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特集 脳と個性 Ⅲ.“個性”の実験的理解
ニューロンの段階的発達と“個性”—
著者: 星野幹雄1
所属機関: 1国立精神・神経医療研究センター神経研究所病態生化学研究部
ページ範囲:P.51 - P.56
文献購入ページに移動多くの人は,“個性”なるものが脳に宿っていると考えているだろう。脳はある種のブラックボックスであり,様々な内的・外的インプットを受容すると,それに応じて多様な行動を表出(アウトプット)する。違う人ならば,同じインプットを受けても異なる行動を表出するだろうし,また同一人物であっても違う行動をとることもある。ただ,それぞれの個々人によって,そのブラックボックスの“インプットからアウトプットに至る何らかの傾向”のようなものが存在することを,われわれは日々感じている。そしてその“傾向”を感じるとき,われわれはそこにその人の“個性”を感じとる。そのため,“個性”を理解するためには,その傾向を生み出す脳(ブラックボックス)のしくみ,つまり行動を表出させるより上位の脳内原理を理解しなくてはならない。
脳というブラックボックスは極めて複雑かつ精緻に構成されており,それが高度な精神神経活動を可能にしている。その最小単位はニューロンであり,ヒトの脳神経系全体で約1,000-2,000億個,大脳皮質だけでも200億個も存在する。また,ニューロンは,興奮性ニューロンと抑制性ニューロンに大まかに分類されるが,それらもそれぞれの配置,形態や電気生理学的特性などによって,より細かい種類へと分類される。こうした様々な種類のニューロンの一つひとつが,樹状突起と軸索を複雑に伸ばし,複数のニューロンとシナプスを介して結合し,複雑精緻な神経ネットワークを構成する。例えば,ロケットはあらかじめ決められた膨大な種類と数の部品を,厳密な設計図に基づいて組み上げることによってつくりだされる。しかし,脳はゲノムに書き込まれた基本原理に従いはするが,ある程度,自律的・自己組織化的につくりあげられる(一部,環境要因の介入もある)。そのため,脳という構造体は,すべての内部構造が把握されているロケットとは対照的に,中がどうなっているかわからないブラックボックスなのである。それを理解するために,これまでに多くの脳神経科学者たちが,その構造(解剖学)や機能(生理学)を研究してきた。
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