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雑誌目次

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生体の科学75巻2号

2024年04月発行

雑誌目次

特集 生命現象を駆動する生体内金属動態の理解と展開

特集「生命現象を駆動する生体内金属動態の理解と展開」によせて

著者: 神戸大朋 ,   古川良明

ページ範囲:P.100 - P.100

 酸素運搬,薬物代謝,光合成など,生命機能を実現する多くの化学反応には,鉄や亜鉛,銅といった微量に存在する金属が必要であることはよく知られている。生体内に存在するこれらすべての金属を合わせても,その存在量は重量比にして1%にも満たないが,ヒトの体内には,鉄結合タンパク質が約400種,亜鉛結合タンパク質が約3,000種,銅結合タンパク質が約50種存在すると推定されている。にもかかわらず,ヘムタンパク質やZnフィンガータンパク質のように,金属結合タンパク質として研究されてきたタンパク質はごく少数で,ほとんどのタンパク質は,金属との結合は意識されずにその機能が議論されている。

 生体内金属動態に関わる分子として,金属イオンを細胞内に取り込む膜タンパク質(トランスポーター)や,細胞内で金属イオンを運搬するタンパク質(金属シャペロン)が,1990-2000年代においてモデル生物を用いた遺伝学的解析を中心に数多く同定された。その後,生体内で特異的に金属を検出できる蛍光プローブの開発が進み,金属動態の理解は飛躍的に進展した。これらの進展と同時に,生命現象において重要な役目を担う微量金属の作用や細胞内動態をタンパク質レベルで解析できるようになり,分子・細胞・個体レベルでの金属の役割を議論できる素地が確立されつつある。一方で,亜鉛過剰が銅欠乏を引き起こし,その結果鉄欠乏(貧血)となるように,多くの金属はお互いに影響を及ぼし合っていることも示されることとなり,結果として,幾つもの問いが新たに現れてきた。「細胞内では,これら多数の金属結合タンパク質の機能を,必要に応じてどのように正しく制御しているのであろうか?」もその一つである。生命金属研究は,様々な生命現象を真に理解するには避けて通ることのできない普遍的な問いへの挑戦であり,今まさに進展させるべき研究領域となっている。

Ⅰ.細胞が金属種を選別して取り込むメカニズム

亜鉛トランスポーターZIPとZNTによる金属認識のメカニズム

著者: 福中彩子 ,   藤谷与士夫

ページ範囲:P.101 - P.106

 高等生物の細胞内亜鉛ホメオスタシスは,亜鉛トランスポーターZIPとZNT,更にはメタロチオネインにより制御されている。ZIPは14種類,ZNTは10種類機能しており,ZIPは細胞外あるいは細胞内小器官から細胞質へと亜鉛を輸送し,ZNTはこの逆向きに亜鉛を輸送する。近年,クライオ電子顕微鏡の発達により,次々と膜タンパク質の構造が明らかにされている。クライオ電子顕微鏡は,X線結晶解析や核磁気共鳴(nuclear magnetic resonance;NMR)とは異なり,空間的な制限のないより天然に近い状態を解析できるため,金属イオンとタンパク質との構造変化の動的解析に優れている。このような構造解析やAlphaFold2などの機械学習,更には計算科学を統合した解析により,ZIPの基質特異性がどのように決定されているかも明らかにされつつある1)。本稿では,ZIPとZNTによる金属認識メカニズムに関して最新の知見を紹介する。

TRPC6チャネルによる亜鉛イオン動員がもたらす心筋収縮力の増強メカニズム

著者: 古本裕香 ,   加藤百合 ,   西田基宏

ページ範囲:P.107 - P.111

 牡蠣やレバーなどに多く含まれる亜鉛が健康維持に重要であることは広く知られている。亜鉛は必須ミネラルに分類されており,亜鉛欠乏は様々な病態・疾患の発症や進展を招く原因となり得る(図1)。本稿では,心臓における亜鉛イオン(Zn2+)の生理的役割,およびZn2+に着目した心不全治療の新たな可能性について概説する。

膜貫通型鉄還元酵素Dcytbの構造機能解析により明らかになった細胞への鉄取り込みメカニズム

著者: 澤井仁美

ページ範囲:P.112 - P.115

 鉄はすべての生物の生命維持に必須の金属元素であるため,鉄なしで生きていける生物はいない。ヒトは食物に含まれる鉄イオンやヘム鉄などを栄養素として小腸上部(十二指腸)の粘膜上皮細胞から吸収し,酸素の運搬貯蔵,エネルギー産生,物質代謝などの重要な生理機能をつかさどる酵素などの活性中心として活用している1)。本稿では,筆者らが明らかにした膜貫通型鉄還元酵素(duodenal cytochrome b;Dcytb)の構造と機能2)を中心に,鉄栄養素としての鉄イオンの取り込み機構について概説する。

SWATH-MS法を利用した金属輸送体の機能解析

著者: 赤井美月 ,   川見昌史 ,   内田康雄

ページ範囲:P.116 - P.121

 mRNA発現量は,タンパク質の発現量に必ずしも相関しない。機能する場(オルガネラなど)における存在量を知るためにも,タンパク質発現量は必須の情報となる。Sequential window acquisition of all theoretical fragment ion spectra mass spectrometry(SWATH-MS)法は,網羅的にタンパク質の発現量(5,000-10,000種類程度)を定量できる技術である。極めて精度が良く,1.1倍程度の発現量変化もしっかり有意差を示すほど個々のタンパク質の発現量変化を定量でき,ライフサイエンス領域におけるプロテオミクスの価値を飛躍的に上げるものと期待されている。本稿では,SWATH-MS法について概説すると共に,金属輸送研究への応用例について紹介したい。

Ⅱ.タンパク質を機能化する生体内での金属挿入メカニズム

銅シャペロンタンパク質CCSによる細胞内銅動態の制御メカニズム

著者: 古川良明

ページ範囲:P.122 - P.126

 必須微量元素の一つである銅は,タンパク質と結合することで酵素活性や電子伝達の中心として機能し,呼吸や鉄代謝,活性酸素の除去といった重要な役割を果たす。一方で,銅イオンそのものは毒性が高く,活性酸素の発生源となったり,他の金属イオンと置き換わることで酵素機能を喪失させたりする。つまり細胞内では,毒性の高い危険な銅イオンを安全に目的タンパク質へ送り届けるシステムが必要である。本稿では,銅イオン運搬システムを担う銅シャペロンタンパク質CCSに焦点を当て,細胞内銅動態を制御するメカニズムの一端を紹介する。

鉄シャペロンによる鉄結合タンパク質の細胞内活性化制御メカニズム

著者: 𥱋取いずみ ,   岸文雄

ページ範囲:P.127 - P.132

 鉄は人体において最も多く存在する遷移金属であり,酸素運搬・エネルギー産生など生命活動の必須元素である。これは,鉄が容易に電子の授受を伴う酸化還元反応の活性中心として機能することに依存する。一方,鉄は酸素との強い反応性ゆえに活性酸素(reactive oxygen species;ROS)の産生源となり,細胞毒性を惹起する。特に鉄イオンとして単独で存在することは,ROS産生を惹起する最も危険な状態である。そこで,血液中では鉄キャリア分子トランスフェリン(transferrin;Tf)と結合して,細胞内では過剰鉄を低毒性のFe3+として鉄貯蔵タンパク質フェリチンに隔離することで,鉄毒性から臓器・細胞を守るしくみを持つ。しかし,細胞質内の還元状態では,鉄は毒性が高く水溶性のFe2+として存在し,鉄輸送体はFe2+のみを輸送可能である。更に,鉄依存性酵素はFe2+を補因子として要求することから,細胞質内で安全にFe2+を分配するキャリア分子の存在が必須であると,長きにわたり考えられてきた。

 2008年,“鉄シャペロン”の概念が提唱され,細胞内での新たな鉄分配機構が明らかになった。鉄シャペロン分子PCBP[poly(rC)binding protein]は,鉄輸送体との間での鉄の授受,酵素への鉄挿入など重要な役割を担い,細胞質内で安全に鉄を輸送する重要な因子として機能する。

ヘム選択的プローブを利用した細胞内ヘム動態の理解

著者: 平山祐

ページ範囲:P.133 - P.137

 ヘムは鉄(Ⅱ)イオン(Fe2+)とポルフィリンから成る錯体であり,地球上のほぼすべての生物が有する。これほど多く生命活動に使用されている金属錯体はおそらくほかになく,動植物を問わず,生体内における機能はこれまで多くの研究者にとって興味深い研究対象となってきた1)。われわれヒトにおいては,Fe2+とプロトポルフィリンⅨの錯体であるヘムb(以下,この錯体をヘムと呼ぶ)が主に利用され,酸素運搬,エネルギー産生,電子伝達だけでなく,カタラーゼなど過酸化物の除去に関わる酵素群や,シトクロムP450のような薬物代謝酵素など,様々な酵素の補因子として機能している。一方,生体内・細胞内にはタンパク質と結合していない,あるいは弱く結合している“遊離ヘム”も存在しており,これらは生物が“利用可能な状態のヘム”であると言える。実際,Bach1に代表されるような,ヘムの結合により制御される転写因子が報告されており2),これは細胞内の遊離ヘム濃度の変動が,細胞内シグナルの制御に関わっていることを示唆していると言える。しかしながら,現在,ヘムタンパク質に関わる生物無機化学・生化学的な知見に比べ,遊離ヘムの濃度変動や,細胞内動態に関しては,ほとんどわかっていない1)(図1)。

亜鉛イオンが制御するタンパク質品質管理の新たなメカニズム

著者: 天貝佑太 ,   稲葉謙次

ページ範囲:P.138 - P.142

 亜鉛は必須微量元素であり,生体内で多くのタンパク質と相互作用し多様な機能を持つ。細胞内および各オルガネラ内の遊離亜鉛イオン濃度([Zn2+])は,多くの亜鉛輸送体膜タンパク質によって調節されると考えられているが,その詳細については不明な点が多い。本稿では,筆者らが最近解明した,ゴルジ体における亜鉛恒常性維持機構と,それによって制御される初期分泌経路タンパク質品質管理について紹介する。

Ⅲ.金属種の置換によるタンパク質機能の新たな制御

分泌経路における銅酵素と亜鉛酵素の活性化機構

著者: 神戸大朋

ページ範囲:P.143 - P.147

 細胞膜上や細胞外,細胞小器官内腔で機能する金属酵素は,分泌経路において,金属トランスポーターから金属(補因子)を獲得して,アポ型(不活性型)からホロ型(活性型)へと変換されると考えられる。本稿では,金属酵素のなかでも特に銅酵素と亜鉛酵素に焦点を当て,近年明らかになりつつある金属トランスポーターを介した活性化機構について概説する。

カルコゲン元素である硫黄,セレンおよびテルルに対する代謝機構の共有と識別

著者: 小椋康光

ページ範囲:P.148 - P.152

 カルコゲンと呼ばれる第16族元素は,酸素(O),硫黄(S),セレン(Se),テルル(Te),ポロニウム(Po),リバモリウム(Lv)から構成される。これらのうち,硫黄,セレンおよびテルルは,比較的似ている物理化学的性質を有している。硫黄は完全な典型元素であるが,セレンは典型元素でありながらも遷移金属としての性質もわずかに持ち合わせており,テルルに至っては典型元素と遷移金属の物理化学的性質を併有しており,類金属や半金属とも呼ばれる。典型元素と遷移金属の物理的および化学的性質を併有することにより,セレンやテルルは産業的にも有用性が高い元素であるが,生物学的にもユニークな作用を有している。

 一方,生体内で同族の硫黄に比べて,セレンはおよそ10,000分の1程度しか存在していない。また,テルルは必須元素ではないために,特段の曝露がなければ,理論的には生体内に存在していないことになる。生体に微量しか存在しない元素の生物学的作用を理解するためには,生体微量元素が生体内でどのような化学形態で存在し,機能するのか,あるいは生体成分と相互作用を発揮するのかという定性性と定量性を同時に把握することが必要である。そこで,この目的に用いられるのがスペシエーション(speciation)と呼ばれる化学形態分析である。実際のスペシエーションでは,分離の手段としてもっぱら高速液体クロマトグラフィー(high performance liquid chromatography;HPLC)が用いられ,元素特異的な検出の手段として誘導結合プラズマ質量分析法(inductively coupled plasma mass spectrometry;ICP-MS)が用いられることが多い1-3)。図1にこのLC-ICP-MSの概念図を示した。筆者らの研究グループでは,このLC-ICP-MSを基盤技術として用いて,カルコゲンの代謝機構の解明を行っている。本稿では,硫黄,セレンおよびテルルに対する代謝機構において,これらが生物にどのように識別されているのか,あるいはされていないのかを紹介したい。

モリブデン中心を代替する生命金属

著者: 藤枝伸宇

ページ範囲:P.153 - P.157

 生命金属のうち,モリブデンは前周期の遷移金属であり,鉄や銅などの後周期の遷移金属とはかなり性質が異なっている。そのため,水中でオキソ酸の状態で存在し,取り込み,貯蔵,酵素への導入など,カチオン性の後周期遷移金属とは全く異なることが知られている。類似の生命金属としては,バナジウムやタングステンがあり,そのオキソ酸,バナジン酸,モリブデン酸とタングステン酸は互いに物理化学的性質が類似している。特に,モリブデン酸とタングステン酸は分子半径までほぼ同じであり,「生命がなぜ,どのように識別および使い分けをするのか」という疑問は,この分野においてライトモチーフになりつつある1)

 本稿では,酵素におけるモリブデンとタングステン,更にはバナジウム中心の性質,取り込み,置換について触れ,この問いに対する答えを部分的にではあるが述べたい。

Ⅳ.金属を利用した新奇機能の創出と創薬への応用

バイオミネラリゼーションに学ぶ生体金属の機能と可能性

著者: 鈴木道生

ページ範囲:P.158 - P.163

 生体を構成する生体分子の主成分は水と有機物である。しかしながら,水と有機物だけでは多くの生体反応を進めることはできず,様々な無機元素が重要な役割を担っている。特に,生体の保護,保持,ミネラルの貯蔵のための生体鉱物化現象(バイオミネラリゼーション)では,多量の無機元素を局所的に沈着させることが知られている。例えば,ヒトの歯や骨はリン酸カルシウム鉱物で形成され,甲殻類や貝類の殻は炭酸カルシウムで形成される。また,バクテリアには酸化鉄の粒子を沈着させるものや,藻類や海綿はシリカから成る骨格を有する。このようなバイオミネラリゼーションの形成においては,特殊な有機物が鉱物沈着を制御することで,緻密で高機能な構造を実現していると考えられている。

 このなかでも,炭酸カルシウムのバイオミネラルは地球上のバイオマスとしても最も多く,また炭素循環の観点からも注目されている。本稿では,わが国で真珠養殖に利用されるアコヤガイをモデルに(図1A),炭酸カルシウムのバイオミネラリゼーションについての研究と,応用の可能性についての研究を紹介する。

黄色ブドウ球菌の鉄取り込み機構の解明と革新的抗菌戦略の開発

著者: 中木戸誠 ,   津本浩平

ページ範囲:P.164 - P.169

 細菌感染症に対する抗菌剤としては,安価で広範な細菌種に対して奏効する抗生物質が第一選択薬として広く用いられている。しかし,近年,抗生物質の乱用による薬剤耐性菌の懸念が高まっており,世界的に極めて深刻な問題として認識されている1)。そこで,抗生物質に代わる抗菌剤開発が喫緊の課題となっており,様々な抗菌戦略が検討されている。本稿では,高い薬剤耐性の獲得能を有する黄色ブドウ球菌を対象とし,宿主から栄養素として鉄を取り込むために発達させてきたシステムと,それを標的とする抗菌戦略について,筆者らの研究を中心に紹介する。

生物学的環境における合成金属触媒による非天然化学変換

著者: 岡本泰典

ページ範囲:P.170 - P.175

 酵素は様々な化学反応を促進し,生物学的プロセスを調節することで,生命の維持に欠かせない重要な役割を果たしている。酵素の多くは,その活性中心にZn,Mg,Fe,Mnのような第一列の遷移金属を有しており,これらの遷移金属はLewis酸や酸化還元中心として機能している。一方で,有機合成化学で使用される遷移金属は,Pd,Ru,Rh,Ir,またはAuなど,自然界ではあまり採用されてこなかったものを含んでおり,様々な非天然化学変換反応が開発されてきた。これらの非天然化学変換反応は,化学物質や医薬品の合成において不可欠であり,合成金属触媒の重要性はますます増している。

 これらの合成金属触媒が,酵素と同じように細胞・生体内で利用可能となれば非常に魅力的である。なぜならば,薬剤のその場合成が可能となり,副作用の低い治療法となる可能性を秘めているためである。一方で,合成金属触媒を細胞や生体内で活用することは次の理由から容易ではない。①通常,合成金属触媒は有機溶媒中で使用されるが,細胞や生体内は水系環境である,②細胞・生体内は合成金属触媒を失活させるチオール,アミン類など多種多様な分子の存在する夾雑環境であるためである。しかし,多くの研究者の貢献によって,合成金属触媒による細胞内での非天然化学変換による生体分子の検出,薬物の局所的活性化,遺伝子発現誘導など,細胞・生体機能制御が実現され始めている。ただし,細胞・生体内に取り込まれた基質・生成物,触媒量を明確に定義することが難しいため,収率や触媒回転数など反応効率に関する定量的なデータが得られないことが多い。したがって,反応が触媒的か化学量論的かの議論には注意が必要である。

解説

—第2回生体の科学賞 受賞記念論文—本態性高血圧発症の脳内機構

著者: 野田昌晴

ページ範囲:P.176 - P.183

 高血圧は日本の成人の約4,000万人が罹患しており,児童においても年々増加傾向がみられる。高血圧は心血管病の最大の危険因子であり,毎年約10万人が高血圧を原因とする脳卒中や循環器病によって亡くなっていると推定される。日本人の高血圧のほとんど(〜90%)は原因不明の“本態性高血圧”(“一次性高血圧”とも呼ばれる)である。高血圧の治療には,利尿剤,血管拡張剤,神経遮断薬や,アンジオテンシンⅡ(AngⅡ)などの血圧上昇作用物質の生成,作用を抑える降圧剤が用いられるが,その効果には限界がある。

 高血圧は食塩の過剰摂取,肥満,精神的ストレス,睡眠時無呼吸,加齢など,様々な要因で起こることがわかっている。様々な要因で起こる高血圧の発症機序を合理的に説明するため,最近15年あまりの間に,交感神経制御中枢の恒常的活性化による末梢血管系や心臓・腎臓機能の変調がその根底にあると考えられ始めた(神経性高血圧)。本稿では,交感神経系の恒常的活性化をもたらす原因とそのメカニズムについて最近の知見を概説する。

実験講座

脳を標的とするAAVベクターの最新動向

著者: 平井宏和

ページ範囲:P.184 - P.189

 アデノ随伴ウイルス(adeno-associated virus;AAV)ベクターは,生命科学研究や難病の遺伝子治療に不可欠なものとなりつつある。10年ほど前まではユビキタスなプロモーターを搭載し,非特異的に遺伝子発現するAAVを直接組織に注入していたが,近年,様々な標的細胞種に特異的に遺伝子発現するAAVや,静脈内投与で血液脳関門を効率的に透過するAAVが開発され,応用範囲が爆発的に広がっている。本稿では,脳を標的としたAAVベクター遺伝子導入技術の最近の進歩を紹介する。

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目次

ページ範囲:P.99 - P.99

お知らせ

ページ範囲:P.189 - P.189

書評

著者: 齋藤信也

ページ範囲:P.190 - P.190

財団だより

ページ範囲:P.191 - P.191

財団だより

ページ範囲:P.192 - P.192

次号予告

ページ範囲:P.193 - P.193

あとがき

著者: 松田道行

ページ範囲:P.194 - P.194

 「士別れて三日なれば,即ち更に刮目して相待すべし」。亜鉛,銅,鉄代謝というと何かしら古い学問のような気がしておりましたが,近年蓄積された生体金属に関する新しい知見に圧倒されました。恥ずかしながら,全タンパク質の1割に亜鉛が含まれるとは知りませんでしたし,金属イオンのシャペロンがこんなにあるとも全く認識しておりませんでした。更に,自然界では使われない鉛,ルビジウムなどの遷移金属を使った非天然化学反応など,新しいバイオ技術の展開も目覚ましいものがあります。また,野田先生には「生体の科学賞」の授賞対象となったナトリウムイオン検知機構と高血圧に関するこれまでの卓越した業績をまとめていただき,生体と多種多様な金属イオンとの関わりを網羅的にかつ詳細に解説いただいた特集号になったと自画自賛しております。退職間際になってこういう話をするのは忸怩たる思いですが,専門外の分野はやっぱり日本語の総説を読むほうが楽しく頭に入るとつくづく思います。本特集を頑張って宣伝したいと思います。

 最後になりましたが,ご多忙中にもかかわらずご寄稿いただいた諸先生方,AAVベクターの動向を解説いただいた平井先生にも改めてお礼申し上げます。欧米ではウイルスベクターの作製を請け負う研究機関が幾つかあります。群馬大学のウイルスベクター開発研究センターの将来も楽しみです。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

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