的として注目を集めている。

分岐鎖アミノ酸代謝を介した正常組織幹細胞とがん幹細胞維持機構

著者: 服部鮎奈 ,   慶澤遥 ,   伊藤貴浩

ページ範囲:P.444 - P.445

 生体内の代謝といえば,解糖系やクエン酸回路を代表とするいわゆる中心代謝が細胞のエネルギー供給源として盛んに研究されてきた。近年,例えば脂肪酸や一炭素代謝,アミノ酸代謝についても細胞種ごとに独自の特性を有し,細胞の性質や機能を制御することが広く認識されてきた。本稿では,組織幹細胞およびがん幹細胞において分岐鎖アミノ酸(branched-chain amino acid;BCAA)代謝が果たす役割に焦点を当てて紹介する。

アミノ酸トランスポーターとがん細胞増殖

著者: 鈴木結香子 ,   齊藤康弘

ページ範囲:P.446 - P.447

 がん細胞は,細胞外から細胞内へアミノ酸を取り込むアミノ酸トランスポーターの発現を異常に亢進させることで,正常な細胞と比較して多くのアミノ酸を細胞内に取り込み,細胞増殖を亢進している。本稿では,がん細胞特異的に高発現するアミノ酸トランスポーターの機能や,乳がん細胞に認められるアミノ酸トランスポーターの機能亢進によりロイシンの取り込みが増進する分子機構,そして,がん診断と治療におけるアミノ酸トランスポーターの有用性について概説する。

エピゲノム・代謝異常による白血病発症機構と治療

著者: 北林一生

ページ範囲:P.448 - P.449

 細胞は栄養状態や酸素濃度などを感知して細胞の増殖や分化を制御し,これらは栄養状態に応じた代謝産物により制御されると考えられる。遺伝子の発現はヒストンのアセチル化やメチル化・DNAのメチル化などエピゲノム修飾により制御され,これらを制御するアセチル化酵素やメチル化酵素はアセチルCoAやS-アデノシルメチオニン(SAM)など代謝産物をコファクターとして必要とするため,これらの代謝産物の増減によりエピゲノム修飾が制御され遺伝子発現を変化させる(図)。

がん細胞の代謝振動と代謝共生

著者: 雨宮隆 ,   柴田賢一 ,   山口智彦

ページ範囲:P.450 - P.451

 “がんは代謝の病気”という見方がある。がん細胞が糖代謝において好気的解糖を亢進することは古くから知られているが(Warburg効果),1細胞計測に基づいた筆者らの研究により,がん細胞は代謝振動(解糖系振動)を起こすこともわかってきた。本稿では,この20年間に斯界で蓄積されたがんの代謝共生と代謝的多様性の知見も踏まえ,Warburg効果と代謝振動との関係について述べる。

代謝変化と細胞競合

著者: 昆俊亮

ページ範囲:P.452 - P.453

 近年の研究成果より,生体内で偶発的に産生された変異細胞を周辺の正常細胞が認識し,組織より排除する生体内防御機構が機能していることが明らかになってきた。この一連の過程は“細胞競合”と称され,広義の意味では同種の細胞間において互いに生存を争った結果,一方が勝者細胞として生き残り,他方が敗者細胞として排除される現象として定義される。本稿では,細胞競合と代謝との関連について概説する。

糖尿病とがん:そのメカニズム

著者: 植木浩二郎

ページ範囲:P.454 - P.455

 2型糖尿病では,発がんリスクが高いことが知られており,そのメカニズムとしては高血糖を介するWarburg効果の増強や,肥満での発がんリスクの上昇との疫学的共通性などから,慢性炎症やストレス反応,腸内細菌の変化,インスリン抵抗性による高インスリン血症など,多くの因子が複雑に関与していることが想定されている(図)。

NASHおよびNASH関連肝がんにおける脂質代謝変化

著者: 中川勇人

ページ範囲:P.456 - P.457

 がん細胞は周囲の環境に適応するため固有の代謝変化を生じており,“metabolic reprogramming”と呼ばれ,治療標的として注目されている。筆者らは,NASH関連肝がんの網羅的メタボローム解析から,lipid-richな周囲微小環境に適応するための特異的脂質代謝変化を同定した。また,一般にNASHにおいては脂質生合成が亢進していると考えられているが,その活性状態は病期によって大きく変化し,病態進展に様々な影響を与えていることが筆者らの研究によって明らかになった。本稿ではこれらの研究結果を中心に,NASHおよびNASH関連肝がんにおける脂質代謝変化について概説する。

肥満と卵巣がん

著者: 伊吉祥平 ,   吉原雅人 ,   梶山広明

ページ範囲:P.458 - P.459

 卵巣がんは腹膜播種という特徴的な進展形式を示す。播種巣の形成に際して,卵巣がん細胞は腹腔内脂肪組織への選択性を示し,そこで脂肪細胞ががん細胞の増殖や進展を促進することがわかっている。肥満が卵巣がんの予後に与える影響については長らく議論があったが,脂肪組織の蓄積が予後不良因子となることを示唆する報告が多い。脂肪組織をターゲットとした新規治療法の確立は他がん腫にも応用できる可能性があり,その開発が求められている。

腸内細菌叢成分の肝移行による肥満関連肝がんの進展機構

著者: 山岸良多 ,   大谷直子

ページ範囲:P.460 - P.461

 腸内細菌叢は様々な代謝物質を産生し,それらが腸から吸収され,腸のみならず様々な遠隔臓器に影響を及ぼすことが明らかになっている。なかでも肝臓は,門脈などを介して腸内細菌関連因子がまず流れ込む臓器であり,腸内細菌叢の影響を受けやすい臓器と考えられる。筆者らは非アルコール性脂肪性肝炎関連肝がんの微小環境において,腸内細菌叢成分の肝移行により,肝がん促進的がん微小環境が形成されていることを見いだした。特に肝星細胞ががん関連線維芽細胞に変化し,細胞老化随伴分泌現象を起こす分子メカニズムの一端を明らかにした。

がんとNAD代謝

著者: 田沼延公

ページ範囲:P.462 - P.463

 NADは,グルコース代謝をはじめとする様々な代謝反応において,補酵素として不可欠である。ほかにも,NADPH生合成の基質として,また,一部タンパク質翻訳後修飾酵素の基質としてもNADは使われており,NAD代謝と種々の疾患との関係が研究されている。本稿では,NADや関連代謝経路にまつわる基本情報を述べたのち,細胞がん化との関係や,がん治療標的としての可能性について概説する。

DNA障害型抗がん剤への感受性を高めるSLFN11遺伝子

著者: 藤原昂平 ,   村井純子

ページ範囲:P.464 - P.465

 新規抗がん剤が続々と登場する昨今においても,DNA障害型抗がん剤はがん治療の最前線で使用され続けている。一方で,DNA障害型抗がん剤の効果を予測できるバイオマーカーはいまだ実臨床で存在しない。Schlafen11SLFN11;シュラーフェン11)は,大規模ながん細胞データベースを用いた解析により,多様なDNA障害型抗がん剤の感受性を増強させる遺伝子として新たに見いだされた。本稿では,近年明らかになってきたSLFN11の分子機構と今後の展望について述べる。

糖鎖プロファイリング技術に基づく新規腫瘍マーカーの同定

著者: 植田幸嗣

ページ範囲:P.466 - P.467

 タンパク質翻訳後修飾の一つである糖鎖は,複数の構成単糖が三次元的な分岐を伴って連結されることによって複雑,かつ多様な構造様式を持つ。この構造は産生細胞の種類や周辺環境によってもダイナミックに変化することが知られているため,腫瘍マーカーCA19-9など疾患特異的な糖鎖は古くから診断に利用されている。近年,分析技術の飛躍的な向上に伴って基礎生物学上,臨床上重要な糖鎖が次々と見いだされてきているため,本稿ではその一端を実例と共に解説する。

がんの治療標的分子探索手法としての多角的糖鎖解析

著者: 久野敦

ページ範囲:P.468 - P.469

 翻訳後修飾の一つである糖鎖修飾は,細胞表層タンパク質に構造上の変化を与える。病態に伴う変化を見いだすことで,抗体薬物複合体開発のように応用可能な特異性の高い抗体の作出に寄与することが期待される。本稿では,発展が目覚ましい糖鎖解析技術の最近の開発動向について紹介し,その多角的な利用が,治療標的探索の効率を向上する点について,自らの開発経験を基に具体的に紹介したい。

Ⅳ.代謝と免疫

腸内細菌がつくる乳酸・ピルビン酸により免疫が活性化されるしくみ

著者: 梅本英司 ,   中西勝宏

ページ範囲:P.470 - P.471

 腸内細菌が産生する代謝分子は様々な形で宿主細胞に作用する。筆者らは腸内細菌由来の代謝分子,乳酸およびピルビン酸が腸管CX3CR1貪食細胞上のGタンパク質共役型受容体(GPCR)GPR31に作用し,その樹状突起伸長を誘導することを見いだした。本稿では,乳酸・ピルビン酸- GPR31シグナルの生理学的役割を述べる。

スペルミジンとがん免疫

著者: 茶本健司

ページ範囲:P.472 - P.473

 筆者らは,抗老化作用を示すスペルミジンが脂肪酸酸化を担うミトコンドリアタンパク質(MTP)に結合し,脂肪酸酸化を向上させることを発見した。老化T細胞ではスペルミジン濃度が低下しており,脂肪酸酸化能力が減弱していた。PD-1阻害抗体を用いたがん免疫治療モデルによってスペルミジンを併用すると,老化マウスのT細胞ミトコンドリアが回復し,老化により減弱した抗腫瘍効果が回復した。これらの結果は,老化によるスペルミジン減弱がT細胞ミトコンドリア機能の低下の原因の一つになっていることを示している。

代謝介入による抗腫瘍免疫の変化

著者: 鵜殿平一郎 ,   ,   徳増美穂 ,   西田充香子

ページ範囲:P.474 - P.475

 固形腫瘍に浸潤したCD8T細胞(CD8TILs)は,腫瘍退縮に必須である。がん細胞数とCD8TILsの数は数千倍以上の開きがあるが,どのようなメカニズムで大量のがん細胞が死滅するのか,実はよくわかっていない。この問いに対し“がん細胞と免疫細胞の代謝競合”という概念は,シンプルな答えを提示する。要は代謝が旺盛なほうの勝ちで,その意味で代謝介入による抗腫瘍免疫の増強という概念は重要となる。

新規代謝制御分子によるがん免疫制御

著者: 早川芳弘

ページ範囲:P.476 - P.477

 がんの治療成績は分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤などの開発によって大きく改善している。一方で,これらの薬剤の効果予測バイオマーカー,更には薬剤応答性や抵抗性を制御するメカニズムの理解が,より効果的な治療に非常に重要である。本稿では,がん細胞の免疫応答性を制御する新たなメカニズムとして,代謝制御分子グルタチオン-S-トランスフェラーゼA4(GSTA4)の重要性について概説する。

Ⅴ.代謝と老化

NAD代謝による老化制御機構

著者: 内田仁司 ,   中川崇

ページ範囲:P.478 - P.479

 近年,加齢に伴って各種臓器におけるNADレベルが低下することが示され,これによって生じる様々な生体内機能の低下が老化の原因の一つとなっていると考えられる。そのため,NAD代謝が抗老化の標的として注目を集めている。本稿では,加齢によるNAD代謝の変化とそれを介した老化制御,更にはNAD前駆体を用いた抗老化戦略について述べる。

代謝とエピゲノムによる細胞老化の制御機構

著者: 中尾光善

ページ範囲:P.480 - P.481

 細胞老化は持続的な増殖停止の状態であり,炎症性タンパク質などを多量に合成・分泌するため,身体全体の個体老化の重要な要素である。細胞老化には開始期(増殖停止),早期(抗炎症),完成期(炎症と代謝増加),後期(炎症と代謝減少)の4つの表現型バリエーションがあり,細胞内代謝とエピゲノムが協調的に制御している。この観点から,老化過程のメカニズムの理解,加齢性疾患の制御・予防法の促進が期待される。

α-Klothoとカルシウム代謝

著者: 鍋島陽一

ページ範囲:P.482 - P.483

 α-Klotho(α-Kl)はNa,K-ATPase(NaK)と複合体を形成しており,細胞外カルシウム(Ca2+)濃度の低下に速やかに応答してNaKの細胞膜へのリクルートを亢進させ,つくり出されたNaイオンの濃度勾配,膜電位の変化が腎臓でのCa2+の再吸収,脈絡叢を介した脳脊髄液へのCa2+の輸送,副甲状腺でのPTHの分泌を誘導する。また,α-KlはFGFR1の共役受容体としてFGF23が1α-hydroxylaseの発現を抑える機構に関与しており,活性型ビタミンD合成を抑えることにより電解質恒常性の維持に寄与している。

Ⅵ.代謝とオミクス解析

尿酸代謝・痛風のゲノム解析

著者: 豊田優 ,   染谷真澄 ,   菊池理園 ,   松尾洋孝

ページ範囲:P.484 - P.485

 社会的な健康志向の上昇に伴い,尿酸への関心が高まっている。尿酸関連疾患である痛風・高尿酸血症のわが国における患者数はそれぞれ100万人・1,000万人超とされており,尿酸制御に関わる分子機構の全容解明は焦眉の急である。尿酸の代謝・体内動態制御因子の同定は,遺伝学の発展と共に進んできた。他の生活習慣病の場合と異なり,痛風・高尿酸血症では遺伝要因が強く影響することも近年見いだされており,今後の発展が注目されている。

脂質代謝・脳卒中のゲノム解析

著者: 鎌谷洋一郎

ページ範囲:P.486 - P.487

 脳卒中は,現在では日本人の死因の第4位であり,死に至らない場合でも麻痺や高次脳機能障害などの重篤な後遺症が残ることが多いことを考えると,よりよい発症予防策の開発が健康維持のために重要性の高い疾患の一つである。脳卒中の発症には遺伝的要因と環境要因が複雑に絡み合うと考えられているが,本稿ではゲノム解析により解明される遺伝要因について解説する。また,脳卒中のリスク因子として高血圧,脂質異常症,心房細動などの心疾患,糖尿病などが知られている。本稿ではこのうち脂質異常症についても解説を行い,未来のゲノム医療の可能性を考察する。

腎臓機能のゲノム解析

著者: 菅原有佳

ページ範囲:P.488 - P.489

 腎臓機能の代表的指標として糸球体濾過量(GFR)があり,ゲノムワイド関連解析(GWAS)により関連座位が既に多く同定されている。GFRとはまた別の腎機能低下に関連する指標として尿タンパクや尿中アルブミンがあるが,これに関連するGWASは比較的少ない。また,これらの指標に関連する遺伝子座位については人種差がみられるため,日本人集団あるいは東アジア人集団でのゲノム解析が実施されることも重要である。

薬剤性肝障害の遺伝要因のメカニズム解明:ポリジェニックリスクスコアの実験的活用

著者: 小井土大

ページ範囲:P.490 - P.491

 薬剤性肝障害(DILI)の遺伝的リスクを予測するポリジェニック・リスクスコア(PRS)を開発し,臨床データと実験的評価系の両方で予測有用性を確認した。更にPRSを活用した実験的解析により,DILIの遺伝的要因の生物学的解釈と予防可能性を示した。この“Polygenicity in a dish”戦略は,様々な多因子疾患研究に有効と期待される1)。本稿では特に情報科学手法に焦点を当て,解説する。

アルコール代謝とゲノム疫学

著者: 小栁友理子 ,   松尾恵太郎

ページ範囲:P.492 - P.493

 飲酒行動に遺伝性があることはよく知られている。日本人の飲酒行動に強く関連する遺伝要因にALDH2 rs671多型があるが,rs671多型は飲酒行動のみならず飲酒関連がんの感受性に大きな影響を与える。また,ゲノムワイド関連解析(GWAS)により,飲酒行動と関連するALDH2以外の複数の座位が同定されている。更に,rs671遺伝型層別GWASにより,日本人の飲酒行動に関連する新たな遺伝的構造が明らかになった。

糖尿病のオミクス解析

著者: 鈴木顕

ページ範囲:P.494 - P.495

 近年,ゲノム研究の規模は大幅に拡大しており,ゲノムワイド関連解析(GWAS)は疾患と関連のあるバリアント(遺伝子変異)の同定に大いに貢献している。また,機能的オミクス解析,特に1細胞解析の発展は目覚ましく,疾患関連バリアントが機能する細胞種を特定し,その働きのメカニズム解明に大きく貢献している。本稿では,2型糖尿病に関する多民族大規模ゲノム解析を1細胞解析アトラスと組み合わせた研究を紹介する1)

糖尿病合併症のゲノム解析

著者: 前田士郎

ページ範囲:P.496 - P.497

 糖尿病性腎臓病(DKD),糖尿病網膜症,糖尿病性神経障害の発症には何らかの遺伝要因の関与が示唆されている。DKDでは,微量アルブミン尿の患者に対して積極的な集学的治療により正常アルブミン尿への寛解あるいは顕性腎症への進展が可能とされており,糖尿病合併症疾患感受性に関する情報は,糖尿病診療において極めて重要と考えられる。しかしながら,現時点で得られている情報は限定的で十分とは言えない。本稿では,糖尿病合併症のゲノム研究の現状と課題を概説する。

高血圧のゲノム解析

著者: 加藤規弘

ページ範囲:P.498 - P.499

 大規模なゲノムワイド解析により,高血圧・血圧の感受性遺伝子座が1,000か所以上見つかってきた。従来,血圧の遺伝率は30-50%と推定されてきたが,これらの遺伝子座を合わせても,まだ集団中の血圧値分散の一部しか説明できない。高血圧・血圧は相当複雑な多因子制御によると推定されているが,今後もビッグデータ解析が更に進展して分子的機序の探究が進み,ゲノム,オミクス情報の臨床的活用が期待されている。

心不全のオミクス解析

著者: 坂田泰彦

ページ範囲:P.500 - P.501

 現在,心不全領域では末梢血のプロテオーム解析,心臓組織の単一細胞(核)トランスクリプトーム解析を中心に多くの知見が集積されつつある。また最近,心臓組織の単一細胞(核)情報と空間情報を統合した新たなマルチトランスクリプトーム解析結果が報告され注目を集めている。今後心不全領域において,空間情報も含め異なる層のオミクス情報を統合したマルチオミクス解析で大きな成果が上がることが期待されている。

病原体ゲノム情報を考慮した感染症のゲノム解析

著者: 大前陽輔

ページ範囲:P.502 - P.503

 ゲノム解析による感染症の遺伝要因の探索において,ヒトに感染する病原体側のゲノムの多様性を考慮する必要性が明らかになってきている。筆者らは結核において,宿主である結核患者のヒト全ゲノム情報と病原体である結核菌の全ゲノム情報の両方を用いたゲノムワイド関連解析を,タイ人結核コホートにおいて世界で初めて実施した。その結果,特定の病原体群との遺伝学的相互作用が結核の病態形成に寄与していることが示唆されている。

がんとメンデルのランダム化解析

著者: 岩崎基

ページ範囲:P.504 - P.505

 メンデルのランダム化解析(Mendelian randomization;MR)は,ゲノム情報を用いた操作変数法による解析であり,未知・未観察の交絡因子の影響を解析的に制御する手法である。操作変数の条件を満たすsingle nucleotide polymorphism(SNP)を用いたMR解析は,従来の観察研究において問題となる残余交絡や因果の逆転の影響を受けにくく,その結果はがんのリスク因子の因果関係評価においてより確からしいエビデンスとして解釈が可能である。

がん悪液質のメタボロームおよびプロテオーム

著者: 青木正博 ,   小島康

ページ範囲:P.506 - P.507

 がん悪液質は骨格筋量の減少を特徴とする複合的な代謝性疾患と考えられているが,その代謝異常の本態は未解明である。がん悪液質の発症機序,診断バイオマーカーの同定,予防・治療戦略の開発を目指して,がん患者や動物モデルの血液・組織試料を用いたメタボローム解析,プロテオーム解析が活発に実施されている。

NMRを活用したメタボローム解析とバイオバンク

著者: 森崎隆幸

ページ範囲:P.508 - P.509

 代謝物を網羅的に解析するメタボローム解析で核磁気共鳴分光法(NMR)による解析が行われはじめた。そのハイスループットな解析は大規模疫学解析に応用され,バイオバンクで収集された試料を用いて,種々の疾患や新興感染症について疾患リスク評価に向けた検討が進められている。

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目次

ページ範囲:P.385 - P.386

財団だより

ページ範囲:P.510 - P.510

次号予告

ページ範囲:P.511 - P.511

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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