特集 新組織学シリーズⅣ:骨・軟骨
Ⅲ.骨・軟骨疾患のメカニズム
進行性骨化性線維異形成症
著者:
片桐岳信1
塚本翔1
倉谷麻衣1
所属機関:
1埼玉医科大学医学部ゲノム基礎医学
ページ範囲:P.590 - P.594
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「筋肉が骨になる」と表現されるヒトの疾患がある。手塚治虫氏の「BLACK JACK(ブラック・ジャック)」という医師が主人公の作品のなかで,「からだが石に…」というストーリーで取り上げられた疾患としても知られる1)。表現されるように,この疾患が発症・進行すると,全身で本来は存在しないはずの骨組織が形成され,関節などが癒合して自由に身体を動かすことが困難となる。本疾患は,正式には“進行性骨化性線維異形成症”(fibrodysplasia ossificans progressiva;FOP, OMIM #135100)と呼ばれ,古くは“進行性化骨性筋炎”(myositis ossificans progressiva)とも呼ばれた遺伝性疾患である。2006年に責任遺伝子としてACVR1/ALK2が同定され,FOP症例に共通のアミノ酸残基の変異を伴う遺伝子変異が発見された2)。ACVR1/ALK2遺伝子がコードするタンパク質ALK2は,bone morphogenetic protein(BMP)の膜貫通型キナーゼ受容体の一つであった。これまでにFOP症例から見いだされたALK2のアミノ酸変異は,すべて細胞内領域に位置する。変異したALK2受容体は,リガンドとして異所性骨誘導活性を有するBMPだけでなく,異所性骨化を誘導しないActivin Aと結合しても骨形成シグナルを活性化することが,FOPの異所性骨化に重要と考えられる。最近,ALK2受容体の細胞内動態の解析から,FOPにおける異所性骨化の発症機序が明らかになった。