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増大特集 代謝
特集「代謝」によせて
著者: 『生体の科学』編集委員一同
所属機関:
ページ範囲:P.387 - P.387
文献購入ページに移動 今から100年前の1920年代から約30年の間,代謝研究は目覚ましい発展を遂げた。Meyerhofらによる乳酸代謝の発見とそれに続く解糖系の確立,Cori夫妻らによる糖新生回路の発見,KrebsによるTCAサイクルの発見など重要な代謝経路の多くはこの時代に確立した。また,1920年代に発見されたATPは,その後筋収縮における役割などからエネルギー通貨として認識されるようになり,1940年代にはLehningerらにより酸化的リン酸化によるATP合成系が証明され,Mitchellの化学浸透圧仮説,更にはATP合成酵素の同定へとつながっていった。更に,Banting,Best,Macleodによりインスリンが発見され,糖尿病の病態における意義が確立したのもこの時代であり,その3年後に上梓された柿内三郎著「生化學提要」(1925)には,既に「膵臓除去によりて糖尿病の起るは膵臓内Langerhans島嶼より分泌せらるる覚醒素Insulinの缼如に基因す」と記載されている。
こうして20世紀前半に百花繚乱の発展を遂げた代謝学はその後,教科書的知識として定着し,それに続く分子生物学・遺伝子工学全盛期には,多くの研究者の眼には「既に確立し終えた学問分野」と映っていたように思われる。しかし,「メタボリック症候群」という概念が生まれた1990年代後半あたりから,種々の病態研究において代謝学が再び脚光を浴びるようになる。2005年に創刊された雑誌『Cell Metabolim』のBrown & Goldsteinをはじめとするエディターらによる巻頭言“Cell Metabolism :Why, and why now?”には「代謝学は今やルネサンス期にある」と述べられているが,その要因として,多様な臓器間ネットワークやエピゲノム制御などを介して代謝調節が多くの生理機能や病態に深く関与していることが明らかになってきたこと,オミクス解析や構造生物学・イメージングなど新技術の急速な発展によってそのメカニズムが多様な角度から解明されてきたことなどが挙げられる。それに加えて新しい分野との融合研究が様々な形で展開しており,黎明期から100年経った今,「代謝学」はまさにルネサンスを迎えている。
こうして20世紀前半に百花繚乱の発展を遂げた代謝学はその後,教科書的知識として定着し,それに続く分子生物学・遺伝子工学全盛期には,多くの研究者の眼には「既に確立し終えた学問分野」と映っていたように思われる。しかし,「メタボリック症候群」という概念が生まれた1990年代後半あたりから,種々の病態研究において代謝学が再び脚光を浴びるようになる。2005年に創刊された雑誌『Cell Metabolim』のBrown & Goldsteinをはじめとするエディターらによる巻頭言“
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