icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

生体の科学8巻1号

1957年02月発行

雑誌目次

巻頭言

欧文論文の発表

著者: 時実利彦

ページ範囲:P.1 - P.1

 ミネソタ大学の図書館はその内容が充実している点ではアメリカでも有名だと聞いていたが,利用してみてなるほどと感心した。殊に定期刊行の雑誌類が完備しているのには驚いた。医学関係の雑誌は英,独,仏は勿論,イタリヤ語,スペイン語,ロシヤ語……と殆ど世界各国からきていた。残念なことには,日本で発行されているものは3,4册の英文の雑誌だけであつて,日本語の雑誌は1册も見当らなかつた。従つて,雑誌を通じて理解される日本の研究業績は,僅かな英文雑誌に発表されたものに限られているわけであつて,日本で行われている数多い貴重な業績の何十分の一しか外国人の眼にとまらないことになつている。
 ロサンゼルスのカリフォルニヤ大学のBiomedical Libraryに始めて行つた時,司書の婦人がそこにきていた日本語の医学雑誌を2册みせてくれた。恐らく寄贈雑誌であろう。きれいに製本されていたが,誰もみた様子はなくまた1回も借り出されていなかつた。司書孃は好意的にみせてくれたのであろうが,ひがめかも知れないが,私には堪えがたい屈辱感をいだかされた。

綜説

高分子電解質

著者: 大沢文夫

ページ範囲:P.2 - P.16

 多数の電荷をもつた巨大分子,高分子電解質(分子)(Polyelectrolyte(Molecule))-高分子イオン(Macro Ion)-は巨大分子としての特性と電解質としての特性とを併せもつている。そして更に分子の電荷の増減がその形状の変化をおこし,形状の変化が電荷の増減をもたらし,高分子電解質特有の性質が生まれる。この特徴から,高分子電解質は筋肉伸縮現象を荷うのにふさわしいものとして,大きくいえば生体におけるMechano-Chemical Systemの実体たるにふさわしいものとして注目されてきた。実際,合成の鎖状高分子電解質で作つたゲルは,その電荷の増減とともに伸縮し,筋肉モデルの名をつけられている。
 この小論の目的は,高分子電解質溶液の性質,溶液中の高分子イオンの状態,高分子イオンと低分子イオンの相互作用,高分子イオン同志の相互作用等について,一つの立場からのべることである。

解毒の酵素学的考察

著者: 中尾真

ページ範囲:P.17 - P.23

 生化学は,他の医学の領域から幾分遠ざかつている。その内容と,学問の歴史的な段階から云つて,必然性もあるであろうが,一つには生化学に携つている人達の努力がたりないと云う事にもよつている。
 解毒と云う問題は,生化学で扱つて来た部門の中で特に他領域と深い関係のあるものの一つである。特にその事を意識して,観点を拡げて概観を試みた。

論述

"SHの進歩"その後(続)

著者: 平出順吉郎

ページ範囲:P.24 - P.35

 まえがき
 第7巻第5号の本誌に"SHの進歩"その後──と題する綜説を書いたが,内容の主立つたものは"RNAによる蛋白賦活"ならびに"放射線治療"の両データであつた。とくに前者について被追試者の立場にあるアメリカ国立ガン研究所のJesseP.Greenstein博士も我々の成果に対し大きな関心と満足をもつことが通信で判明したが,さらにSH研究の総本家というべきシカゴ大学のE.S.Guzman Barron教授も我々の研究とくに上の"リボ核蛋白の賦活構造"につよい興味を抱き,教授の研究室で最近着手したばかりの"蛋白の生合成過程における酵素SH基の役割"の研究の中に我々のデータをとり入れることが教授の手紙で判つた。なお無機のSH化合物としてのハイポを使つた研究も面白く感ぜられたように見受けられたが,以上の点をこゝに追加紹介しておきたい。
 さて現在執筆しつゝある"続篇"には海外におけるCoASH の新発展に重点をおいて解説するが,同時に実験的糖尿病ならびに抗生物質作用機序の基礎的な一面に対してSHの"演じうる役割"についても想像を混ぜ込んだ討論を試みたいと思う。専門家の批判を仰ぎうれば幸いである。

報告

赤手かに心筋活動電位

著者: 入沢宏 ,   入沢彩 ,   二宮石雄

ページ範囲:P.36 - P.39

 Coraboeuf & Weidmann(1949 a,b.)及びWoodbury,Woodbury & Hecht(1950)以来,単一心筋の細胞内電極による研究は頗る多い。即ち,蛙心室(Woodbury et al 1951),亀心室(Weidmann 1956),哺乳類ではプルキニエ繊維(Draper & Weidman 1951,Trautwein 1953),犬心室(松田1955,1956),心房筋(Burgen et al 1953,Hoffman et al 1954)がその静止電位及び活動電位を測定した。
 然し,無脊椎動物では未だ斯様な研究をみない。Draper et al(1951)はアメフラシ心に微小電極法を試みたが,針がすぐ抜けてしまつたと記載している。以下甲殻類の一種に就いて,最近筆者等が行つた測定結果を述べ,従来行われた諸観察との比較を試みたい。

——

ポメラート教授(2)

著者: 中井準之助

ページ範囲:P.40 - P.42

 アメリカ人の仕事振りを見た人達の多くが口にすることは,とも角彼等がよく働くことである。確かに彼等はよく働く。8時から5時までをフルに仕事をしている。Pomerat教授の研究室もその例外ではない。但し彼が常に追い廻しているので,働かされているという感じも深い。だがテクニシアン達は給料を貰つているのだからその人のために働くのは当然だと割り切つている。一方雇主の方の教授も,彼等を遊ばせておくのは wasting moneyだとハツキリ語つたことがある。朝に割当てた仕事が4時に終れば,直ちにもう1時間分の仕事を与える。ところが,こゝに3人の例外がある。私は彼等をPomerat教授の3羽烏と呼んでいた。何れも5年〜8年と教授と共に仕事をして来た人達であつて,教授が安心して仕事をまかせておける人々であり,彼等なくしては教授の研究は殆んど完全に停滞してしまうであろう。秘書のMrs.Fowlerは孫のある年輩,教授室の入口に頑張つている。教授の日常の雑事は殆んど自動的に彼女がさばく。論文原稿は教授の口述するのを速記または直接にタイプする。掲載誌による投稿規定の相違も心得ているので論文の体裁を適当に修正することも彼女にまかせきりである。会計に始まつて,教授の旅行のための飛行機,ホテルの予約一切に至るまで,全くよろず引受け役としての彼女の活躍振りは相当なものである。

第1回燐酸代謝班研究協議会報告

著者: 奥貫一男 ,   高橋泰常 ,   関根隆光 ,   真野嘉長 ,   中尾真 ,   中村道徳 ,   中脩三 ,   塚田裕三 ,   緒方規矩雄

ページ範囲:P.43 - P.45

 文部省科学研究費による綜合研究班「ATPその他燐酸化合物の生体内の意義」の第1回研究協議会は,7月26日(木)午後1時30分より学士会館(赤門前)で行われ,各班員の業績発表に対して熱心な討論がなされ,今後の研究班の綜合的研究活動に資するところ大であつた。以下はその要旨である。紙数の都合で討論は省略した。
 1.ATPの酵素的定量法についての検討
 ATPを生体から抽出し,粗標品のまま定量するためには,ATPに特異的に働らく酵素反応を用いる必要が生ずる。その酵素反応は,ATPに特異的であることが必須条件で,反応が一方的に進行することが望ましい。

研究室から

私たちの研究室—順天堂大学医学部生理学教室

著者: 竹内宣子

ページ範囲:P.47 - P.47

 お茶の水の駅近い神田川に臨む一劃に,順天堂大学の幾つかの建物が並んでいる。その奥まつた一角に建つ鉄筋4階建の五号館の最上層が我が生理学教室である。何時も金色に磨かれた階段の金具を踏んで4階まで登りつめると,白い壁,光る床,その両側に8つのドアが多くは静かに閉されて並んでいる。幾つかの実験室は時に実験中暗室となり,ドアのガラスの内側は昼間でも暗い。まして"実験中,静かに!"などというはり紙が出されるに及んでは,始めての来訪者は恐らく一瞬戸惑われるであろう。しかしドアを開けて一旦中へ入ると,明いグレイの天井と床,白い壁,螢光燈といずれもなかなか近代的感覚の部屋である。そして教室発足して5年という短い歴史にしては,どの実験室もまあ一応のものが備つている。今年度から第一生理,第二生理の2講座に分かれた。2教室としてはまだまだスペースが足りないので色々のものが所狭ましと置き並べられている。それが一層充実感を与えるのかもしれない。しかし教授1人,助教授1人,助手1人で,殆んど無一物から発足した当時を思えば,僅かな月日の間にこれだけに発展したことを感慨深く思わずにはいられない。現在,坂本教授,真島教授以下教室員12名,助手も新しく若い3人を迎えた。古い歴史はない。建物も机も実験装置もまだ新しい。今我々の手で新しい教室の歴史をきずいているわけである。研究の方も軌道に乗りつつある。

基本情報

生体の科学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1883-5503

印刷版ISSN 0370-9531

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up
あなたは医療従事者ですか?